51、星空の下で殺戮を
「それで、爺とジャンはここには来ないのか?」
大満足の魚料理とベリー系のデザートを満喫してロッキングチェアで外の景色を眺めながら寛いでいた。
「爺様は、ジャン様と一緒に宿屋に入りましたので、今夜は既におやすみかと思われます」
「だったら、タケゾウで良いや、何か知ってる事あったら教えてくれよ」
「私から話せる事はちょっと……」
「どうしてだよ?」
「実は……」
タケゾウの話によると、鵺の目覚めの時、大岩の上に立って居たのも、テマリばあさんを拐ったのも、全てタケゾウだったという事だった。
それを言ってしまったら殺されるんじゃねーかと思って、それらを話す事を躊躇ったらしい。
ばあさんを拐った理由は、ばあさんの膨大な魔力が鵺の目覚めに必要だったからだと泣きながらなに謝られた。
忍装束に皆が身を包んでいた為に誰が誰かと言う事はまるで分からないんだから、わざわざ言う必要もねーのにと思ったが、男の涙ってやつを見て、一つのケジメなんだなって事を考え、手元にあった柑橘系の果物と一緒に咀嚼して飲み込んだ。
さらに、そこからの話に関しては、全ては知らないという事で、爺から直接聞くしか無かった。
「だったら、ここじゃ寝られねーだろうし、宿屋に行くか」
「リリムは絶対許さないからね!」
「分かったから行くぞ」
俺はリリムの頭を抱き寄せて、店を出た。
澄んだ空気に、降ってきそうな程の星空が煌めいている。
「リリム、あいつらも仲間を沢山失って辛いんだろうよ」
「分かってるけど、無関係のばあちゃんを巻き込んだ事は許さない」
「まぁ、許せとは言わねーけどよ、取り合えず明日爺から納得行く話を聞こーじゃねーか? だから、今日はゆっくり休めよ」
「ジンくんと同じ部屋?」
「それは、無理だ」
「どうして?」
「俺もゆっくり休みてーからな」
「分かりました! ゆっくり休んで下さい! じゃあね、また明日!!」
何だか、余計に怒らせたか?
面倒だな…… もう明日聞くのやめようかな……
「いけませんよ! 面倒になってきてるのでは御座いませんか?」
「どうして分かった?」
「顔に書いておりますよ」
「そうなんだよなぁ、正直もうどうでも良くなって来たんだが、最小限ここが何処で、どうしたら良いのか、情報は仕入れる必要があるしな」
「そうですね、元気出して下さいませ」
アオバが笑顔で宿屋の扉を開いてくれた。
フカフカのベットに横になり、ようやく落ち着く事が出来た。
長い一日だったなぁ。
俺、こんな所で何やってんだろ。
色んな事を頭の中で整理していたら、気付けば眠っていた。
その眠りは朝を待たずに妨げられた。
外から大きな物音が聞こえてくる。
「烈波剛刃斬」
黒い髪を頭の上で結った渋い髭面の男が巨大な骸骨が宿屋を襲うのを食い止めている。
「大風牙」
倒す事が目的では無く、大きな物音を立て俺達を起こす事や、少しでも近付け無い事を目的に技を繰り出しているようだ。
「スキル発動! “黄金の軌跡”」
窓を開け放ち、巨大な骸骨を粉砕する。
「ジン様!」
タケゾウがさらに遠くを指差している。
指の先に視線を送ると、夥しい数の骸骨が進行してきている。
「フン! 調度良い、ストレスが溜まっていたからな」
「このタイミングで、ここを攻めてくるなどとは、哀れな骸骨ですね」
「アオバ、どこから入って来た!」
「ジン様に、この場をどうするか聞きに参ったのですが、聞くよりも早くスキルを発動させていたモノですから、見とれておりました」
「お世辞は良いから、行くぞ、付いて来れるか?」
「ついて行きますとも」
「……どこまでも」
「行くぞ!」
“どこまでも”は、聞こえていない事にした。
迫り来る、十分な数の骸骨の群れに向けて惜しみ無くスキルを発動した。
金貨も消費した。
まさしく、無駄使いとはこういう事だと理解はしているが、魔法を使うと大量に魔力を消費して疲れるし、スキルがいかに効率的に魔力を使う事が出来るという事や、スキルの一発や二発で魔力を使い果たしていた頃の自分の魔力が如何に低かったかを理解すると共に、向上した自身の魔力量に自然と笑みが出て来た。
僅かの出来事だった。
アオバが3体の骸骨を倒す間に、慌てて出て来たリリムが着衣を整える間に、飛び出すジャンを爺が止めている間に、数百体は居るであろう骸骨の大群を殲滅した。
そこには、骨の一つも残らなかった。
「アオバ、村長を捕らえて来い、略奪だ、謀略だと言うのであれば、他も同様に捕らえてしまえ、タケゾウ皆も力を貸してくれるな?」
「ジン殿…… それだけの力を見せつけて何を……」
タケゾウは一頻り笑い尽くすと、片膝を地面に付き平伏した。
「私は、忍という立場で遥か昔に名は棄てましたが、再び拾って貰ったこの名前、タケゾウの名に懸けて、ジン様にこの命捧げさせて頂きます」
何もそこまで畏まらなくても良いんだが…… ここで茶化したら折角の決意が台無しだな。
「タケゾウ! お前の意思は伝わった! 頼んだぞ!」
「この命にかけて、必ずお連れ致します」
タケゾウが号令をかけると、忍達がタケゾウに着いて散開した。
「何だか、最近ジンくんさぁ、勇者って言うより魔王っぽくない?」
リリムが後ろから俺に抱きついて耳元で囁く。
「リリム、冗談でもそんな事は言うな」
「ごめんね、リリムも行って来るね」
機嫌は良くなったんだろうか?
間も無くして、戦意を喪失した村長達が捕らえられ、俺の前に連れて来られた。
どんなに多く見ても100に満たない村人達も騒ぎを駆けつけ全員が宿屋前の広場に集まった。
俺は強制的に爺も呼び出し、深夜だからと申し訳無い気持ちもあったが、ジャンにも忍達の代表として同席して貰った。
「それで? 一から全て、全員が理解して納得するように説明して貰おうか?」
タケゾウが用意した、俺の椅子は、リリムから魔王と言われても仕方ないと思わせる、禍々しいオーラを放ったやけに派手な椅子だった。




