80、面倒なメイド
無いかと聞かれれば、正直な所興味はある。
元の世界で何度も思ってきた事がある。
どうして俺ばかり、どうして俺だけこんなに頑張っているのに報われ無いのか? どうして俺だけ、どうしてあいつらばかり。
この世界には神などいない。
いたとしても、この世界の神は俺には優しく無い。
そんな神は殺して、俺が神になってやる。
色んな事を考えた事がある。
しかし、それが現実に叶うとして、俺は神になって何をする?
皆に平等な世界でも作るのか?
俺の好きなように出来る世界を作るのか?
何もかも、俺の自由に出来て、俺の好きなように出来る世界を作るのか?
「君はこの世界の神になれるとしたら、どうだい? なりたいとは思わないか?」
「そんな方法があるんだったら、なってみたいもんだな」
「だーから! “神の宝具”を揃えればなれると教えてあげたじゃないか!!」
男は椅子から立ち上がり、地面に頭を下げる人々に両腕を広げる。
すると、こちらを見ていないにも関わらず、人々は何かを感じとりどよめきだす。
歓喜に震え、涙を流す人々の声が大気を震わせここまで響いてくる。
「どーだろう? 見たかい、この景色を」
「一国の王になるだけで、この景色を拝めるんだ、神になればどのような景色が見れるのか、それだけで私はこの胸が震えるんだ」
男は、広げた手を下ろすと振り返りゆっくりと椅子に再び腰かける。
「しかし、こんな話をして申し訳無いが、神になるのは私だよ」
「っ!?」
驚き声が出ない俺に、その反応は当然だとして男は話を続ける。
「ジン君、君には君の力を見込んで、私の片腕となって私が神になるのを手伝って貰いたいんだよ、チイユにはもう片方の腕となり働いて貰いたいと考えている」
「何を言って?」
「当然! ただでとは言わない! 私が神になったその時には、君の願いを何でもいくつでも叶えてあげるよ!」
男は再び立ち上がる。
「そう! 私は、神の視界というモノに興味があるだけなんだ!! それが叶うのであれば願いなど、全て君にくれてやるから、どうだろうか? 私の片腕となって力を貸す気にはならないだろうか?」
次から次に溢れてくる考えで、頭の中がぐちゃぐちゃになる。
疲れていたのも確かだ。
この世界に来て、ひたすらに何かを成すために必死に歩いて来た。
その結果辿り着いたこの場所で、力を貸せば願いを何でも叶えると言ってくれているんだ。
この男が言っている事を嘘だとはとてもじゃないが、少しも考える事が出来ない。
なぜだろう? 全て言っている事が、自然と真実だという風に感じてしまう。
本来であれば、今すぐ飛び付きたいような話だが、すぐに飛び付け無いのは、あの地獄の状況を見た後だったからだ。
あれを起こした中心人物は、間違い無くこいつだ。
そんな男と共に歩む道が正しいモノだとは思えない。
それでもだ、もしも、失った命も、与えられた苦痛も、悲しい思いも、苦しい思いも全て無かった事に出来て、全てをリセットして素晴らしい世界を作る事が出来るのであれば、過去の惨劇など考える必要さえも無いのか。
「うーん、賢い君の事だ、多分君が考えている事、その全てが正解だと思うよ、しかし決めかねているのは、状況が状況なだけに、この展開についてこれていないだけだろう、少し城で寛ぐと良い」
男は部屋へと入り、代わりに数名のメイド服を来た女性が出て来た。
「どうぞ、こちらへ、ご案内致します、ジン様」
メイドのリーダーであろう一人が深々と頭を下げ俺に手を差しのべる。
その手を取ると、勢い良く立ち上がらせ、部屋の中へと歩みを促した。
しかし、この中華風の建物にや景色に色使いの中で不釣り合いなメイドを雇っている男の事を信用して良いのか?
俺が現状で一番疑問を抱いたのはその事だった。
そんな事はお構い無しに、メイド達は俺の服を脱がしにかかる。
当然、何をやっているんだと拒む俺に、このままでは汚いので風呂に入って頂くと、まるで子供の服を脱がす母のように黙々と俺の服を脱がして行く。
全て剥ぎ取られると、浴場へと案内された。
天空庭園のようなその場所は、まるで中に浮いた庭園のように錯覚を覚えてしまう中庭だった。
その中庭の中央に、池と言われても違和感が無いほどに大きな湯船があった。
当然のように、湯船に浸かる前には身体を洗う必要があるとメイドのリーダー格の女が言うと、付き従うメイド達が突然に服を全て脱ぎ捨て、俺の身体を洗い始めた。
なぜ服を脱ぐのかと俺がリーダー格のメイドに問いかけると、お湯と石鹸で大切な服が汚れるからと言われ妙に納得させられてしまった。
当然そう言われるだけでは納得出来ないが、このメイドのリーダー格の女には、疑問を抱く事を許さんとする特別な圧力があり、従わざるおえなくなってしまう。
文字通り身体の隅々まで洗われると、俺の身体についた石鹸の泡を綺麗に洗い流し、何事も無かったかのように、メイド達はその場で身体を拭いて服を着始めた。
その光景を眺めていた俺に、早く湯に浸かるようにと、無理矢理に身体を沈められた。
風呂上がりは、当然の様に全身を綺麗に拭かれ、なぜか用意されたアロハシャツに着替えさせられた。
ボタンの最後の一つを止めるまで、全てをメイド達が行ってくれた。
「ジン様? それでこれからどうなさいますか? 食事ですか? お出掛けですか? それとも、お望みとあれば好きなメイドを選んで一緒に眠る事も出来ますが?」
「な、何を言ってるんだ?」
「ジン様は特別にと仰せつかっておりますので、希望とあれば、私の身体を弄ぶ事も可能ですが、如何致しましょうか?」
「飯だ! 俺は腹が減った! 特別旨いものを喰わせろ!」
「あら、旨いものだなんて……」
メイド達がリーダー格の女を囲み拍手を送る。
「違う! お前じゃない! 本当に腹が減ったから食事を用意してくれ!」
「あら! 私とした事が、失礼致しました、ジン様」
「そうだ! 勘違いだ、分かったら食事だ! 早く用意してくれ!」
「そんなに慌て無くても、食事も私達も逃げはしませんよ」
全く会話が成立しないが、何となく伝わりはしただろう。
暫くの間、何も食べて無いんだ、とにかく何か食わないと、頭も働かない。
俺は、メイドに案内されるままに、朱色に統一された部屋へと案内され、豪華な中華料理を堪能した。
メイドから考えて、ここも何かファミレス的なモノが出てくると思っていたから、本格的な中華料理に大満足だった。
夜のお供は誰にするかと、何度も訪ねてくるメイド達に別れを告げて、最初に案内された、体育館程の広さのある部屋を断り、俺は落ち着きのある6畳程の部屋でその日は寝る事にした。




