01 振り返った先には、
ふと、誰かに後ろから呼ばれた様な気がして、足を止める。
振り返った時には、そこは既に俺の慣れ親しんだ世界では無かった。
瞬き一瞬にも満たない時間で切り替わった視界には、見覚えの無い森が広がっている。
背後を振り返ると、背の高い壁が遠くまで続いている様に見える。
視線を戻した前方には、木漏れ日の差し込む清閑な森が広がっている。
(さっきまで、確かに住宅街を歩いていたはずなのに……)
太陽の位置を確認しようと上を見上げたら、おかしな景色が目に入った。
空に浮かんでいるのは、大きさの違う二つの太陽。
大きい方は橙色で、小さい方は黄色み掛かった白色をしている。
(ん~、俗にいう異世界転移ってやつだろうか?)
とりあえずじっとしていても何も始まらないので、壁沿いに歩いてみる事にする。
(あまり景色も変わらないし、定番のモンスターに襲われる。って気配も今の所皆無だし)
(……そもそも、森から生き物の気配がしない気がする)
そう言えば、異世界転移ものには付き物の確認方法があったのを思い出した。
(ステータスオープン)
何となく心の中で呟いてみただけだったのだが、予想に反して眼前に半透明の板が出現したので、とりあえず、内容を確認してみる。
名前:黒峰 琥珀
種族:純人族(?)
年齢:14
職業:ーー(異世界人)
色々気にすべき項目があったが、琥珀が一番気になったのは、括弧内にあるのが他の人に見えないとするなら、俺の職業って無職なの? であった。
……すぐに自分なりに何か納得できる答えにでも辿り着いたのか、琥珀は一つ頷いてから、残りのステータスを確認する。
体力:そこそこ多い
魔力:凄く多い
とても漠然とした表示だった。数値とかじゃなかった。
スキル:想像魔法 鑑定 学習 冷静
これまた突っ込みどころ満載のスキルがでた。
色々と言いたい事はあったが、全部見てから後で考えよう。
称号:ウィタールの寵愛 越境者
何故だか知らない間に、会った事も無い何かに寵愛されているらしい。
多分この世界の神的な存在だろうとは思うが……普通は加護とか祝福なんかじゃ無いんだろうか?
多分、その横の越境者は、世界の境界線を超えたとかだろう。
詳細が知りたかったので、とりあえず、魔力の項目に意識を集中させてみる。
すぐに説明の様なモノが浮かんだ。
【魔力】
この世界の人間の中では規格外の量。大抵の魔法は気にせずバンバン使えるよ。
魔力のまの字も感じられないが、沢山使えるらしい。
他の気になる部分も見て見る事にした。
【体力】
一般の冒険者に比べれば多めで、自己治癒力も高い。病気も安心な丈夫な体だよ。
【鑑定】
気になるものについて、詳細を知る事の出来る能力。
【想像魔法】
魔力と引き換えに、望んだ物を作り出す事のできる能力。
【学習】
学んだ事が身に付きやすくなる能力。
【冷静】
何事も冷静に受け止める事が出来るよ。
【称号:ウィタールの寵愛】
魔術を司る男神、ウィタールに愛されている証。
【称号:越境者】
異世界言語を自動で脳内変換してくれるよ。異世界でも安心だね!
やけに砕けた説明文を確認し終わった所で、魔法が使えるか試してみる事にした。
(この場合、最初に使用するのはファイアーボールとかで良いのかな?)
とりあえず、周りに燃えやすい物が沢山ある森で火を使うのは危ない気がしたので、水を使うことにする。
「ウォーターボール」
そう口に出した瞬間、不思議な感覚とともに、体から1m程前方にバランスボールぐらいの大きさをした水の球が浮かんでいた。
流石にそのままでは大きすぎるので、先程の感覚を頼りに試行錯誤を繰り返す。
最終的には、何とか掌サイズの大きさにする事に成功した。
その後は無詠唱を試してみたり(普通に出来た)、水の球を浮かせるだけじゃなくて攻撃に使えないか試してみたり(近くにあった樹の幹を貫通した)、初期位置を変更できないか試してみたり(望んだ通りの場所に出せるようになった)、口をつけて飲めるか確認してみたり(ビックリするぐらい美味しかった)、思っていたより簡単に色んなことが出来るようになったので、戦闘能力ゼロじゃないとわかって、ちょっと安心した。