63、破壊と絶望の衝動
「私達はもちろん、この都市の人々も薄々は気付いているんだと思います」
「むしろ、確信を得てる部分もあるんですが、スマホ時代からトッププレーヤーだった兄に抵抗出来るモノなど居るわけも無く……」
「直接聞いたら良い話だろ? お前達は何も聞いて無いのか?」
「はい、兄はいつも私達の為にと言ってくれてますし、実際この都市が造られた事で助かっている人々も沢山いますし、推測ではとてもじゃないですが、万が一本当に兄に悪意が無かったとして、仮に悪意があったとしても誰が責められますか?」
「もう良い、面倒だ、やめるか?」
「そう言う事ではございません! 私達の覚悟は等に決まっております! もしも、本当に私達の為だからだと言う事でも、その為に多くの人々を苦しめる事は許されてはいけないのです!」
どっちが良いかだよな…… 自分を犠牲にして皆を守ろうとするチイユが良いのか、他者を犠牲にして、大切なモノを守ろうとするヒビキが良いのか、俺はどちらかと言うと後者だと思うし、それでも。
「俺は、俺のヤりたいようにやるが、それでも良いか?」
「はい、他人に無理をお願いする時点で覚悟は決めております!」
「分かった」
俺が、リリムに危害が及ばないように、事が済むまで眠らせていて欲しい事を告げると、ニカは承諾してくれた。
この地下空間は、完全に二人の管理区域で、兄でさえも手出し出来ないが、二人が通行を承認したモノがだけ立ち入る事を許されるらしい。
もしも、二人の承諾無しに立ち入る事があれば、災いが訪れるという事で、この力に関しては、トッププレーヤーだったヒビキも恐れて手を出さないというお墨付きらしい。
「だったら問題ねーよ、リリムの事は任せたぞ!」
「はい、でもその前に、今日はもう夜も遅いですし、お疲れだと思いますので、少しだけ眠って行きませんか?」
そう言いながら、ニカは唯一纏っていた薄い布を脱ぎながら俺に触れて来た。花の用な香りに包まれて、自分の意思とは反して、そのままトリスが入った部屋とも、リリムが寝ている部屋とも別の部屋へと連れていかれ、ベットに押し倒される形で優しく抱きつかれた。
そんなつもりは無かった、何がなんだか分からない内に、どういう事か説明して貰おうとしても言葉が出てこない。
成すがままの状態で、ニカのスキルに誘われ、深い眠りに落ちた。
……
「やっと目覚めたか」
目の前には、花の香りを纏ったニカが居た筈だった。
ベットのシルクの感触も、部屋の木の温もりも覚えている。
しかし、目が覚めて見えるこの光景は何だ?
金属の棒に囲まれ、手足には枷が付けられ、それだけでは無く全身を拘束され、口さえも塞がれている。
「知ってるか? スキルも魔法も、この世界では口を塞がれたら使えないんだ…… その昔チートと恐れられた俺達だって条件は同じだ、この手の拘束を恐れたもんだ」
何を言ってるんだ、この状況は何だ……
「貴殿はまだ、騙された事に気付いて無いのか?」
どういう事だ……
「はははははは、これは傑作だ、見てみろ、ニカ、トリス! 男は皆こいつのようにバカばかりだ!」
「そうですね、お兄様以外の男なんて皆バカばかりですわ」
燃えるような真っ赤な短髪を逆立てた、2m近くある長身の男が、腰に手をあて笑っている。
その両脇には、顔を火照らせ、ニカとトリスが抱きつくように身体を絡めている。
俺は、騙された? 何に?
「こいつは、本物のバカだ! 未だに状況を理解出来て無い!」
一頻り笑い終わった男は、物分かりの悪い俺に今度は腹を立てた様子だ。
忙しい奴だ。
あぁ、理解してるよ。
大体俺に身体を密着させてくる女にはロクなやつがいない。
俺は、ルシアンでの出来事を思い返し、だからこそ抵抗しようとしたのだが、何も出来なかった。
あれは、魔法か? スキルか? だとしたら、リリムもスキルで俺と同じように……
リリムはどこだ? どこにいる?
こんなバカな俺の事はどうだって良い、リリムはどこにいるんだ!?
確かにあいつも、バカで、短気で、すぐに考えもせずに行動して迷惑をかけてばかりだけど、それでも、本当のバカな俺と違って、素直なだけなんだ、嘘もつかないし、つけないし、何より自分に正直なだけなんだ。
リリムはどこだ!?
「無駄だよ! 単純な武の力でも、魔の力でも、口を塞がれ、その枷を付けられたら、この俺でも逃れる事は出来ないからな」
男の横でトリスが一際大きな声で笑っている。
こいつが、ヒビキ? と、いう事か?
