37、満たされた月の下で
午前中はゆっくり休むようにと言われ、午後からチュウタと天守閣へと上り、頭の中で整理のつかない話を続けた。
「わぁ~こんな感じなんすね、めちゃくちゃ感激っす」
チュウタは天守閣から見える景色に感動し身を乗り出し大いに喜んでいる。こういう所は、本当にチイユと重なって見える。
「オイラもあの後色々考えたり、テマリ様から話しを聞いたんすけど、多分ジンさんがここに来た理由はオイラに会う為じゃないっす」
「だったら、俺が偶然ここに来て、偶然お前が居たって事か?」
「後半は正解で、前半は不正解って所だと思うっす」
それにしても、偶然に感謝と言っているチュウタの瞳に光るモノが見える。
きっと突然来て、分けも分からずこんな世界で、獣に怯えて、自由も効かず、大変だったんだと思う。
俺も、チイユが居なければ、多分最初の銀狐に食い殺されてたと思う。
命からがら逃げ延びたとしても、金もルールも分からない世界でどうしようも無かったと思う。
チュウタはそんな環境で何年も……
っ!? 何年も!?
「チュウタ! お前いつからこの街に、この世界に居るんだ!?」
「オイラっすか? オイラはもう10年以上になるっす」
10年? 俺が来てまだ1年位だ。
この時間の差は何なんだ?
そもそもどうやってここに来た? どうして?
それに……
「チュウタ、どうして10年も居て見た目が変わって無いんだ?」
「よく分からないんすけど、オイラ達冒険者は歳をとらないのか、とっても見た目が変わらないんす、お陰様で好きなものどれだけ食べてもこれ以上は太らないっす」
話が全然先に進まない。
疑問に疑問が重なって、疑問を再確認しているだけだ。
「それで、どうして俺は此処に来た? 理由が分かるのか?」
「ジンさんはチート過ぎるスキルを補う為に、魔術の宝庫の東方世界で魔法を習得するんす、それで、強くもなるんす、そして、チイユを助けるんす」
チュウタの話しによると、チュートリアルを行えるのは、西方の試練の山だけだと言う事、だからその山の付近に住んでる人達はスキルと身に付け、山から遠い東方では、魔法を習得するのが一般的らしい。
ゲームだった頃は、魔法が最初流行ったが、魔力消費量が少なく、スキルの性能一発で後発組も先発組に逆転出来る為、魔法と言う存在は忘れられたと言っても過言では無いと言う事だった。
しかし、俺には魔法が必要だと、チイユがここに飛ばしたので無いかと言うのがチュウタの推察だった。
「多分その話で正解だと思うよ」
「思うのですよ」
気になって話を盗み聞いていた、リリムとイエーミュが割って入って来た。
「ジン君のスキルは確かに凄いけど、コスパが悪すぎるんだよ」
「そうなのです」
「イエーミュ様っす、本物っす」
「チュウタ? どうかしたのか?」
「イエーミュ様っす」
「だから、知ってるから」
「この国の守り神っす、オイラの女神様っす」
「っ!? お前、男が恋愛対象じゃ無いのか?」
「アレは、あいつらが勝手に言ってるだけっす」
「……まぁ、ジンさんは特別っすけど、オイラは女の子大好きっす」
そうだったのか、何だか、何もかもが杞憂だったのか。
「チュウタさん、嬉しいのです、でも、私はジン様の伴侶となるのです」
「リリムは認めないけどね、絶対ね!」
また、二人の変なスイッチが入る。
話が進まないから、二人を城内に押し込んで、話を続ける。
「チュウタ、悪かったな」
「ホントにっすよ、どんだけ羨ましいと思ってるんすか、あんな美女っ娘二人に好かれてっす、羨ましいっす」
ジンさんは特別って言う言葉に若干引っ掛かってたけど、本当に大丈夫そうだな、色々と。
「じゃあさ、魔法習得に行くからさ、チュウタも一緒に行こう!」
「……」
「どうしたんだ?」
チュウタは、相変わらず大き過ぎる月を眺めながら何かを考えてる。
「オイラは、ここで待ってるっす」
「どうしてだよ!?」
「オイラには、この世界にジンさんに遊んで貰うパチンコ屋を創るっていう夢が出来たんす」
「そんなの、後でやれば良いだろ?」
「良くないっす、オイラの為に色んな人が協力してくれてるんす、この前のうどん屋の店長、あ、猫耳の女の子なんすけど、店長もオイラの話だけで、あんなに美味しいうどんを作ってくれたんす」
「だから、オイラは、オイラの夢の為にここに残るんす」
冷えて来たから、続きは城内で話そうと、チュウタは立ち上がる。
俺は、そんなチュウタを全力で応援したいと、心から思った。
けど……
「チュウタはさ、元の世界に帰りたく無いのか?」
「帰らなくても大丈夫っす」
「どうして?」
「この世界でジンさんに会えたっす!」
チュウタの後ろで大きな月が輝いている。
それと共に、チイユが重なって見えた。
俺も慌てて立ち上がりチイユを助ける事をチュウタに誓う。
「でも、気を付けるっす」
「あぁ、気を付けて行くよ」
「そうじゃ無いっす、チイユ・タスクロードは確かに妹のスマホのキャラっすけど、それが妹だと言う確証は無いっす」
「……それに」
「それに、何だよ?」
「あの、スマホは、あの夜オイラの家に押し入って来た奴等が探してたスマホっす」
「それがどうかしたのか?」
「結局あの後奪われたっす」
「だから、チイユが何者か分からない以上は、気を付けて欲しいっす」
俺は、渾身の一撃でチュウタの背中を叩いた。
「な、何するっすか!?」
「大丈夫だよ」
だって、チイユの事は、ずっとお前だと思ってたんだからな。
それだけ良い奴だって言う事だよ。
だから心配するな。
「ほら、行くぞ! 特別な魔法習得場所と方法とアイテムとか色々、諸々教えてくれよ!!」
「チイユを助ける為に…… な!」
“任せるっす!”と、チュウタは満たされた笑顔で答えると、データは無くとも、この世界の知識は無双だと言い放った。
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