81、王との契約
夢を見た。
何もかも真っ白な部屋で、青い髪の少女と話をする夢だった。
何を話したかは覚えていない。
俺が一方的に話をして、青い髪の少女が笑顔で話を聞いてくれていたという事だけは覚えている。
夢は他にも見た。
昔の夢だった。
朝から晩まで毎日毎日勉強して、誰とも遊ばずにひたすらに頑張って、受験して希望する大学に受かって、それで結局そのタイミングで親が破産して入学金が用意出来ずに次の日からアルバイト生活が始まったという夢だった。
あの頃は本当に荒んでいた。
何もかもどーでも良くて、何もかもが壊れて欲しかった。
人の不幸を喜び、人の幸せを妬んだ。
そんな生活を何年も過ごしていたそんなある日、チュウタに出会った。
最初は、知らないおっさんが食事をご馳走してくれるという摩訶不思議な出会いだった。
それから何がどーなってこうなったのか、実際にあった過去の出来事でも年月が経過すると詳しく思い出す事は出来なかった。
「やあ、おはよう、所で君はどうしてないてるんだ?」
気が付くと、ベットで上半身だけを起こし壁を見つめて泣いていた。
この涙がどこから来たものかは分からない。
ただ、もうあんな惨めな気持ちはしたくない。
俺は、他人の事など、ましてやこんな世界の良く知らない人々の事などいつから大切になったんだ?
確かに、知ってる奴等、ここに来て出会った奴等は大切にしたいという気持ちに偽りは無い。
だったら、そいつらを守れば良いんじゃねーのか?
こいつが神になって、俺がどんな願いでも叶えて貰えるんだったら、何も問題ねーんじゃねーのか?
「少しは気持ちの整理が出来たか?」
「あぁ…… 俺は、お前に力を貸そう! でもな、俺を裏切ったら絶対に後悔させるからな!」
「それは良かった! 断ればこのまま無抵抗の君を痛めつけて殺すか、拷問して監禁して、無抵抗なチイユに働いて貰わなければならなかったからね」
「お前、今なんて…… ?」
「気にしなくても大丈夫! 君は私の誘いを受けた!」
ガチンっ!!
金髪の男が満足そうな笑顔で微笑むと、何も無い空間から突然現れた枷が首にはまった。
「それは、“スロウ・ベイズ”のスキルだ! 俺との契約を交わしたモノに取り付けられる首輪だよ」
「な、お前何をしたんだ! これは何だ!」
「君が私を裏切るような事があれば、その首輪が君のスキルと魔法を全て奪い私に献上してくれるんだよ」
「そんなめちゃくちゃなスキルがあるのか!?」
「そう! 元は、アイテムのトレードを正確に行う為のモノだったんだけど、なぜか彼女にそのスキルが与えられてね、重宝させて貰っているよ」
「改めまして、シンエツ共和国の官女筆頭“スロウ・ベイズ”と申します」
深々と頭を下げるのは、昨日俺の身の回りの世話をしてくれて、俺の全身の隅々まで洗ってくれたメイドのリーダー格の女性だった。
紺色の長い髪を束ねて、頭の上で団子を作っているが、そこに収まりきれない長い髪がはみ出して垂れている。
紫の瞳に、つり上がった目がキツい印象を受けるが、時折見せる優しい表情が癖になってしまうほどの徹底したS感が際立っている。
高身長で長い脚を昨日までは、長いたけのメイド服で隠していたが、昨日とは変わり、今は膝上丈のマイクロミニスカートで、小さい女の子の背丈程はあるのでは無いかと思わせる白く長い膝上までを隠す靴下をはいている。
「親しきモノから“スロベイ”と呼ばれております、ジン様もそのようにお呼び頂いて構いません」
「ジン君! 君には彼女から片時も離れず過ごして貰う必要がある、その首輪の効力を維持する為にね」
「もしも離れたらどーなるんだ?」
「簡単な事ですわ、ジン様、あなたはスキルと魔法を全て失い、その力は消えるだけ、エンディ様の元にその力を与える事は出来ず、ジン様の存在は無駄なモノとなるだけです」
「エンディ様?」
「そうなんだ、私の名前はエンディと言うんだ、しかし私の名前はそれだけで価値がある、誰にも言ってはならないよ」
「あぁ、分かった」
どうして、お前はそんなに口が軽いのかとスロウがエンディに叱られている。その光景に違和感しか無かった。
さっきまで、Sっ気剥き出しだったスロウが、涙を浮かべ急にしおらしくなっている。こんな表情俺に見せた事など無かったからだ。
「それで、俺は何をしたら良いんだ?」
「とりあえずは何もしなくて良いんだよ」
「どういう事だ?」
「ジン様、エンディ様は常々仰っておりましたわ」
「何をだ?」
「ジン様に動かれては困ると」
「だからどういう事なんだ?」
「正直、私のプランは順調に進んでいたんだ、君の協力もそんなには必要ない、ただ私達がやろうとする事を邪魔しないで欲しいだけなんだ、がっかりしたかい? バリバリと働くつもりだったか?」
「そんな事はねーよ、何もしなくて何でも願いが叶うとか、そんな事があるんだったら良い事だけどさ、そんな都合の良い話があるんかなって思っただけだよ」
「それだけの力も、それだけの資格も君には揃っているんだよ」
「あとは、スロベイに任せてあるから、ゆっくりとこの国を観光でもして来ると良い」
エンディはそう言うと、部屋から出ていき、俺はスロウと二人きりになった。




