36、猫耳娘とうどんの温かさ
扉の中は金銀財宝が大量に転がり、壁も床も天井も全て金ピカの相変わらずの豪華な空間だった。
が、しかし、入って気付く。
大道具入を持っていない事に。
あ、だから最初は俺じゃなくてチイユが入ってくれたのか……と、今更になって理解した。
こんな状態じゃ、鎧を大量に持って出る事も、金銀財宝を大量に持って出る事も出来ない。
しかも、スマホゲームの知識の無い俺は、一番良いモノを持って出ようとしても、どれが良いのかさっぱり分からない。
もしも、万が一この中に“神の宝具”があると、置き去りにするという事か?
イヤ、そんな事あってはダメだ。
一つだけ、見分ける方法があるが、非常に危険だ。
なぜならその方法は、俺自身がこの扉の中に取り残される危険があるからだ。
時間は、かかるが一つ一つに触れて行き、魔力を大量に消費するアイテムがあればそれが“神の宝具”だという事だ。
俺は、時間をかけて、一つ一つに触れて回ったが、結局それらしきモノは無かった。
とりあえず、これでは価値が分かる。大金貨を近くの袋に入るだけ入れた。
鎧は、どれも見た事の無いモノばかり、これ以上ここに居ても無駄だと判断した俺は、諦めて、持てる限りの大金貨と、なにやら怪しげな、開く事が出来ない宝箱を持って出た。
外に出た俺に、待ちわびたリリムとイエーミュが飛び付いて来て、手に持っているモノを見て、もっと良いものは無かったのかと散々に問い詰められた。
二人のやり取りに限界を迎えた所で、ばあさんが助け船を出してくれた。
「ジン! 早く来い!」
ばあさんは、俺を引っ張り合う二人など気にも留めずに外へと連れ出した。
「ばあさん! 急にどうしたんだよ!」
二人には城内で待てと言って、俺を連れて来たのは、あの気になって気になって仕方の無かった“パチンコ屋”の前だった。
「だから、どうしたんだよ! 今さら、って言うか、今こんな所に連れて来られてもなぁ」
「お前の事を知ってると言って、どうしても会いたいと懇願されたんじゃ」
「それにな、ジン、お前はなぜこのような極東の島国へ飛ばされたかを考え無かったのか?」
確かに、それは、ここに来るまで何度も考えた。
あの場に居ても何も出来ないのは確かだった。
“神の翼”の能力も良く分かって無いし、そもそもここがどこで、何の為に存在して、どうしてチイユが俺をここに飛ばしたかとか、考えても答えは出ないと勝手に決めつけてそれ以上は考え無かった。
「多分、じゃがな、ここにその答えの一つがあるんじゃないかのう?」
「天守閣でスキルを使うお前を見て、ワシに会わせて欲しいと言って来た男が、お前の話しと重なる点が多いのじゃ」
「まぁ、一度会って見るのもよかろう」
それで、扉から出て来た俺を、日の出を待たずにこんな所に連れて来たのか。
俺は、ばあさんに言われるがままに、深夜の閉店後のパチンコ店に入った。
「ジンさん……」
そこには俺のよく知るあいつが立っていた。
でも、まさか、こんな所に居るハズが無い。
でも、確かにそこに居る。
だから俺をここに飛ばしたのか?
「これはどういう事だ?」
俺の声が静まり返ったホールに響いた。
「ジンさん、この世界に来てたんすね」
「会いたかったす」
「オイラ、ずっとジンさんに会いたくて、パチンコ屋あったらジンさん気付いてくれるかなって思って、頑張ってたんす」
ばあさんが、深夜に、どうしても俺を会わせたかった相手。
「チュウタ!」
でも、どうして? チュウタはチイユじゃなかったのか?
