56、寒くて寒くて震える
北に進路を取った俺は凍えていた。
他の皆はと言うと、皆寒さに対する耐性があったり、防寒対策が完璧だったりと快適に進んでいる。
俺達の世界での地図で言うところで、バルの村は韓国の端にあたる場所で、そのまま北に進路を取り、中国大陸にあたる場所を突っ切れば早かったんだろうが、中国大陸にあたる場所、四神を筆頭に、竜や幻獣の宝庫でそこを守る人々も、冒険者も、強すぎる為に今このメンバーで通るのはリスクが高すぎると爺の案内でさらに北に進路を変えて行く事になったんだが、行けども行けども、雪山ばかりで、確かに獣との遭遇率は低いが、村が無い、町が無い、ひたすらに山小屋しか無く、面白くも何とも無い冒険が続いていた。
しかも寒さで体力と気力を使うから、会話をする気にもならない。
それなのに、リリムとアオバは次から次に俺に色々と話しかけてくる。
というか、一方的に話したい事を話している感じなんだが……
知らないのか? 俺に極寒耐性が無い事を、タケゾウから貰って気に入って着ていたこの着物では、この寒さに耐えれない事に、気付いていないのか?
イヤ、そんな事は無いな…… なぜなら、ここに来て、リリムもアオバも露出が極端に減っている。
元々、極寒耐性を持っているという二人がそんな状態で、ジャンや爺は予め持ってきて居た、というか俺の大道具入に勝手に入れていた、超防寒対策の、バル特性の毛皮を着込んでいる状況で、着物に下駄で歩いている俺が寒くない分けが無い。
旅なれした奴は、現地で服を調達するって聞いた事があったから、大道具入を持ちながらも最低限の着替えだけ持って来た俺は、寒さに震える日々を送っていた。
幻獣だろうと、魔獣だろうと極上の毛皮を持った獣が現れる事を願っているが全く現れない。
「幻獣は幻と言う位だから、偶然が重ならないと出会う事さえ難しいだよ?」
ジンくん今更何言ってるの? と、首を傾げるリリムはバルと離れて以来ずっと機嫌が良い。
俺はというと、色々な事で、凄く機嫌が悪い。
それが見えて来たのは、雪山に入って数ヵ月後の事だった。
それだけ進んでも、ずっと雪山と山小屋だけで、何も無い、ホントに何も無い日々が続いた。
雪山を下り、ちらほらと緑の草が地面に見え始めた頃、そこには激流と言っても生易しい、ジェット水流のような向こう岸が見えない程に幅の広い川が見え。
「爺! あれは何だ?」
「あれは、例のアレですぞ」
例のアレと言われたのは、道中散々この川については説明してくれたらしく、他の皆は理解してるし、分かって無いのは俺だけらしかったから、皆に付いて歩いた。
暫くして、アオバがその事に気付いたのか、小声で教えてくれた。
「ジン様、この川はグレートリバーと言って、今まで通って来た雪山の全ての雪解け水が流れ出る、激流の川だという事で御座います」
「今、私達は、この川を渡れる唯一の橋と、その先にある橋の中継地点、要塞都市を目指しております」
他に何か知りたい事は御座いますかと言ってくれるアオバの優しさに、思わず熱いモノが込み上げて来た。
「わぁ~見えて来たよ!!」
激流に屈する事無く存在感を放つ橋は、橋の柱の一本一本が大きく太くて、激流がぶつかる衝撃で水飛沫が舞い上がり、太陽の光に照らされて、虹の帯が沢山出来ている。
どこから現れたと言いたい位の人々が橋の周りに群がっている。
良く見ると、俺達が歩いて来た方角とは別の方角は道が整備されており、多くの人々が行き交っている。
「あれは、中央の大陸から、沢山の人々が観光としてここを訪れてるので御座いますよ」
「アオバ、ありがとう! 本当にありがとう!! 俺、もっと爺の話、ちゃんと聞くよ!!」
「当たり前ですぞ、人の話はしっかりと最初から最後まで聞くべきですぞ」
ジャンが、ごめんねと、可愛く頭を下げている。
ここに来て、一気に気温が上がり暑くなって来たのか、気分が良くなって来たのか、爺が脱いだ毛皮を無言で俺に渡す。
確かに、大道具入は俺とは元々関係の無いエドの国の国宝で、それを譲り受けただけだから、国民である爺や皆の持ち物を管理してやるのは義務だとさえ考えているが、それでも、爺の態度に苛立ちを抑えきれない。
「はい、ジン様、私の召し物も一緒に入れて下さいますか?」
爺から、毛皮を受け取り、ジャンが毛皮を脱ぐのを手伝い、自らの上着も脱いで、アオバが俺にそれらを渡してくれた。
一番下にあるアオバの上着は、今まで汗をかいた状態で着ていた為か、僅かに湿っていて、アオバの体温を感じた。
少し頬を赤らめているのは、その事が俺に伝わっていると分かっているからか?
リリムはと言うと、橋が見えた所で真っ先に飛び出して、全速力で橋の方へと向かっている。
「ジャン様、寒くはありませんか?」
「大丈夫! これくらい何の問題も無い!」
「よい、じゃあ、行こうか」
爺が大道具入に入れていたのは、毛皮だけじゃ無かった。
ここから先の冒険に適した服装や装備品を大量に入れていて、克つそれらを手際よく取り出して、ジャンに身に付けさせると、自身も完全武装となる。
そう言えば、雪山では武器の類いを最小限に抑えていた。
要するに、雪山では獣に遭遇する確率が低い事を知っていたし、今このタイミングでこれだけ武装するという事は、それだけの戦いが予測されるという事だ。
それにしても、ここに来るまで、ここに来てからも何一つ装備品が変わらない俺って一体……
「ジン様、行きましょう」
切り株に座り、頭を抱えている俺にアオバが優しく手を差し伸べる。
俺はその手を掴み、ジャンと爺の後ろを付いて歩いた。




