61、守るモノ
「安心して下さい、ここに害を与えるモノは何もありません」
「だったら、お前達の目的は何なんだ?」
「どうか、私達をお助け下さい」
「助けろって言っても、とりあえず、リリムは無事なんだろうな?」
「あの、狂暴な娘には少し眠って貰いました」
「眠っている? それを信じろと?」
突然の出来事、突然の事に何一つ状況が飲み込めない中、再び魔力を迸らせるが、倒れた少女の事を考えると、流石に少し申し訳無い気持ちになって少しだけ抑える。
複数の女性達は、驚きこそするが、大きな声、悲鳴の類いは一生懸命に飲み込み、何とか俺との対話を続ける事を試みている。
その真剣な眼差しを見て、俺も少しは話を聞こうかと言う気持ちになるが、しかし、リリムの安全の確認が先だ。
「とりあえず、リリムに会わせろ、話はそれからだ」
ワインレッドのローブを深々と被った一人の女性に導かれるままに、地下へと続く階段を案内された。
地下通路は迷路のように複雑で、上がったり、降りたりを繰り返し、全く方向感覚を失ってきた頃に、リリムが石碑の上で眠る、不思議と明るい植物が生い茂る大きな地下空間へと出た。
「おい! リリム!! 大丈夫か?」
身体を揺すっても、顔を軽くはたいても全く反応が無い。
それどころか、涎を垂らし気持ち良さそうに眠っている。
「これは、どういう状態なんだ?」
「それについては、私が説明致しますわ」
昔、図鑑で見た事があるような、大きなシダ植物を掻き分けて現れたのは、紺色の長い髪に、真っ黒な瞳、長い睫が印象的な綺麗な顔立ちの女性だった。身に着けている鎧は、見た目の印象とは事なり、全身を多い尽くす殺意を帯びた赤黒く光沢を帯びた禍々しいモノだった。
「それは、私のスキル“睡眠香”によるモノなのです」
「発動条件は受ける相手が受け入れるかどうかと言うモノだから、本来敵には一切通じないモノなんだけど、リリムは凄く素直で良い子で、簡単に受け入れてくれたわ」
「さっきも言ったが、お前達の言う事の何を信じろと言うんだ?」
「きっと信じてくれますわ、この名前を出せば……」
さらに奥へと案内する女性から、リリムをここに置いて行っても良いと言われたが、こんな得体の知れない所には置いておく事も出来ず、抱き抱え一緒に奥へと向かった。
「そんな、これは!」
シダの葉を掻き分け進んだ先には、見慣れた、いや、今では少しというか、かなり懐かしくもある“チイユ・タスクロード”と書かれた表札のある、1軒の小屋があった。
「ここで、あなたの話を沢山聞いたの、ジンさん」
「俺の話だって!? チイユがここに居たのか、今どこにいるんだ!? 知ってるんだったら教えてくれ!」
「落ち着いて下さいませ、チイユ様はここにはもうおりません」
「きっと、今もどこかで誰かを守ってるんだと思います」
赤黒い鎧の女性の言葉に続けて、赤いローブの女性が話を続ける。
「私達は、遠い昔、チイユ様が造られた都市で生活しておりました」
「突然にこんな世界に投げ出され、恐怖で何も出来なかった私達を纏め、導いてくれたのは、私達よりもずっと幼い見た目で、話し方が特徴的で、可愛くて、誰からも愛され、誰よりも強く、誰よりも優しいお方でした」
「遠い昔だ!? 何を言ってるんだ? 俺達はそんな昔から知り合っても無いから、そんなチイユが俺の事を話すなんてありえない!」
そうだ、有り得ない、未来でも見て来ない限り、そんな事は有り得ない。
しかし、でも、もしかしたら、逆に俺が、俺達が気付かない間に歳を重ねてたと言う事だったら、あり得るのか?
「チイユ様はずっと言ってました、私達が困った時には、チイユ様か、いずれ出会う事になるジンさんが助けてくれると」
「何を勝手な…… お前達は物凄く勝手な事を言ってるんだが理解してるか?」
「神に祈る事に何の許しがいるのでしょうか?」
「チイユ様は仰っていました、ジンさんは、神様見たいな方だと」
「困っている人が居たら絶対に助けてくれると……」
そんな、綺麗な女性二人から涙ながらに助けてと言われれば助けない奴なんて居ないだろうが……
「だが、俺は断る、リリムを連れて早く行かなければならねーからな」
「「助けては下さら無いのですか!?」」
「声を揃えて言われても、断るっつったら断る!」
「そんな、私達には、あなた様しか頼れる御方が居ないのですよ!」
「チイユがな…… 俺の助けを待ってるんだ、いつも誰かを守ってボロボロになって戦っていたあいつを、今度は俺が守ってやりてーんだ、だからその為に……」
俺が最後まで話すのを、赤黒い鎧に身を包んだ女性が両手で口を塞ぎ妨げる。
手の平は薄っらと湿っていて、花の香りのような良い匂いがする。
「私達が、間違ってました」
赤いローブの女性が、頭に被っていたローブを取り、頭を下げる。
ローブの色からは想像も出来なかった、薄いパステルピンクの長い髪が風に靡く。
「守るべきものが他にあるのであれば、それがチイユ様と言うのであれば話は別です! 私達は、自分達の事位は、自分で守ります! でも、私達がチイユ様のお力になれるなんて、これっぽっちも考えておりません」
「それが出来るのは、チイユ様がいつも語っていた、神の力を持つと言うジンさんだけです! どうか」
「どうか、チイユ様をお助け下さいませ!」
きっと、本心なんだろうな……
自分達も、困り果てて俺に助けを求めて来た筈なのに、それなのに、自分達の事よりも、チイユの事を考えて……
どれだけ救えば、こんな風に思って貰えるのか、どれだけ人の為に尽くせば、こんなに愛されるのか、やっぱりお前はスゲー奴なんだな。
地下の大空洞に優しい風が吹き抜ける。
俺も、そんな風になりてーな、なれるかなって言ったら、きっとお前だったら、“ジンさんだったら余裕っす”とか、言ってくれるんだろうな。
「とりあえずさ、話だけでも聞かせてくれよ」
「大丈夫です! 自分達の問題は自分達で……」
今度は、俺が両手で赤黒い鎧を纏った女性の口許を押さえる。
「良いから! チイユが言ってなかった? お前達なんかあっという間に救って、チイユも、何もかも纏めて全部守ってやるって」
「……はい、言っておりました」
おいおい、マジかよ。でも、流石に無理そうだったら無理って言うけど、チイユが守りたかったモノを俺が見捨てる分けにはいかねーよな。
「とりあえず、その小屋に入れるか?」
「当然です! ここはチイユ様が使っていた小屋です! いつの日か、チイユ様が、ジンさんがここを訪れた時の為にと、一日も手入れを欠かした事はありません! どうぞ、どうか、御上がり下さい」
眠ったままのリリムを抱え、“チイユ・タスクロード”と表札が誇らしく輝く小屋へと入り、リリムをベットに横にすると、暖かな木の家具で揃えられた部屋へと案内された。




