4、ガチで少女に恋する5秒前
「ゆっくり後ずさりして逃げるっすよ」
「え、なんだよ、何すんだ」
チイユは俺を担ぎ上げると、赤髪の男が銀色の狐を倒す事に手を取られているのを良い事にその場から走り去った。
「おい、この辺まで来たらいい加減大丈夫じゃねーのか?」
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、そうっすね、ここまで逃げれば、はぁ、大丈夫っすかね?」
息を切らし、肩で息をする少女が主張する、自分はチュウタでは無いと言う言葉を俺は信じ初めていた。
「それで、あいつは何なんだよ」
「!?スキルには驚かないんすか?」
「だって、これは夢だろ?だったらアレ位の事は、まぁアルんじゃねーか?」
「まだ、夢とか言ってるんすか?」
「だって納得いかねー事だらけじゃねーか」
「それもそうっすけど……」
「で、あいつは何だ?なんで逃げてんだ?」
「あの人は、ロイヤル・メイデン、オイラが所属しているクランのリーダーっす」
「ちなみに、ロイヤル・メイデン、略して皆ローヤって呼んでるっす」
「クラン?リーダー?おいおい、今度は何のネタを俺の夢の中の頭は引っ張り出してくんだよ」
「もう、夢でも何でも良いんすけど、ローヤはオイラの事が大好きだからジンさんと二人でクランを抜けるオイラを連れ戻しに来たんすけど、オイラはローヤが苦手だから逃げてるんす」
さっきの狐なのか、近くで獣が鳴く声が聞こえる。
銀色の狐よりも、低く響く遠吠えはなんだかヤバそうな感じがプンプンする。
「分かった、取り合えず分かったから、どっか安心して逃げ込める所は無いのか?」
「ローヤは、アドニス共和国に登録するクランのリーダーっす」
「オイラ達は今、アドニスの領地から出てルシアン王国を目指してるっす」
「それで、ルシアン王国はこのすぐ近くなのか?」
「大丈夫っす、ここから少し歩けば朝までにはルシアン王国の城下町にたどり着くっす」
朝までって、一体どれだけ歩けば良いんだよ。
俺達は足場の悪い森の中を一晩中歩いた。
次から次に獣に襲われる。その中でも特別にデカい熊のような獣は、全長8m程で、爪は鋭く、木々を薙ぎ倒す程に強かった、しかも3頭が連携をとって俺達を襲って来たが、チイユのスキルに手を焼いてる内に1頭が去っていくと続けて残りの2頭も暗い森の中へと消えて行った。
危険な森を抜けて城下町に辿り着く頃には、朝は通りすぎ、太陽は真上に昇っていた。
とにかく疲れた、その一言に尽きる。
夢だと言うのにこんなにも疲れるモノなのか、俺は内心ではすでに夢では無いと理解し初めていた。
「着いたっす、ここがルシアン王国っす」
目の前には大きな門が立ちふさがっていた。
「こんな所、簡単に通れるのかよ?」
「簡単っす!ここを通る条件は二つっす」
「でも、まぁ満たしてるから素通りっす」
チイユも疲れたのか、汗だくで簡単な説明を省略した。
汗だくで髪も乱れているにも関わらず、やけに良い匂いが漂って来た。
門番とチイユが何やら話をして、チイユが何かを見せると、チイユが言った通りに素通り出来た。
城下町に入ると、昼間なだけあって人通りは多く、至る所から美味しそうな薫りが立ち込めていた。
「チイユ、頼みがあるんだが……」
「何っすか?ジンさんのお願いだったら大歓迎っす」
「必ず、絶対に後で返すから、何か食わせてくれ」
俺は両手をパチンッと合わせて頭を下げた。
「そんなやめてくれっす、オイラとジンさんの仲じゃ無いっすか」
「すまん、悪い、本当に助かる」
「良いっすよ、でも……」
「何だ?何でも俺に出来る事だったら礼はする」
「違うんす、オイラ、ローヤのクランを抜ける時に全財産を置いてきたんす」
「全財産って、いったいどれ位なんだ?」
「……4億位っす」
「!?」
「なんだってーーーーーー!?」
俺の大声が城下町の広場に響く。
「ジンさん声がデカいっす」
慌てて俺の口を塞ぐチイユからとてつもなく良い匂いが漂って俺の鼻腔の奥の方を刺激する。
手のひらは柔らかくて、徐々にチイユを意識せざるおえなくなってきた。
「正確に言うと、大金貨40枚なんすけどね」
「どうしてそんな勿体ない事したんだ?それだけあったらアドニスだかで、豪遊出来たじゃねーか!」
「それでも、ローヤのクランに居たんじゃ命が幾ら有っても足りないっす」
「何より、ローヤと一緒にいるとろくな事にならないっす」
4億を捨てて俺を守ったって事か?
