70、痛みと癒しと恐怖の後に
「酷いなぁ、どうしてこんな酷い事が出来るんだい? 同じ人間なのに、どうしてこんな酷い事が出来るのかなな?」
「お前は、理解してねーのか? 自分が俺なんかよりも余程酷い事をやってる事に……」
「僕が? 何かやったのかい? 僕はこっちの世界の人間を傷つける事はしても、同じスマホユーザーである冒険者達を殺すような事は一切やってないよ、そもそもジン、君はこの世界が何なのか、その後ろに居る、緑色の髪の女が何者なのか分かっているのかい? 君は、本当に眉一つ動かさずに人間を殺すような奴を信用してるのかい? だったら、多分君は既に人間じゃ無いんだよ……」
完全に見下して睨みつける俺に、言いたい事は全て言ってやったぞと、満足した様子でローヤはゆっくりと瞳を閉じた。
「さぁ、殺すんだったら殺してくれよ」
その一言を聞いたアオバが、薙刀を振り上げ、躊躇無くローヤの飛びかかる。その影に気付き慌てて、腕を掴み制止する。
「どうしてですか? なぜ止めるのですか?」
「この男にはまだ聞くことが色々ある、今殺されると、いや、殺され無くても余計な事をされると困るんだよ」
「申し訳御座いません!!」
アオバは俺の言葉を素直に聞き入れると、3歩下がり、片ひざを付いて頭を下げた。
「ローヤ? お前はこの世界の事を知ってるのか? 誰かの為に何かをしようとしてるのか? だったら話してくれないか?」
「……」
「俺にも、俺達にも力を貸せる事があるかも知れないだろ?」
「……」
「理解してるのか? 何をするか分からねーお前をこのまま行かせる分けには行かねーんだよ!」
「もぅ、うるさいな! だったら殺せば良いじゃないか! そこの俺の大切な仲間と同じように殺せよ! それで満足なんだろ、僕が君に教えてやることも、お願いする事何て何も無いんだよ!」
「……そうか」
何を言っても無駄な様子のローヤに俺は背を向けてアオバを通りすぎ、アオバが薙刀で一刺しした、影から這い出て来た男の前へと来た。
アオバは俺の言った言葉を忠実に聞き入れ、その間微動だにせずに同じ体勢を維持している。
「サティ!」
忘却の女神の髪を象る炎からサティが抜け出し俺の肩に乗る。
サティは俺の頬を一舐めすると、俺の考えを読み取り、肩から飛び降りると影から這い出て来た男へと飛び乗る。
ローヤは完全に目を閉じたまま、何をしているのか、こちらに関心も示さないようだ。
サティは自身の炎でその男を包み込む。
次第に傷口は塞がり、それと同時に、喉に詰まっていた何かを吐き出し息を吹き替えした。
意識が戻ると同時に、スキルを発動させ影に逃げ込もうとする男を、サティが尾の炎で拘束してその場に叩きつける。
その物音と、声を聞いて流石に、ローヤとアオバがこちらに視線を送ってきた。
「どうしてそのような……」
「アオバ! 少し黙っていろと言ったよな?」
「ですが……」
「ジン! それは? どういう事なんだい?」
「少しは話をする気になったか? まぁ、今さらお前が何を言った所で散々裏切って来たお前を完全に信用するなんて事は無理だが、それでも話だけでも聞いてやろうと言ってるんだ、殺すのがダメだと言うのであれば、殺すよりも辛い方法を幾つも持ち合わせているがな」
「……ホンットに、どうしてそんな酷い事を思い付くんだい?」
「簡単な事だよローヤ、俺は自分がされた事をお前達にも共有してやろうとしているだけんだが、優しいだろ?」
「狂ってるよ」
「あぁ、この世界は狂ってる、でもな、ローヤ、その世界において正しい事を貫こうとしていたチイユをお前は裏切ったんだ、その事について異論があるんだったら聞くと言ってるんだ? そろそろ理解出来たか?」
一瞬口元に笑みを浮かべたローヤに対して、忘却の女神がそっと右手を添えてローヤの下半身を下からゆっくりと灼熱の炎で焼いて行った。
炭化する脚を、慌ててサティが再生する。
二人はゲームでもやっている様に、焼いては再生する行為を暫く繰り返した。
途中まではそれでも自分の意思を貫いていたローヤも次第に、泣き叫ぶようになり、命乞いを始めた。
そんな様子を見る為か、アオバの影からルーディーがゆっくりと抜け出て来た。
「おぉ! これぞ神の力! ローヤと言ったか? 俺も貴様と同じ世界から来た元スマホユーザだ」
「それに俺の仲間だった、ヒビキと言う男も、神の前に忠誠を誓った、貴様が言うこの世界の真実だとか何だとかはどうでも良くてな、今貴様の前に居るこの方こそが、我らが神だという事こそが、唯一の真実なのだよ」
ルーディーは両腕を前で組み、満足そうにそう言うと、俺とローヤの間に割って入った事を詫びて慌ててアオバの横に戻り、並んで片ひざを地面に付いて頭を下げた。
その様子を見ていたローヤが、狂ったように笑うと、全て話すからこの拷問を止めてくれと、悲壮感に満ちた表情で俺に言って来た。
「サティ、忘却の女神、気が済むまでやると良い!」
「ちょっと、待て! いや、待って下さい!!」
「待たねーよ、知ってるか? 拷問って言うモノはな、やってる、そいつの気が済むまで続くんだぜ? なぁ、ルーディー」
「左様でございます! 神よ!!」
その直後、今までに聞いた事も無い程の大きな声で一度無くと、見るに耐えない拷問が暫くの間繰り返された。
俺達はと言うと、大道具入の中のモノを確認しながら、途中見つけた紅茶のセットと、お茶菓子を取りだし、拷問真っ最中の炎の力を借りてお湯を沸かすと優雅なティータイムを始めた。
拷問は夕方まで続くと、忘却の女神の気も済んだのか、疲れた様子のサティと再び一つになり、俺達方へと来て、ちょこんと並んで座った。
その頃には、ローヤは声も出せずにただただ悦の表情を浮かべるだけだった。
「じゃあ、この辺を片付けておいてくれ」
「かしこまりました!」
色々と取り出して確認していた道具の片付けをルーディーとアオバに任せて俺は、ローヤの元へと歩み寄る。
「ジン様…… あぁぁ、ジン様……」
ローヤが俺を見る視線が変わっている。その他の態度も変わっているのが一目で理解出来る。
「全て話させて頂きます……」
「なんだよ、その言葉遣いは、気持ち悪いな!」
「気持ち悪言って言われても……」
「まぁ、いいや、腹が減って無いか? とりあえずどこか食事が取れて休憩出来る所に案内してくれよ」
「何なりと、何なりと」
まだ意識が定まらないローヤをルーディーに担がせ、影の男には、ローヤと同じ事をされたくなければ素直に従うように念を押して同行させた。




