77、交錯する思い願い
「街の人々が死んで、建物が粉々になって、この状況を見て何も感じないのか? 正直に答えろよ?」
「可笑しな事を言う…… お前も目的の為に……」
「ジンさん! ダメっす!」
「何がダメなんだ? 俺は、俺の質問だけに答えろと言ってやったんだが?」
“黄金天使”が手に持つ槍を受けとると、鎖を解いてルシアンの手を重ね地面に固定すると、そのまま槍で突き刺した。
ルシアンの表情が苦痛で歪む。
「痛いか? 痛いだろ? もう一度だけ言う、聞かれた事だけに答えろ」
「……分かった」
「お前は誰かの差し金で動いてるのか? 自分の意思か?」
「自分の意思だ」
「何の為にやった?」
「“神の宝具”を集める為だ」
「集めたらどうなるんだ? 何の為に集めてるんだ?」
「元の世界に帰る為に…… 娘にもう一度会う為だ!」
それまで淡々と答えていたルシアンの声が大きくなり、空気を震わせる。
溢れる魔力に槍が振動する。
「誰か俺が死んだら泣いてくれるか?」
「ジン様! ジン様が死ぬんだったら私も死にます!」
「神よ! そのような事を仰らないで頂きたいぃぃぃ」
「ジンさん、どうしたんすか!?」
「周りを見てみろ! 誰だろうと、大切に思ってくれてる人が居るんだ! 奪って良い命なんて、奪われて良い命なんて、失って良い命なんて無い! 絶対に!!」
「それは…… そんな事は分かっている!!」
「分かってねーよ! お前の望みは俺が叶えてやるから、大人しくしてろ!」
「スキル発動! “金塊の暴食”」
俺の流動した金貨を飲み込んだ俺の身体は即座に金色に輝き始めた。
待機していた“黄金天使”達の輝きがさらに強く増して行く。
「纏いし色は若葉の緑、眠り目覚める大地に炎を灯さん」
続け様にサティを召喚する。
魔方陣が展開され飛び出て来たサティは、いつもの猫の姿では無く、始めて出会った少女の姿で顕現された。
それと同時に“黄金天使”達に黄緑色の炎が灯される。
再び街に散開して行った“黄金天使”達は瓦礫をどけ、泥をはらい、次々に息がある人々を全快して行く。
助かった人々は、まだ取り残された人々を救おうとするが、それさえも追い付かない早さで“黄金天使”達が人々を救って行く。
その様子をいつの間にか目覚めたルーディーが、奇跡だと仰ぎ天を拝んでいる。
「これ程の力が、この世界にあったのか?」
「そうっすよ! ルシアンも困ったら早くジンさんに頼れば良かったんす」
「そうだな…… こんな奴が居るんだと知っていれば、我も王になどなろうとは思わなかったんだがな……」
「そうっすね…… これからどうするんすか?」
「この男に託してみても良いのだろうか?」
「ジンさんは凄いんす! だってオイラが大好きなジンさんっす! でも、託したらダメっす! 今回の事はしっかり反省して、これからはジンさんに尽くすっす! 良いっすね!」
「あぁ…… そうだな」
人々の歓声とざわつきで、この時の二人の会話を聞き取る事は出来なかった。聞こえなくても、叶えてやると言ったからには、ルシアンの為に“神の宝具”を集めてやろうと、そして元の世界に還りたい人々の願いを叶えようと考えていた。
しかし、それを拒む者が現れた。
街の人々を癒し、街を失った人々を要塞都市クリオネに一時避難が出来ないかチイユに相談し、入りきれない人々はヴァルハへと避難させる事にした。
その上で、この瓦礫を片付けて再建する為にヒビキの力を借りる事になった。
なったと言うのは、最初の提案こそ俺の発言だったが、そこから先はチイユが仕切り、全ての準備が整った。
きっと要塞都市クリオネが建設された時も、こんな感じで皆を纏めたのはチイユなんだろうなと自然と理解出来た。
ルシアンと、もう一人の男に関しては、今すぐ解放する気にはなれず、さらに厳重に拘束して、要塞都市クリオネへと同行させる事にした。
その時にサティの炎でルシアンの手の傷は癒した。
「これで、一件落着っすか!」
「あぁ、やる事は沢山出来たけどな」
皆も力を貸してくれよと、俺が振り返ると、そこにはサティに癒され完全に回復し、絶句して硬直するルーディーの姿があった。
「シズネ……」
そこには漆黒の鎧を身に纏い、兜を脇に抱え人々を先導してくるシズネの姿があった。
その姿に一番驚いたのがルーディーだった。
「シズネ! シズネ! シズネ!!」
ルーディーは何度もシズネの名前を叫び駆け寄ると、そのまま抱き締めた。
「あ…… な…… た…… なの?」
「そうだよ、俺だよ!」
「っ!? ジャンは! ジャンは一緒なの!?」
「大丈夫だ! ジャンはここには居ないが、絶対に安全な場所に置いてきたからな、大丈夫だ、もう大丈夫だ! それに俺達には神がついてくれている!」
「神? ジン!」
「バカっ! お前神に向かって呼び捨てるなどと、俺が許さないからな!」
「バカはどっちだ! バカは!」
「バカとは何だ! 夫に向かって!」
まるで、夫婦漫才のような掛け合いが暫く続き、俺は周囲の警戒をしながらも少しだけ気が緩んでしまった。
だって、しょうがねーだろ? ずっと離ればなれだった夫婦がこんな異世界で、やっとの思いで出会えたんだから。
しかもその出会いで感動に浸るのでは無く、お互いで罵り合いながらもその表情は満たされ、笑顔が溢れ、涙を流してるんだから、そんな光景を見て気を緩めるなと言う方が無理がある。
しかし、敵はその気の緩みを見逃してはくれなかった。
ルシアンの足元の影が広がり、そのままルシアンは影に沈められた。
「カゲロウ!」
サティが慌てて炎を纏い影に飛び込もうとするが、地面に弾かれる。
「大丈夫っす! 行き先は分かってるっす! 追いかけるっす!」
「チイユ! 少し待ってくれ…… そろそろ“金塊の暴食”の効力が切れてしまう」
「分かったっす! まずは残った全員でクリオネへ向かうっす! 良いすか!!」
「いいや、ダメだ! この街の人々を避難させるのが先だ」
「そう言う事だったら俺に任せてくれ!」
ルーディーはそう言うと、加速した時の中にチイユを招き入れた。
俺が瞳を閉じて開ける間に全ての人々の避難が完了していたが、それとは変わって疲れ果てたルーディーの姿があった。
「ルーディーありがとうっす! それじゃ皆も行くっすよ!」