「どうしてお前がここに居るんだよ!?」
「それはこっちのセリフっす」
混乱する俺を、チュウタが外に連れ出した。
朝方までやってる美味しいうどん屋があると言う事で、少し二人で外を歩いた。
「チュウタ、元気だったか?」
「オイラは絶好調っす、ジンさんこそ、オイラ無しで大丈夫だったっすか?」
あぁ、チイユが居たからなと言いたい気持ちを抑えて、これがどういう事なのか頭の中で必死に整理した。
しかし出て来る結論は至ってシンプルだった。
チュウタとチイユは別人だと言う事だ。
それを知らせたくて、わざわざ俺をこんな遠くに飛ばしたのか?
それだけなのか?
一つの結論が出ると、それを次から次に疑問が覆って行く。
口から飛び出しそうな疑問を、懐かしいうどんの味が柔らかく喉の奥に流し込んで行く。
「パチンコ屋は儲かってるのか? 俺にも一度設定とか釘とかやらせてくれよ」
「手作りのパチンコ擬きっすからね、ピンボールに近いっすかね」
「スロットも機械に限界があるっすから、元の世界のモノに比べたら…… 全然っすよ」
取り留めの無い会話が続く。
なかなか本題に入る事が出来ない。
久しぶりのうどんを、出汁の最後の一滴まで飲み干すと、先に本題を切り出したのは、チュウタだった。
「所で、どうしてジンさんはこの島に来たっすか?」
それをきっかけに、俺は今までに起きた事を一通りチュウタに説明した。
チュウタは何やら妙に納得した様子で答えてくれた。
「スマホゲーム“WORLDEND”のスキルは一度しか手に入れる事が出来ないんす、でも、一つだけ他のスキル、アバターを手に入れる方法があるんす」
「一人一つのアカウントしか取れないんすけど、逆に言えば二人居たら二つのアカウントを取る事が出来るんす」
「初期データ、つまりこのオイラのデータ、スキルは全く使えなかったんす」
チュウタは、水に入ったガラスのコップに映る自分の姿を見つめながら話を進める。
「だから、歳の離れた妹のアカウントデータを作って、それで“WORLDEND”をやってたんす」
「だから、あっちのデータは凄くても、こっちのデータは殆ど初期データなんす、だから、この島から出る事さえ出来なかったんす」
「妹のデータ? って、事は、チイユは?」
「確信は無いんすけど、もし、スマホの所有者にそのデータがこの世界で与えられるとしたら、多分、妹っす」
「でも、お前と同じ口調なんだぞ?」
「これは、母親がこんな感じだったっすから、僕達兄妹に影響したんす」
うどんの出汁を全て飲み干した後じゃ、こんな話し飲み込めない。
俺は、チイユとの事を色々思い出していた。
気付くと東の空から朝日が顔を出し、その光がうどん屋の中を照らし出していた。
「お客さん、そろそろ閉店にゃ」
猫耳を着け、メイド服を来たツインテールの可愛い女の子が俺たちに会計を求め、話が終わらないまま外に出た。
それと同時に急激に疲労感が襲って来て、立っても居られない程に弱っている俺を、チュウタが城まで運んでくれて、イエーミュの配慮ですぐに寝室へと運ばれ、医療関係のスキルを持つ城の従者に見て貰い、その日はそのまま深い眠りに落ちた。
魔力の大量消費と、残量が少ない為に動けなかったという事を後でイエーミュに聞かされる。
でも、最初の頃に比べたら、かなり魔力量が増えている事を実感出来た。
眠っている間に夢を見た。
チイユと、チュウタと、俺の三人で歩いている夢だった。
その内にに二人は俺から遠ざかって行き、取り残された俺が必死に二人を追い掛けるっていう夢だった。
俺は目覚めると同時に直ぐにチュウタを探した。
もしかしたらもう二度と会えないのでは無いか、そんな不安は、直ぐに消える。
「おはよっす」
目覚めて慌てて周囲を伺う俺を、チュウタが“落ち着くっす、大丈夫っす”と肩を抑え、夢から覚めた事を知らせてくれた。
「良かったぁ」
俺は、心底安心して、心の声が漏れ出した。