徐々に意識するどころの騒ぎでは無い、青い髪で良い匂いがするロリ巨乳を今すぐ抱き締めたい衝動に襲われた。
「!?」
「所で、チイユ、何でおまえはそんなにこの世界に詳しくて、そんなにカネを持ってたんだ?」
「それは簡単な事っす、ここが“WORLDEND”の世界で、オイラのスキルやアイテム、金貨は全てオイラのスマホのデータを引き継いでいたからっすよ」
「あぁ、なるほどな、それでか」
「じゃあ、どうして俺は元の姿で何もアイテムは引き継いで無いんだ?」
「それも簡単っす、ジンさんはチュートリアルさえ終わって無いビギナーだからっす」
「あぁ、なるほどな……」
不意に、チイユがデブのおっさんと重ねて見えて、色んなモノが身体中から引いて行くのが分かった。
俺の淡い気持ちを返してくれ。
こいつは間違いなくチュウタで、それ以上でもそれ以下でもねぇ。
でも、結局何を言っても認め無いだろうからこれ以上聞かねぇけど、二度とこいつを少女としては見ない。
「カネがねぇーんじゃ、しょうがねぇな」
「申し訳ないっす」
悲しそうな表情のチイユが可愛く見えないように、俺は全力でおっさんの姿を重ねて見る事にした。
たとえて言うなら“スキル発動!自動修正”と、言った所か……
「チイユ!困ってるなら僕がご馳走するよ」
「な、ローヤどうしてお前がここにいるんすか⁉」
「簡単な事さ、僕もクランを抜けて来たんだ」
「まさか、そんな事ありえないっす」
「“ワドエン”の中でもトップクラスのクランを、しかもリーダーが抜ける何てありえないっす」
「そうだね、ゲームだったらそんな事しないかもだけど、こうやって現実味を帯びてしまうと、今さら残ってもって思ったんだよね」
「現実味を帯びているからこそ……無茶苦茶っす」
あまり理解していない俺でも話している内容は何となく理解できる。
こいつは、大当たり中の台を他人に譲って、自分は好きな台を初めから打とうとしている。そんな事はありえない。
「それよりも、お腹すいてない?喉、乾いてない?」
そう言いながらローヤが銀色の固まりを手のひらに乗せ俺達に披露した。
銀色の固まりは、まるで上質な毛並みのようにスベスベで、それでいて硬質な輝きを放っていた。
「お、兄ちゃん良いもん持ってるね」
手のひらのそのモノを見た通行人の一人が突然俺達の間に割って入ってきた。
スキンヘッドで、色黒の大男は、背中に斧を背負っていて、見るからに狂暴そうだ。
「なんだ、おっさん、関係ねーだろ」
「お前に用は無い、俺は赤毛の兄ちゃんに用があんだ、スッこんでろ」
「どうだ、兄ちゃん、それを一つ銀貨10枚で譲ってくれないか」
「うん、良いよ」
ローヤはそう言うと、腰に巻いたポーチから大量の銀色の固まりを取り出した。
「まさか、そのポーチはダンジョンアイテムか?」
「うん、そうだよ」
「“大道具入”大金貨数十枚の品物じゃねーか、初めて見たぜ」
スキンヘッドの大男は、目を輝かせてローヤのポーチに食いつく。
「本当は、それも売ってくれと言いたい所だが、今は大きな仕事が入っていてな、カネが用意出来ねーんだ」
「大丈夫だよ、これは流石にいくら積まれても売れないからね」
「やっぱりかぁ~そうだよな~分かった、その銀狐のシルバーチャームだけ買い取らせて貰うぜ」
「毎度あり!」
ローヤは大男から、金貨を2枚と銀貨を20枚受け取った。
「調度今から討伐対を依頼する所だったんだ、助かったありがとな」
「良いよ、僕達も調度カネが必要だったから助かったよ」
「そうか、悪いな、俺は商人のビル・ゲイトってんだ、ビルで良いぜ、これからも贔屓によろしくな」
「僕はローヤ、そしてこっちはチイユ、冒険者さ、よろしくね」
二人は熱く握手を交わすと、ビルは慌てた様子で路地裏へと走って行った。
ビル・ゲイルって……ややこしい名前使いやがって。
そもそも、チイユを紹介して俺はスルーかよ。
「ジンさん、ローヤが何でも奢ってくれるって言ってるっす、早く飯食い行くっすよ」
少し離れた所から手を降る少女に促されて渋々あとを付いて歩いた。
「うっめー、これマジでうめーよ」
「そうかい?ジンさんに気に入って貰って良かったよ」
「イヤ、俺の方こそ何だかごめんな」
「別に良いんだよ、チイユの大切なモノは僕に取っても大切なモノだからね、好きなだけ食べると良いよ」
俺は、見た事も聞いた事も無い、ルシアン大兎というこの国の超高級肉に舌鼓を鳴らしっぱなしだった。
チイユもそんな俺に若干の不満を感じつつも、俺が喜んでいる事に素直に喜んでいた。
「それで、俺はどうすればスキルを身に付ける事が出来るんだ?」
俺は、大満足にルシアン大兎の肉を平らげると素直な疑問について訪ねた。
「オイラ達はスマホでチュートリアルをやってスキルが身に付いたんすけど、どうやれば良いんすかね?ローヤは知ってるっすか?」
「あぁ、僕のクランの連中を何人かチュートリアルに参加させたから詳しいよ」
「良かったら案内するよ」
「ホントか、お前、滅茶苦茶良い奴だな!」
「でも、今からじゃもう遅いから、今日はゆっくり休んで、明日装備を揃えてから行こうか」
「そうだな」
「あ、でも俺はいまだに一文無しか……」
「大丈夫っす、ローヤがさっきのカネで暫くオイラ達の事を世話してくれるっす」
「そうっすよね、ローヤっす?」
「もちろんさ、ジンが強くなれば僕達のパーティーも強くなるって事だからね、先行投資だと思っておくよ」
「よっしゃー明日はチュートリアルでスキルゲットだぜ!!」
「ジンさん、店の中で騒ぐなっす!」
「あぁ、すまんすまん」
俺は、心の底から謝った。調子にのり過ぎる……それが俺の短所その一だ。




