68、全ての元凶
「スキル発動! “疾風航路”」
元の髪の色は分からない。
連れて来られた時には既に、拷問を受けた後だった。
真っ白に染まった髪。色素の抜けた瞳。乾いた唇。
それが俺が、ルーディーに最初に抱いた印象だった。
その見た目は、今も変わる事は無い。
多分、災厄と希望の神の力を使えば何とかなるんだろうが、本人がそのままで良いという事だったから、あえてそのままにしている。
しかし、最初に見た生気が抜けた様子と違って、今はどれも色艶があり、生気に満ちている。
何より、全ての表情が狂喜を帯びているのではと心配になるほどに楽しそうで嬉しそうだ。
スキルを発動すると共に、景色後ろに流れて行く。
凄まじい風圧を感じるが、嫌な感じでは無く、車とか船に乗っている様に風の気持ちよさを感じる事が出来る。
途中獣に遭遇するが、その周囲にある木々さえも、どれも俺達を避けるように後ろに流れて行く。
風景は懐かしいモノへと変わって行く。
見たことのある川の流れや、道の先に見える景色、どれも懐かしい。
さらに暫く行くと、ルシアンの王都が見えてきた。
「あれが、ルシアンでしょうか?」
「あぁ、あれで間違い無い」
そのまま、ルシアンの王都へと突入して、ルーディーのスキルで偵察を行い、ヤバそうだったら一旦引いて体勢を立て直し作戦を練って再突入する予定だった。
しかし、アオバと会話を交わした直後、今まで全てのモノを風が流れるように、水がその流れの中にある岩を避けるように避けて来たのに、聞いたことも無いような“ガイン”という衝撃音を放ち、俺達は何かにぶつかると吹き飛んだ。
「痛いっ! ……分けでも無いですね? これも神の力……」
「勝手に納得してる所悪いが、神の力でも何でも無い、これは別の何かの力だ!」
「さようで御座いましたか!? 俺とした事が、そんな事にも気付かずに……」
「アオバ、これをどう見る?」
アオバはいち早く反転して立ち上がると、俺達を弾き飛ばした見えない壁にゆっくりと触れながら歩いている。
「これは、多分、結界の類いだと思われます」
「結界?」
「はい、魔方陣こそ見当たりませんが、海獣の進行を妨げていたそれと酷似しております」
「結界という事はチイユのスキルなのか?」
「そうであるなら、やはりと言うか何と言うか、ジン様のお仲間は相当の化け物かと思います、これだけのモノをスキルで作り出す等、私の想像を越えております」
アオバは感動を隠せない様子で、見えない何かをネットリと舐めて、頬をつけて結界の感触を楽しんでいる。
その様子を見て、ルーディーも同じように見えない壁を舐めている。
「なぁ、それって味とかするのか?」
「いいえ、その反対でございます、これだけのモノを作り出し、雨風にさらされているはずなのに、ここには何も無いように、一切の無味無臭、素晴らしいの一言でございます」
理屈は分からないが、二人は何かに気付き共通の認識でこの壁を堪能しているんだろう。
俺はと言うと、それどころでは無い、目の前にあるルシアンの王都へと辿り着くことが出来ねーんだからな。
「ルーディー、もう一度スキル発動を頼む、この壁に沿って周辺の町を目指す」
そうだ、ルシアンの領地であるテレジアの港町であれば、何か知っているかも知れない。
「かしこまりました、ジン様の言うがままに」
「スキル発……」
ルーディーがスキルを発動しようとしたと同時に、どこからか飛んで来た、電撃がルーディーを襲い、それをアオバが薙刀を避雷針変わりにして、横へとそらすが、スキルの発動を妨げられた。
「これは、これは、これは、どんな侵入者が来たと思ったら、生きてたんですね、がっかりですよ」
「ローヤ!!」
絶対に忘れない、究極の最悪のイベント“魔王の目覚め”を発動させようと、さらには王都で、俺やチイユを謀った、全ての元凶そいつを前にして、大道具入に手を入れようとすると……
「ジン! 君が探しているのはこれかい?」
俺の腰に巻いていた大道具入が見当たらない。
それどころか、異変に気付いたアオバが自身の所持品を確認する。
「ジン様! 金貨が一枚も御座いません!」
「知ってるよ、これで俺はこいつに何も出来ずに逃げられたんだ」
「あっれ~? 気付いてたんだね? でも、僕の仕業じゃ無いんだよ、こいつが全部やったんだよ」
ローヤはそう言いながら、自分の影を指差す。
きっと、そう言う事に特化したスキルを持っている何者かがいるんだろう。
警戒はしていた。しかし、それは透明な壁にぶつかるまでの事だった。
その瞬間に戸惑いと焦りから、意識が集中が途切れてしまった。
多分こうなる事を予想して、ここであいつは待ち構えていたんだろう。
「あっれ~? 今、僕が待ち伏せしてたとか考えてなかったかい? そんな事しないよ、たまたまだよ、ねぇ、たまたまなんだよ」
「そんな事はどうでも良いんだが、その大道具入を返してくれ無いか?」
「どうしたんだい? そんな大人びた様子になって、泣き叫んでも、泣き喚いても良いんだよ、どーせ君は金貨が無いと何も出来ないんだから」
甲高い声で笑うローヤにアオバが殺意を飛ばし、ルーディーは怒り狂った様子で、俺に殺して良いかと再三の許可を求めて来る。
「ルーディー大丈夫だ、あいつは俺の事を知らない、お前は安心して下がって見ていろ」
「しかし! 神!! 神が神罰を下すまでもありません! 俺が神の代理として、罰を執行致します!」
「お前のスキルで攻撃が出来るのか?」
「そこは、アオバの力を借りまして……」
俺は、動揺するルーディーの頭を軽く掴み強制的に俺の後ろへと回らせる。