本当は兄でも何でも無く…… いや、さっきはお兄様と言っていたな、だったらただのブラコンってやつか?
その辺はどうでも良い。
この枷を解くつもりは無いらしい、それでお前達の望みは何だと聞きたい所で口を塞がれていては何も聞けない。
「なんだか、色々聞きたいようだが、この男もお前にお世話になったらしいからな、そんな簡単に解いてはくれまい」
「苦痛を…… さらなる苦痛を……」
「そんなに睨んでは可愛そうですわ」
オホホと、ニカが小屋では決して見せなかった高飛車な様子で俺を見下している。
やっぱり寄り道なんてするんじゃ無かった。
真っ直ぐチイユの元に向かっていればこんな事には……
金貨が無くても戦えるように魔法を身に付けた。
魔力がすぐに切れないように、魔力の上限も上げた。
どれもこれも簡単に手に入れた力じゃ無い、ハズなのに、またしてもこんな……
俺は、後悔の念に苛まれながら、銀布の男が嬉しそうに、これから拷問でもするのか、金属の器具を手入れしているのを見ていた。
痛みには色々あって慣れたつもりだが、この無力感だけはいつまでたっても慣れないな。
「それでは、テクト・タスクロードあとは頼んだぞ!」
タスクロード、だと?
「あぁ、任せてくれ」
嬉しそうに、拷問器具を撫で回しながら銀布の男が近づいてくる。
お前の名前に、なぜチイユと同じ名前が含まれている?
チイユにも何かしたのか!?
もし、そうであれば……
「悔しそうな表情をしてるぜ? そんなに騙され捕らえられた事が悔しいか? 何だ!? 何か言いたそうだな? 無理か! 無理だよな!!」
その通りだが、リリムに、チイユに何かあったら絶対に許さねーからな!
俺は覚悟を決めて、銀布の睨み付け、ゆっくりと瞳を閉じた。
瞳を閉じる瞬間、目の端で壁が壊れるのが微かに見えた。
閉じると同時に、壁が壊れる大きな音が耳に飛び込んで来る。
「だから、私をいつも側に置いて下さいと申したでは無いですか!」
「地を這う虫の用な存在の貴様達に等しく死をもたらさん」
壁を破壊して飛び込んで来たのは、緑色の髪を束ね、大きな薙刀を振るうアオバだ。
銀布の男に一撃を浴びせると、男は吹き飛び、飛び込んで来た側とは反対の壁をぶち壊す。
「もう、絶対に、今後二度と私を離さないと誓って下さいませ!」
俺は、アオバの身体中から流れ出る血の後を皆がら一度だけ大きく頷いた。
ここに来るのはきっと大変だったんだろう。
何が起きたのかは分からない。
何をされたのかも、これから何をされようとしていたのかも分からない。
ただ、分かっている事は、この場では助け出してくれたアオバは見方で、それ以外は全て敵だと言う事だ。
さぁ、災厄と希望の神よ、徹底的に暴れるとしようか?
『フフフ、久しぶりに妾に話しかけたと思えば、無一文で妾の力を借りようなどと考えている分けでは無いだろうな?』
当たり前だ、見ろ、あの壁の向こうを!
『金じゃ! 金じゃ、金じゃ、金じゃ!!』
あれだけあれば満足だろう!?
『当たり前だとも、ジン様よ』
「アオバ、少しだけ頼んだぞ!」
俺の口を塞いだ拘束具を解くと、アオバは優しく俺を支え、残りの拘束具も全て破壊した。
「お任せ下さいませ!」
「そこの小娘! お前は今、誰を羽虫と呼んだのだ?」
「あの壁の向こうにいる汚ならしい奴を、ゴミ虫と罵ったのだが、貴様の耳は退化してるのか? 虫は虫らしくしていろ!!」
「お、お兄様が、お兄様が手を下すまでもありません! あんな小娘!」
「何ですの!? この魔力は!?」
「何だ? チイユに聞いたんじゃ無かったのか?」
ニカとトリスが叫ぶ声が遠退いて行く。
アオバが構える薙刀から、魔力が迸っているのが分かる。
赤髪の男が何やらスキルを発動しようとしているのが分かる。
いや、あれは魔法か? 詠唱か?
だが、既に全て手遅れだ。
「古よりも深きモノ
太陽を飲み込む漆黒の闇よ
今、同刻の断りを破りて
汝の力を示さん
我、
汝と交わり世界に災厄と希望をもたらせるモノ
闇を深く、光を遮り、刻を奏でよ
金は満たされた
我、刻を満たすモノなり
我の声を聞け
我に力を与えよ」
「災厄と希望の神よ
我の意思と、金色の力を得て、今ここに顕現せよ!」




