47、怒りの代償
中央に聳える大岩から樹木のような、種子が現れる。
現れると同時にヒビが入り、それと同時に種子は弾けとんだ。
種子の中から黒煙が吹き出し、瞬く間に最下層を覆い尽くした。
「ジンさん! 急いで鵺を倒すっす!」
「あぁ、そのつもりだ! サティ、黒煙を吹き飛ばせ!」
黒煙の中に、黄緑色の鮮やかな炎が輝きを放ち周囲の黒煙を吹き飛ばす。
吹き飛ばした側から、黒煙が舞い込んで来る。
「リリム! ばあさんは無事か!?」
……
リリムからの回答が無い。
俺は急ぎ、リリムが居たであろう場所へと急ぐ。
「っグ!」
急ぐ俺の腹部を凄まじい衝撃が襲う。
壁まで吹き飛ばされるが、反転して壁の手前で着地する。
「チュウタ! 大丈夫か!? 隠れてろ!」
……
チュウタの反応も無くなった。
ゆっくりしてる場合じゃねーな。
しかし、この状況じゃ、鵺がどこにいるのかも分からねーな。
「サティ! 大風呂敷!」
『ウチは、宅急便じゃないの、ホントに神獣遣いが荒いの』
『あい、どうぞなの』
サティが肩に登りそっと大風呂敷を渡してくれた。
「ありがとうな」
俺は、大風呂敷を広げ、黒煙を扇ぐ。
大風呂敷に触れた黒煙は、次々にどこかへと送られる。
振り回す事で周囲の黒煙を次々に吹き飛ばす。
吹き飛ばした黒煙は、戻る事は無く、次第に黒煙は消えて行った。
『凄いの! この為に忍は大風呂敷を持ってきたの?』
「イヤ、違うだろう、もっと他に何か……」
俺は、全ての黒煙を吹き飛ばした。
だが、そこに鵺の姿は無かった。
「しまった! 鵺まで抜き飛ばしたのか?」
『そんな事は無いハズなの』
鵺だけじゃ無い、そこには誰の姿も無かった。
アオバが異変に気付き急ぎ階段から降りて来る。
「これは……? どういう状況なのでしょうか?」
「俺にもサッパリ分からない」
このまま外に出る分けにもいかず、二人で最下層を調べて回るが、何の痕跡も見当たらない。
アオバの提案で、他の階層を探しながら、外へと出る事にした。
調べるのに時間が掛かったと言えば言い訳になるのかも知れ無いが、外に出た時には既に何もかもが手遅れだった。
「これが鵺なのでしょうか?」
「間違いねーだろ!」
「スキル発動! “黄金の軌跡”」
ダンジョンから外に出ると、そこには全長1m程の虎の体に、蛇のような長い尾を持つ獣が居た。
大きさから感じた印象は、そこまで強そうでは無かったが、躊躇せずスキルを発動して、爆裂する金貨を叩きつけた。
鵺と思われる獣は、爆発を受けて、黒煙へとその姿を変える。
やはり黒煙が鵺なのか?
っクソ! チュウタがいねーんじゃ、どうして良いか分かんねーよ。
そんな俺を嘲笑うように、次から次に大小様々な鵺が姿を表す。
それら全てを、サティの炎と、俺のスキルで攻撃して行くが、同じように次々に黒煙へとその姿を変える。
不意に、災厄と希望の神の力が脳裏を過る。
しかし、躊躇う事無くその力に頼る事をやめる。
その反動と、代償が大き過ぎる。
俺は、地道に一つずつ、黒煙へと姿を変える鵺を倒して行く。
どれだけ、倒したか。
気付けば、鵺の姿は見当たらず、そこには金色の扉が現れていた。
「アオバ、これで良いのか? これで、イベントは終わりか?」
「アオバ? おい! アオバ!!」
考えながら戦っていた事や、黒煙で視界が悪くなった事も理由になるんだろうが、気付くとアオバまでもが、どこかに消えてしまっていた。
その事に今まで気付く事さえも出来なかった。
ずっと近くで、薙刀を振る姿が見えていた、その刃がぶつかる音が聞こえていた、だからすぐ側に居る気がしていた。
「アオバ! リリム! チュウタ!」
俺の声が虚しく森に吸い込まれる。
意味が分かんねーよ。
鵺の目覚めって何なんだよ。
分かってるんだったら、誰か事前に教えろよ、このまま二度と会えないとかなるんじゃねーだろうな。
次から次に言い様の無い不安が押し寄せる。
考えててもしょうがねーから、目の前に現れた金色の扉に入る事にした。
扉の中には、金銀財宝やアイテムがある……ハズだった。
そこは、最下層と同じような雰囲気で嫌な感じしかしない。
「ここは、何だ?」
……
「おい! サティ!」
まさか、神獣までも消えてしまったのか?
何が起きている?
『ジン様よ、そろそろ妾の力を求めても良いのだぞ?』
怒りで俺が迸らせる魔力に反応して、災厄と希望の神が話しかけて来た。
『一人では寂しかろう、妾の力を使えば、こんな空間一撃で破壊できるのにのう』
「いいや、お前の力は借りない」
『意地を張らない方が良いと思うがのう』
『まぁ、既に全て手遅れじゃがのう』
「手遅れって、どういう事だ!?」
『じゃったら、妾の力を使うか?』
「だから、それは借りないと言ってるだろ!」
それっきり、この空間で俺が何を話しかけても災厄と希望の神が反応する事は無かった。
とりあえず入って来た扉から出ようと、扉を探すが…… どこにも見当たら無い。
八方塞がり、どうする事も出来ない俺を嘲笑うかのように、遠くから聞いた事も無いような獣の類いの鳴き声が聞こえて来た。
何か居るのか?
俺は、苛立ちを抑え、声の聞こえて来た方角へと走った。
どれだけ走ったのか、走っても走っても景色は変わらず、そろそろ声の主に辿り着くと思ったその時、今度は、もともと自分が居たであろう場所から何かの鳴き声が聞こえて来た。
俺は込み上げる苛立ちを抑えきれずに、大金貨に怒りを込めて、声の方角へと放った。
「スキル発動! “黄金の軌跡”」
放たれた大金貨は、何もない空間にぶつかり大爆発を起こすと、ガラスが剥がれ落ちるように、空間にヒビが入る。
空間のヒビから黒煙が吹き出し、修復して行く。
あぁ、そうか、そうなのか、俺に喧嘩を売ってるんだな!?
分かった、理解した、俺は、俺のイライラを全てブツてやれば良いんだな!?
そこまで溜まりに溜まったフラストレーションを全て吐き出す。
「スキル発動! 神の複製腕」
大金貨10枚を両手に握り込み、金色に輝かせ、ヒビの入った空間へと走り、連続して殴りつけた。
轟音と共に、空間のヒビは次第に大きくなり、ついに砕け散った。
「見たか! これが、俺の怒りだ!」
ただの八つ当たりなんだが、威力は十分だった。
砕け散って、ポッかりと空いた空間に躊躇せずに飛び込む。
再び黒煙に包まれ、息苦しくなり、俺は地面に転がった。
「これはどういう事だ!?」
転がった先は、何度も見た最下層の光景だった。
そこには、ガラスの球体に入った消えた人達の姿があった。
リリムにばあさん、チュウタや複数の忍達に、サティまで居る。
ガラスの球体の一つが派手に割れている。
あそこから俺は出て来たのか?
『貴様は何者だ!?』
声の出所に視線を送ると、そこには今までに何度も倒してきた鵺の姿があった。
俺は、大金貨を握りしめ構える。




