74、例え何もかも失ったとしても
「スキル発動! “黄金の軌跡”」
俺達は、ありとあらゆるスキルを使って、チイユが造り出した透明な壁の突破を心みた。
ローヤは既に色々と試した後だと言う事で、どーせ俺達が何をやった所でこの壁を突破する事は出来る分けがねーと高みの見物を決め込んでいる。
「だったら、ローヤ、お前はどーやってこの壁を突破するつもりだったんだ?」
「えっ? だって、ヒビキの物質を変化するスキルでも無理だったんだよ、諦めるしか無くない?」
炎をチラつかせて言わせた事だから、ローヤが言っている事は間違い無いんだろうが、何かを考えていたからこの辺りに留まり、あんな鉄壁な町を建設してでも何かを成そうとしていたんだろうが、それを聞くのも時間の無駄か。
「なぁ、ローヤ、言いたくなったらで良いから、お前がやろうとしていた事を教えてくれ」
「どーだろうね? 僕は何も知らないよ」
「あぁ、お前と会話を交わす事がどれだけ無駄かを忘却の女神が教えてくれたからな」
「だったら、何でも試して、その壁を突破してみせなよ! そもそも僕に色々と偉そうな事を言ったり、やったりしてくれたけどさ、結局君も口だけで何も出来ないじゃないか!!」
「ローヤ止めとけ! それ以上言うと、俺の意思とは関係なく、お前が切り刻まれる事になる」
「そんな脅し僕が……」
僕が…… の、続きを言おうとしたローヤは口を抑えた。
本当に悪い癖なんだろう。しかし、そんな事はアオバ達には関係ない。
既に、アオバの薙刀の一降りはローヤの身体を通りすぎていた。
口を抑える腕もろとも、胴体が斜めに崩れ落ちる。
臓物が飛び散り、ローヤの視界が崩れて行くのが見ていても分かる。
「だから言っただろ! アオバ! お前も余計な事はするなとあれほど言っただろ!!」
「しかし、ジン様!」
「そうですぞ、神よ! アオバ殿がやらなくても、俺がやっておりました!」
「俺は、ローヤを殺すつもりが無いんだ! だったらこの後俺が、何をどーやって、結果何が起こり、俺が何を失うの少しは考えろと言ってるんだが、理解出来ねーのか?」
俺がアオバ達に説教をしている間にも、ローヤの顔から血の気が引いて行くのが分かる。そもそも、本当に死んでしまっては生き返らせる術を持ち合わせていない。
かなり前に、まだこの世界に来てチュートリアルを受けてた頃か、或いはもっと前か、ローヤに言われたような記憶がある。
死んだ者は復活しないと。
俺は慌ててサティを召喚して、ローヤの身体を結合して治癒した。
結果として、ローヤは大量の血液を失ったが、一命をとりとめる事が出来、俺は大量の魔力を失い、気に入っていた、黒い魔術師風のローブが血に汚れた。
身体を分断された本人は、一瞬の出来事で、痛みが身体に蔓延する前に治癒を施された為に、消耗を感じる事はあっても、拷問を受けた時程の苦痛も無く、癒された余韻で、その顔にはかなりの余裕がある。それが俺としてはまた腹立たしい所だが、ここから先はそんな事を気にしてられる程の余裕が一切無い。
「理解したか、俺がどれだけ大変か!!」
「申し訳ございませんでした……」
「分かったら、自重しろ! 自重っ!!」
「はい……」
俺に怒られ、今にも泣き出しそうなアオバを横目で捉え、俺は魔力を高まらせた。先に召喚したサティを一旦右手の甲の魔方陣に還し、高まった魔力を維持する。
炎を介した魔力の質とは明らかに異なる魔力にアオバが息を飲み、ルーディーは感動に瞳を潤ませ、頭を低くして俺を拝んでいる。
「ジン、君は一体何をしようとしてるんだい?」
少し前に、あれ程の事があったにも関わらず、俺に馴れ馴れしく問いかけるローヤに対して、アオバが薙刀を握る手に力を入れるのが分かる。
