54、私の存在意義は……
「ここに冒険者組合を作ろう!」
そう提案したのは俺だった。
村長、バル・ブレアは、身寄りの無く、スマホの初期データ、つまりチュートリアルさえも終わっていないアズを自分の娘としてこの村で育てる事にしたという事だった。
しかし、同情から甘やかす事が多く、こんな性格になってしまったという事だった。
アズがこの村に来たのは、数年前の事。
獣に終われ、傷を負い、腹をすかせてボロボロになった所をバル・ブレアに拾われたらしい。
故に、アズはバル・ブレアに親以上の感情を抱いているのだが、育て方を間違えたが為に、表現するのが荒々しくなってしまったという事だった。
当然そんな、親以上の腕を斬り落としたリリムを恨むのかと思えば、その躊躇の無い判断や、テマリばあさんを、家族を思う心の優しさと強さに何故か惹かれてしまったらしい。
チュウタに、チイユやアズ、ジャンや親達もそうだが、俺以外にもかなりの数の冒険者がこの世界に来ているらしい。
何が目的で、どんな力が働いたのかは分からねーが、それらを少しずつでも整理して行く必要はある。
さらに言うと、アズやジャンの様に幼くして、こんな狂暴な世界に放り出されている者がいるのであれば、誰かが保護しなければならない。
災厄と希望の神の力をリスク無しで発動する為には、444万枚の大金貨が必要になる。
今回の事もそうだが、次から次に無駄にスキルを発動していたら、金貨なんて貯まる気配さえ無い。
イベント達成時には金貨を大量獲得出来るが、そんなイベント滅多に出会える分けでも無く、ルシアンに着くまでに集めるとすれば、イベントに頼らない事を前提とするのであれば、収入源の確保が必要になってくる。
諸々に事情により、冒険者の小遣い稼ぎも同時に行える、冒険者組合の設立は必要不可欠だと考えたからだ。
「それは良い考えです!」
「俺様も力を貸そう!」
「俺様? 貸そう?」
「……違った、俺様も是非力を貸したい、この力使ってくれ!」
アオバが、リリムの逆鱗に触れないように村長の言葉使いを少しずつ直してくれている。
とは言っても、通信手段や、交通手段など、元の世界での常識が通用しない。
まずは、登録した情報の共有と、依頼が入った時や、依頼を達成した時の報酬をどうするのか、その他諸々の諸事情をクリアしなければ機能しないか……
こんな時にチュウタが居てくれれば、あいつのスキルとその他知識でなんとかなるんだが、そもそもエドから出る手段も、帰る手段も持ち合わせていない俺達が、通信手段など高度な機能を備える事が無謀なのか…… それでも、今ある知識と道具でどうにか出来ないかを考えながら、暖かい焚き火の炎にあたりながら、眠りについた。
翌朝、鳥の鳴き声で目が覚める。
辺りを見渡す。
ジャンと爺以外は皆、外で焚き火を囲ってそのまま寝ていた。
一番に起きたのは俺か?
バルとアズが仲良さそうに寝ている。
周囲をぐるりと見て周り、そのまま村の外を散歩してみると、巨大な猪の獣に出会う。
目は血走り、毛は鋼の様な光沢を放っており、口元から伸びる日本の牙は殺意にまみれている。
武器も持たず着の身着のまま来た俺は、今にもこっちに突っ込んで来そうな獣を前に、これをどうやって処理しようか考えていると、朝の爽やかな風と共に一閃、獣に切れ目が入ったかと思うと、全身から血が吹き出しその場に倒れた。
「一人で出歩いてはなりません」
「アオバ、か」
「ジン様の力は理解しておりますが、それでも、だからこそ、こんな低俗な獣の血を浴びるような事にはなってはならないのです」
アオバは、いつもしっかりとした口調で、凛々しく怒るんだけど、怒る時は感情が昂るからのか、いつも瞳が潤んで輝く。
その表情は、凛々しくもあり、どこか切なくもある。
「少し、一人で散歩したかっただけなんだが、悪かった」
「そんな、ジン様は自由にされて良いのです、ただ、その時はいつも私に声をかけて頂ければ、邪魔にならないようにお供致します」
「それじゃ、一人にならねーんだけどな」
調度良い間で、鳥の鳴き声が響く。
なんだか、可笑しくなって暫く二人で笑ってしまった。
その声に数体の獣が寄って来るが、魔法もスキルも使わずに、薙刀だけでアオバが全て一瞬で倒してしまう。
「どうして、お前はそんなに強いんだ?」
「こんなもの、強くありません!」
「イヤ、十分強いだろ?」
「これでも、国王直属の近衛兵隊長を任されていたので……」
「それにしても薙刀だけでそこまで強いって、凄すぎるだろ?」
「だから、凄くは御座いません! 凄いのは海獣を一撃で倒したジン様です! 鵺を力技で攻略したジン様です! 神獣を使役して、神と契約を交わしたジン様なんです!!」
確かにそこまで言われたらそうなのかも知れないけど、実際に俺は剣や武術が使える分けでは無いし、やっぱりアオバやリリムの様な基本的な武の力は身に付けなければといつも課題として考えている。
「だったら、その薙刀、俺に教えてくれよ」
「そんな、ジン様に教えられるような……」
「国王直属の近衛兵隊長の技を教えてくれよ」
謙遜して断ろうとするアオバの退路を断ってやった。
「分かりました、エドの薙刀の技をお教えさせて頂きます」
「ですが、一つだけお願いをしてもよろしいでしょうか?」
「なんだ?」
「私をいつも側に置いて下さいませ…… この先ずっと…… です」
「分かった、これからも俺と、俺の周りの人々を守るのに力を貸してくれ!」
「はい! 任されました!」
「どうした! どうしたんだ!?」
突然に泣き出す、いつも凛々しく立ち振る舞うアオバの涙に思わず怯んでしまう。
「私は、ずっと国王を守る事にこの人生の全てを注いできました」
朝日にアオバの綺麗な緑の髪が瑞々しく輝く。
「私には、側に置いて頂き、守らせて貰う存在が必要なのです」
「ですから、ジン様の、ジン様のお側に居れるなら、これからも生きて行けます」
「本当に…… 本当にありがとうございます」
片膝を地面に付き、頭を下げるアオバに、俺も腰を落とし目線を合わせ、煌めく髪を抱き寄せる。
「俺の側に居たければ、これより先、何があろうと俺の許可無しに涙を流す事は許さねーからな?」
「それでも良ければ側に居ろ」
この世界の人々は、皆長い戦いの日々に疲れてるんだな。
ゲームだったら敵は居て当然だし、それらが暴れる事でイベントが成立する事は理解出来るが、いざそれが自分の、現実の立場になればどれ程大変な事か……
それでも、魔王が目覚めていたら、こんな状況では済まなかった事を考えたら、ルシアンへの帰還と共に、眷属を倒し、二度とそんなイベントが発生しないように、させないようにルシアンを警備する組織を作る必要があるな。
やる事が次から次に沸いて来るが、以外と面倒でも嫌でも無いな。
「申し訳御座いませんでした、このアオバ、この命尽きるまで、今後一切涙は流さず、ジン様の為に力を使う事をお約束致します」
「それで、お前が満足だったらそうしたら良い」
「村に帰るぞ?」
「はいっ!」
先に立ち上がり村へと歩く俺の少し後ろを、付かず離れず一定の距離でアオバは着いて歩いた。
振り返りはして無いが、その顔は笑顔に満ちているような、そんな気がしてた。




