86、全てを失うモノを愚か者と呼ぶのだろうか?
「なぁ、何もかもぶっ壊して良いか? もう良いよな?」
俺は天井に向かって問いただした。
当然そこに誰かが、何かがいる分けでは無いが、聞かなければやってられなかった。
俺は信じた。
何を信じたかって言われたら、満足に答える事は出来ないだろうが、エンディが言ってた事に嘘は無かったと今でも信じてはいる。
しかし、その言葉の中に、計画に俺を騙す事が必然だと思っているのであれば、それほどおもしろく無い事はない。
俺は、この世界に来て力を手に入れた。
欲しくて欲しくて堪らなかった、圧倒的で、何もかもを叶える為の力を手に入れた。
こんな力、現実の世界ではあり得るハズは無いとずっと考えていた。
それでも手にした力で守りたいモノが出来た。
叶えたい思いが芽生えた。
何かを諦める事で、何かを我慢する事で、本当に手に入れたいモノが手にはいるのであれば、守りたいモノを守れるのであれば、それも良いかと考えていた。
考えていたのに……
「どーして俺を騙したんだ? 良いよ、見せてやるよ、お前が敵に回したく無いと言った力をここに示してやるよ!」
俺は、腰にかけた大道具入を握りしめ勢い良くひっくり返すと、瞳を閉じ、最上層に相応しい魔力が渦巻く空間で、勢い良く右腕を付き出した。
金色の金貨が止めどなく大道具入から溢れだす。
止まる気配は無く、瞬時に辺り一帯を満たして行く。
誰を敵に回したくないと言ったのか、こいつは覚えているのか?
命だろうと、何だろうと蝕んで、神にでも悪魔にでもなってやるよ。
「古よりも深きモノ
太陽を飲み込む漆黒の闇よ
今、同刻の断りを破りて
汝の力を示さん
我、
汝と交わり世界に災厄と希望をもたらせるモノ
闇を深く、光を遮り、刻を奏でよ
金は満たされた
我、刻を満たすモノなり
我の声を聞け
我に力を与えよ」
「災厄と希望の神よ
我の意思と、金色の力を得て、今ここに顕現せよ!」
周囲を満たした金貨や大金貨が光輝くと、俺の腹部から魔方陣が浮かび上がり、回転するように右腕を辿り俺の正面へと構成され、次々にその模様を重ね巨大化してい行く。
魔方陣は広がりきったように一度眩く光輝くと、金色の髪に、金色の瞳を輝かせる長髪の少女が魔方陣を通り抜け現れた。
クククっと、笑う少女は、俺と会話を交わすでもなく、何をやろうとしているのか、まるで俺の考えを実体化するように、一本の短刀を造りだし、絶対不可避のイベント達成の褒美とも言える、金色の扉をゆっくりと突き刺した。
今まで何をやっても反応が無かった扉に亀裂が入る。
「ホントにお前と言うやつは何でも有りなんだ」
「そうじゃよ、何でも言えば良い、ジン様よ、お前の願いと言うのであればこの世界終わりでさえも叶えてやるぞ?」
扉の亀裂が次第に大きくなり、ついには粉々に砕け散った。
「エンディ、これで満足か?」
当然返答は無く、答えは暗闇に染まる、最上階に虚しく俺の問いだけが響く。
「ジン様よ、お前はこれで満足なのか?」
「あぁ、これで良い」
「他には何か無いのか?」
「帰るとするか?」
俺は、災厄と希望の神に微笑みかける。
直後、金髪の長い髪を振り乱し、俺に抱きつくと、貪るように俺の唇を吸ってきた。
何の前触れも無しに、何の迷いも無しに行われるその行為は、獣が獲物を貪るようにひたすらに繰り返された。
「フフフ、戯れなどで、軽々しく神を呼び出した報いじゃ」
そう言うと、災厄と希望の神の口は糸を引き、ゆっくりと俺から離れた。
「何をしたんだ?」
「可笑しな事を言うのう? ジン様よ、お前は何がやりたかったんじゃ?」
「何がって……」
「ジン様よ、お前が行った事は、神への反逆、神の冒涜、神への見せしめじゃ、そして妾への裏切りじゃ……」
「裏切るって何を?」
「それが分からないから、妾は悲しいんじゃ」
分からねーよ。
何だよ、どいつもこいつも。
俺はただ、俺を騙して裏切ったエンディを永遠に扉の中に葬りたかっただけじゃねーか。
「その為に、ジン様よ、お前はやってはならぬ、決して犯してはならぬ、この世界の理を犯してしまったんじゃ」
「だからどー言う事か分からねーって言ってるじゃねーかよ!」




