93、選択の前に
少年は、初めて嬉しそうに笑った。
「当然! 君は含まれない!」
「だろうな、そうで無ければ最初の選択は無いよな……」
「それでも寂しくは無いように、君の友達を僕が創造してあげるから、それでも全然問題無いよ」
「お前は神なのか?」
「どーだろうね? どー思う?」
「そうだな、俺が神となったら、お前はどこに行くんだ?」
「僕は、君が神になったら、この部屋から出て好きにさせて貰うとするよ」
「そうしたら、その後で皆を解放する事は……」
「そうだね、出来ないね」
金色の瞳が鋭く俺を見据える。
選択するのは、金か神か栄光かと言った所か……
そのどれを選択すれば、俺の望みを叶える事が出来るのか。
いや、結局どれを選んでも……
「気付いたかな? 君はどの選択を選んだとしても結局君は自らの一番叶えたい願いは叶わないんだよ」
「一つだけ聞いて良いか?」
「一つと言わずに、ここまで到達出来たんだから、何でも聞いても良いんだよ、時間も沢山あるしね」
「チイユは実在するのか?」
「また、チイユと…… 仕方が無いから教えてあげるけど、チイユは実在するよ、チュウタと言ったかな? あの男が言っていた事が真実なんだよ」
「つまり、チイユはチュウタの妹で、実在すると?」
「誓ってその通りだよ、だから君が全ての人々の解放を選べば、その選択にチイユは含まれる、から、君とは二度と会えない、そして君だけの解放を願えば、或いはチイユもここに辿り着き同じ選択を行えば再び出会えるかも知れないが、元の世界に還った君達にはここでの記憶は無くして貰うからね、スマホゲームで莫大な金を手に入れたという記憶しか残らないから、果たしてチイユと出会ってまた同じような関係になれるのかは疑問だけどね」
「神を選べば、永遠の孤独と言う事か……」
「そーでも無いよ、結構これはこれで色々大変だし、遣り甲斐は当然あるんだよ」
再び景色が変わる。周囲は飛竜を倒した最初の、あの洞窟へと姿を変えた。
そこに、次々に数体の飛竜が現れる。
身構える俺に、落ち着くように少年が言った。
飛竜は、まるで猫や犬のように少年になついている。
サイズも実際に猫や犬位の大きさに変わっていて、少年と戯れている。
「君も少しは驚くんだね? 当然だろ? 僕が創造したんだから、僕の思うように動かせるんだよ」
気付くと、俺の知らないモノも含めて12体の眷属が、同じように犬や猫の大きさで俺を囲んでいた。
それに気を取られていると、再び真っ白な部屋に戻っていた。
「ね、楽しいでしょ? 考え次第では、どんなシナリオだって自由自在だよ、僕が考えた世界とイベントで、君達はルールに従ってこの部屋に辿り着き褒美を得るんだよ、素敵なシステムだろ? その神に君はなれるんだよ? 孤独でも、孤独じゃ無いんだよ」
言ってる事は理解出来た。
「この世界は、俺達が居たあの世界とは別の世界なのか?」
「良い質問だね! でも、君、一つだけって言わなかったっけ? 別に良いんだけどね」
次に変わった景色は、宇宙を漂う宇宙船の操縦室の様な所だった。
「これが、真実だよ!」
「この世界は宇宙船とでも言うのか?」
「流石にここまで来ると飲み込みが早いね! その通りだよ!」
少年は、ゆっくりと歩き操縦席の様な所に腰かけると、手を伸ばした所にある、両手にすっぽりと収まる二つの玉を握りしめた。
「この宇宙船は地球半周程度の、全長約250,000,000㎡で、全てが極小の機械によって構築されているから、すべての創造が僕次第なんだよ」
「ただね、その全てが法則によって成り立っているんだけど、君がその法則の主たる、金色の扉を破壊してしまったから一旦全てが壊れてしまったからどちらにしても再構築が必要なんだけどね」
「崩壊って! 皆は無事なのか!?」
「無事と言えば無事だけど、記憶に混乱が生じると生命活動そのものに矛盾が生じるから、ここに来る前の状態に記憶はリセットさせて貰うよ」
「記憶をリセットって…… 俺のせいなんだよな?」
「君のせいと言えばせいだけど、解放されるんだったら結局ここでの記憶は無くなるから、解放が早まったと思うのであれば、君の栄光と言えるんじゃ無いかな」
外を見ると、すぐそこに真っ青で綺麗な星が輝いていた。
何の為にこんなモノが作られて、なぜ俺達がこの世界に囚われ、何の為に俺は選択をしなければならないのか、考える事が、知らなければならない事が沢山ありすぎて今すぐになど決められる分けが無い。
それでも少年は選択を迫ってくる。
「とりあえず、さっきのコーラを飲ませてくれよ、それに食いたいモンもあるし、聞きたい事が沢山あるんだ」
「その前に君の選択を聞かせてくれないか?」
「イベントは全部終わってるんだろ? それともこれも何かのイベントか? 違うんだったら、時間も沢山あると言ってた事だし、食事でも一緒にどーだ?」
「確かにね、僕が言ったことだ、時間なんていくらでもある」
少年はそう言うと、パチンッと指を鳴らし、それと同時に宇宙空間に浮かぶ全面透明な部屋に周囲が姿を変えた。
「地球を肴に、酒でもどーだい?」
「これは、最高の贅沢だ! だが、お前は酒なんて飲んで良いのか?」
「僕はこう見えても既に年齢は四桁を越えているからね、何の問題も無いよ」
そーだったな、この少年の事についても聞く必要があるな。
俺は地球の美しさに見とれながら、右腕を前に差し出した。
「何が飲みたいんだい?」
「まずはコーラだな!」
そう言った俺の手のひらの中には既にコーラの入ったグラスが握られていた。
「流石! 神様スゲーけど、とりあえず名前を教えてくれねーか?」
「僕? 僕の名前なんて、なんだっけ? 暫く名のって無かったから名前なんて忘れちゃったよ」
「だったら俺が名付けて良いか?」
「それだけは絶対にやだね! だったら僕が名乗るよ、そーだなぁ……」
少年は暫く考え込むと、ガラスの部屋いっぱいにありとあらゆる料理を創造して見せた。
その中には当然のように、俺が食べたくて仕方が無かったラーメンや、ハンバーガーもあった。
「僕は、イフ、この世界の創造主だ」
「イフか…… こだわったわりには単純だな」
俺が笑って見せると、俺の目の前は、蛇や虫等とても食べられそうも無い料理で満たされた。
「ごめん、俺が悪かった……」
「分かれば良いんだよ!」
そう言って笑って見せるイフは、とても四桁の年齢には見えなかった。




