27、剣と魔法の世界
虫の無く声と、朝一とは思えない程の暑さで目が覚める。
部屋の中は、ボロボロで見るに耐えないが、布団は、高級ホテルのベットのようにフカフカで、それでいて適度な弾力を保っており、疲れが染み出て体から抜けて行くようだ。
昨日の出来事が、遠い昔の夢のようにボンヤリと思い出される。
途端に、全身から血の気が引き、そのまま視界が真っ白に染まって行った。
「おっはよう! ジン君お目覚めかな?」
リリムの明るい一声で、視界は元に戻り、全身から引いていた血の気が戻ってきた気がした。
「元気かな? もし良かったら、ばあちゃんが、あんな所に居たわけを聞かせてくれって言ってるの」
「まぁ、嫌だったら、嫌で大丈夫なんだけど……」
申し訳無さそうにこっちを見るリリムの表情を見て、とてもじゃないが嫌とは言えねぇ。
昨日とは変わって、ヘルメットを脱ぎ、露になった金色のショートヘアに、薄い緑の線を帯びた青い瞳、寝起きなのか寝癖が立っている頭髪に目が行き、そのまま下に目線を落とすと、シャツにピッタリ張り付いた身体の曲線が目に入る。
俺は、リリムに促されるままに、朝食を済ませ、ばあちゃんが待つ建物の最上階へと向かった。
「ここ、涼しくねーか?」
「うん、ここは神聖な場所だからね、年中こんな感じだよ」
「ばあちゃん、お待たせ、連れて来たよ」
会って早々にこんな事を言うのもなんだがと言われ、そのまま服をを脱がされた。
「こんな状態で、な、何するんだよ?」
俺は、同様を隠しきれず、黙々と何やら儀式じみた事の手伝いをやらされた。
儀式の準備が終わるとリリムは部屋の外に出されるが、これは流石に美味しい展開とは言えなさそうだ。
「なぁ、ばあちゃんよ、いい加減何してるか教えてくれねぇか?」
「なんじゃ、聞いとらんかったのか? お前のステータスを見てやるんじゃ、話はその後じゃ」
気が散るから長話は出来ないと言わんばかりに、それ以上の事を言う事は無く黙々と準備が続けられた。
儀式の準備は粗方片付き、敷き詰められた草の上にうつ伏せで寝転ぶ様にと指示を出され、もうここまでやったらと、俺は何を聞くでも無く、ばあちゃんの言うがままにうつ伏せになった。
部屋に入った時はヒンヤリとしたが、服を脱ぎ上半身になったこの状態でもまるで寒さは感じない。
ばあちゃんが、俺の周りにローソクの様なものを起き、聞き取れない程の声で囁き、何かを唱え始めた。
直後に、俺の身体は暖かい何かに包まれ、いつの間にか寝入ってしまっていたような感覚に襲われ、気付いたら、ローソクの様なモノの火は消え、外からの光が入って来ていた。
ギラつくような、陽の光にも関わらず、相変わらず室内は快適な温度で保たれている。
「ようやく目が覚めたか、しかしのう……このステータスは……」
「ジンよ、お前は何者じゃ?」
ばあさんは一枚の紙切れを見て、深刻そうな顔で俺を見つめていた。
まるで、そこには“こいつは悪魔だ!”と書かれているんじゃ無いか疑いたくなるほどに、俺を見る目は冷たく感じた。
しかし、話をして、それが勘違いだと言う事を知る。
この時のばあちゃんは、俺の事を不運で、可哀想な奴だと心底心配して見つめてくれていたのだった。
それを証拠に、俺が今までの経緯を話し、チイユ達を助けに行くと言った時、たった一人の可愛い孫が“リリムも一緒に行く!”と言った時に、二つ返事で許可を出したんだから。
しかも、共に行くのであれば、リリムを俺が嫁として迎え入れる事が条件だとか勝手に言って、しかも心配だからと自身もこの国を出るまでは同行するとか言い出すしまつ。
俺は散々拒んだが、リリムの今にも泣きそうな表情と、ばあちゃんの強引さに負けて、流れるままにそれらを承諾してしまった。
さらには、その日の夜に“婚姻の儀”とか言って、俺はリリムと二人で同じ布団で寝る事になったが、リリムの精神年齢が幼かったお陰で、特に何が起こるでも無く、その日は就寝する事が出来た。
しかし、一晩中俺に引っ付いて眠るリリムを意識しない分けにもいかず、グッスリ眠れたという分けでは無かったが、それでも何やら起きる分けもなく、ただただ長い夜だけが過ぎて行った。
朝を迎える頃に、家の戸を叩く物凄い音で、眠気に引っ張られながらも、無理矢理に叩き起こされた。
訪ねて来たのは、村の青年だった。
青年が言うには、この村から街へと続く唯一の道の途中にとんでもない化物が現れ、その化物が一緒に居た青年の仲間を飲み込み、さらに街の方へと向かったという事だった。
ばあちゃんが聞くところによると、化物の招待は“12の眷属 ヒュドラ”だと言う事だった。
当然俺は、眷属の話も、魔王の目覚めの話も全てばあちゃんにはしている。
それどころか、紙切れに現れたスキルの内容や、最後どうやってこの村に飛ばされたかまで全て詳細に話している。
「これは、真に信じ難いジンの話を信じるまたと無い機会じゃ」
「リリム、準備して、化物を倒しに行くぞ」
「ジン君は化物を倒せる位強いの? ねぇ? 強いの?」
「あぁ、当然じゃ、ジンは、ばあが認めた男じゃ、リリムの婿に相応しいかさらにこれで見極めさせて貰おう」
突然の展開に、まだ眠りから覚めきれない頭を必死で働かせて、ようやく話に追い付く。
「あぁ、金貨さえ貰えればそんな事、簡単だ!」
「何を言う、こんな田舎の村に金貨などあるわけなかろう」
「ジン君、何か街で買いたいモノでもあるの?」
何も知らないリリムは俺の事を呑気な人だと思っている様だが、全てを知ったばあさんは、人をバカにしたように笑っている。
「じゃあ、どうやって眷属を倒すんだよ!」
「「魔法じゃよ!」」
必死で訴えかける俺に、二人が声を揃え返した言葉は、意外な方法だった。




