55、村の名は……
「ただいま」
「おぉ~お待ち致しておりました」
「どちらに行かれていたのですか?」
皆、目を覚まし、俺の行方を探して居たらしい。
「ジンくん! どこ行ってたの?」
アオバと一緒に村に戻った俺に一番厳しかったのは、リリムだった。
これから冒険者組合について、どのように立ち上げ、どのように運営して行くのか話し合いをしていかなければならいと言うのに、出歩いていた俺が完全に悪い。
昼、太陽が真上に来るまで一生懸命謝った。
俺の祈りが通じたのか、昼食を食べる頃にはすっかり機嫌が直っていた。
「それで、どうするの? どうやるの? 冒険家組合」
「色々考えたけど、良く分からねー」
「分からねーって、リリム達の方が全然分からにーよ」
にーよって……
「それだったら、爺が力になるよ」
頭を抱える俺に、救いの手を差し出してくれたのはジャンだった。
爺は忍の生き字引。
その爺が、組織とは何かについて教えてくれるという事だった。
また、あの長い話を聞くのかと覚悟を決めた俺に、爺が一言だけあっさりと教えてくれた。
「組織を作って、運営したいのであれば、スポンサーを探す事じゃ~あ」
昼食を終えて、お茶を啜りながら、少し眩しい陽射しに焼かれながら、あっさりと教えてくれた。
あっさり話せるんじゃねーかと思いながらも、もっともな一言に俺は、取り合えず、一応はこの村の長である、バルに誰かスポンサーになってくれそうなモノがいないか聞いてみた。
そしたら、こいつもあっさりと答えを出してくれた。
「この村がスポンサーになろう!」
「………………っはぁあ?」
「その反応はあんまりだろ、まぁそう言いたい気持ちも分かるが」
「分かるんだったら、どういう事か説明してくれ」
「だから……」
成る程な、もっともらしい回答だ。
と、言うよりはそれが一番良いのかもしれない。
ここからこの村を大きくして、国にして行く。
その為にこの村を護衛して、この村からの依頼を受けて報酬を得る。
村は大きくなり、村長の地位は上がり、村の生活も豊かになり、俺も必要なモノが揃う。
中々に有り難い話だ。
有り難いが、だがしかし。
俺は、ルシアンへと向かわなければならない。
この村を守る事も、この村に居続ける事も出来ない。
「だったら、忍の力を俺様に預けるが良い」
「俺様達が、忍の皆に最高の待遇を用意しよう」
俺はチラリとリリムを見るが遅かった。
数分後には、“やります、やれます、やらせて下さい、お願いします”と言動を改める事になっていた。
アズも大満足そうに頷いている。
「タケゾウ! お前に忍達を任せて良いか?」
「良いか? では御座いません、最上の喜びでございます」
「じゃあ、タケゾウとバルは同格に位置付けるから、仲良くやれよ」
「俺様が、こいつと同格!?」
「だったら何か問題があるのか? なぁ、アズ?」
「あるわけねーよな? 糞親父!」
アズに二人の仲介は任せる事にした。
「それから、通信手段についてなんだが……」
この世界では、超稀少なアイテムを用いる事でした通信手段は存在しないという事だった。
或いは、そういった能力に優れたスキルを持つモノも居るという事だったが、すぐには用意出来ない。
普段は、手紙を入れて持ち運ぶ魔力を込めた特別な筒を用いて連絡を取っているという事だった。
「バル、お前のスキルで宅急便屋を始めると良い」
「ジンくん? バルを酷使してやる考えは大変良い事なんだけどさ、宅急便って、何? 拷問を受ける仕事だったら大賛成何だけど?」
「それあたしも賛成な!」
そんな仕事は無いし、そんなつもりも無いし、お前達バルを何だと思ってんだと、言いたい所をグッと我慢して、宅急便について説明して、バルのスキルの使い道について提案した。
「成る程! それは凄い事ですぞ!」
自称博識者の爺が、称賛してくれたのは大きかった。
直ぐにスキルの見極めと、運営の可否を試した。
バルのスキルは、魔力を纏った自身の拳で倒した獣の皮を剥ぎ側に置いておく事で、その獣に再び実態を与え使役すると言うモノだった。
たかが獣如きで良かったら何日でも、何体でも使役する事が出来るという事だったが、実際に獣で試すと数時間後には疲れて果てていた。
だったら獣では無くて、食料用に捉えた動物だったらどうなるんだと言う俺の一言に、皆顎が外れたように衝撃を受けていた。
「そんな事聞いた事も無いですぞ」
そりゃ、スマホゲームでは動物を刈る事も、食す必要も無かったんだから、そんな機能有るかも半信半疑だったが、実際に目にして考えが180°変わった。
小さな小鳥位だと、使役した途端に弾けて消えるが、ある程度の大きさであれば、命令をやり遂げてから弾ける。
ある程度の魔力は消耗するらしいが、それでも一度の命令で手紙の筒を遠くに届ける事が出来る。
返信手段については熟考したが、それ以上は出てこなかったから、取り合えず今出来る事を、今出来るだけ詰め込んで、バルとタケゾウに託した。
「しっかり頼むぞ!」
「任せて下さい! このタケゾウしっかりと務めを果たしてみせます」
「あたしがしっかり、がっつり旨い事やっておくんで、姉さん、また、絶対立ち寄って下さいね!」
アズが号泣して俺達を見送ったのは、村の外壁が強化され、建物を増築して、暫く経っての事だった。
その頃には、すっかり都市としての機能を備え始め、忍が運営する冒険家組合の下地は出来上がっていた。
「長居が過ぎたな! バル、お前の村長としての手腕は何だかんだで期待してるんだから、皆を頼むぞ!」
「ジン様! 俺さ…… 我輩! ジン様の期待に答える為、全てを捧げ、この村の名を、冒険家組合の存在を世界に広めてみせます!」
バルは、短い間ではあったが、リリムとアオバの徹底教育ですっかり素敵な人格者に形成されていた。
もう、ここまで来ると洗脳だなと思うと、何か変な笑いが込み上げて来た。
これは、これで良かったのか?
俺達は、忍と村の人々に別れを告げ、漸くルシアンへと向かう事になった。