ルーディーに突っ込むのも、ローヤに説明するのも、アオバを制止するのも全て面倒で、それに今はそんなに余裕がある状態では無い。
ローヤの問いかけは無視してさらに魔力を高める。
迸る漆黒の魔力が地面を焦がす。
その段階まで来て、ローヤは漸く状況を飲み込んだのか、暫くぶりに煩い口を閉ざした。
「古よりも深きモノ
太陽を飲み込む漆黒の闇よ
今、同刻の断りを破りて
汝の名のままに、我が力を世界に示さん」
「神力解放」
俺の身体を漆黒の魔力が渦巻く。
渦巻く魔力は、周囲に黒い稲光を放ち触れたもの全てを焦がす。
「災厄と災難」
俺は二本の剣を顕現させ、その場で軽く降って見せると、漆黒の稲妻を帯びた風が剣の軌道上に吹き荒れる。
それを見た、カゲロウが慌てて影に逃げ込もうとする。
「カゲロウ! 逃げるのは良いが、次に会うときには敵だと言う事を理解してるのか?」
俺が突き出した剣先を見つめ、カゲロウは一瞬戸惑いながらも、意を決したように影に潜ろうとした。
俺も、別に今更逃げるカゲロウを捕らえる気にも、殺す気にもならなかったが、それでもルーディーとアオバがそれを許さなかった。
影に入ろうとしたカゲロウを、ルーディーのスキルで加速したアオバが凪ぎ払い俺の足元へと転がらせる。
ローヤが何かを言いたそうな様子だが、この二本の剣の前では、あの饒舌なローヤが口を開く事さえも出来ない。
当然だ、顕現させている俺本人でさえも、左目の激痛は勿論、迸る魔力は自身の魔力を簡単に凌駕してしまう借り物の魔力であり、この魔力が俺に向けていつ放たれるのかという恐怖に耐えなければならない。
その剣先を向けてもそれでも屈せずに逃げようとしたカゲロウには余程大切な理由があるんだろう。それは間違いなく俺にとってマイナスにしかならない。
それが分かったから、ルーディーとアオバがそれを阻止したという事も理解出来る。
しかし、この状態の俺は、手にしている魔力が尋常では無い為か、人外の力の為か、そんな細かい事が面倒になってしまう。
それ位だったら、そんな事だったらと、軽視してしまうのだ。
現状で、事の判別をするのも難しく、カゲロウをルーディーに捕縛しておくように指示を出し、チイユが造り出した透明な防壁に向かい合った。
これを破壊すれば、チイユに合う事が出来る。
ローヤの話では、この中は俺をエドに飛ばしたあの時のまま、時間が停止しているという事だった。
それ程の膨大な魔力とスキルを用いて、自身を犠牲に他者を守るチイユの凄さを改めて実感する。
「ジン!」
俺が感慨深い気持ちに浸っている所に、さっきまで恐怖で口を開く事も出来なかったローヤが俺の名を叫んだ。
今までに聞いた事が無い、ローヤの真剣で、大きな叫び声に、ただ事では無いと俺は身体を防壁に向けたまま、顔だけで振り向く。
「それを、壊したら、もう引き返せないからね」
「何だ、そんな事か、最初からそのつもりだし、言わなかったか?」
「何をだい?」
「俺は、例え何もかも失う事になっても、俺が守りたいモノ位は俺が守るんだよ」
「そうかい、だったら僕はもう止めないよ、君を認めるしかないようだね……」
あれだけの拷問を受けて、それでも俺と対等であろうとするローヤの心の強さに驚きながらも、そんなローヤに認められた事がなぜか少しだけ心地良かった。
そんな何とも言えない感情が奥から込み上げ、不意に俺は笑っていたらしい。
「ジン様!? どうかなされましたか?」
そんな俺を気遣うアオバがまた心地良い。
「何でもねーよ!!」
俺は二本の剣に限界まで高めた魔力を込めて、透明な防壁を斬りつけた。




