21、悪魔の箱
「ジンさん、どうするんすか?」
「何をするかと思えば、今さらそんな事したって、全ての攻撃は飛ばされるって分かってるのに、ねぇ、チイユは理解してるんだろう?」
チイユは何も答えずに真っ直ぐに俺を見つめる。
きっと信じてくれてるんだろう。
「なぁ、ローヤ…… どうして、お前はこんな酷い事を考えれるんだ?」
「っえ!? 何を言ってるんだい? これは、ゲームだよ? だったら楽しまなきゃ」
「……それにね」
「それに、なんだよ?」
「冒険者諸君は、魔王の目覚めを待ち望んでるんだよ! 何か考えがあるみたいだね、だったら何かされる前に、ジン、君はここから退場して貰うよ」
ローヤ、そう言う事は、選挙でも何でもやって、数の力で主張してくれ。
俺は、そんな事どうでも良いんだ。
冒険者が待ち望もうと、誰がどうだろうと、アリィを、その仲間を家族を苦しませた事を俺は許さない。
ローヤの長話のお陰で、既に俺の身体は金色に光輝いていた。
上限を、限界を突破して高まるステータスのお陰で、ローヤの動きがゆっくりに見える。
成る程ね、ローヤのスキルは触れたものに電気を流す事。
自身に激しく触れる事で、身体に電気を流し活性化させ、超スピードを発揮しているのか。
まぁ、簡単に避ける事は出来そうだが、チイユが“神の盾”を発動している。
ローヤの攻撃は防がれるだろう。
俺はここに来る前に、一つ魔法を教わって来た。
魔法の名は、“召喚魔法”
異空間より、契約したモノを召喚する魔法だ。
本来であれば、召喚するモノと契約を交わし、契約の法則に沿って試練を達成し、達成時一定の確率で召喚の契約が成立する。
それら全てをすっ飛ばして召喚を可能にするアイテムがある。
“悪魔の箱”
一度だけ、全ての手順を省略して、この世界のあらゆるモノと召喚の契約を成立させるアイテムである。
しかし、より上位のモノ、強きモノと契約を結ぶ確率は神がかり的な確率になってくる。
だったら……
俺は、金塊の暴食でステータスを爆発的に跳ね上げた。
体力、攻撃力、防御力、魔力、そして…… 運。
他は、元々凄く低いのは理解してる。
だが、運は元のステータスに加えて、さらに爆発的に跳ねあげてる。
さぁて、神が出るか、悪魔が出るか。
ローヤ、お前は俺に、そこで大人しく見ていろといったが、違うんだよ。
お前が俺の召喚を大人しく見ていろ。
「深淵より出るモノ、天界より舞い降りるモノ、全ての理を超えて、我、汝に最愛の祝福をもたらせる者なり」
「いでよ、“悪魔の箱”」
召喚の詠唱を始める直前に、ローヤの虚空の一撃は、チイユの神の盾で防がれ、続いてそのまま湖へと吹き飛ばされた。
自身を纏った電気の影響か、水に沈んだローヤは痛みからか、痺れからか、酷く歪んだ顔をしていた。
俺が、“悪魔の箱”を取りだし、詠唱を始めると、俺が何をしようとしているのか悟ったらしく、鬼気迫る形相で、湖から這い出て、今一度俺に向けて虚空を放とうとするが、既に手遅れだ。
そう、俺はお前のその表情が見たかったんだ。
ローヤから笑顔は消え、その顔は次第に絶望へと変わって行った。
飛竜を目前にした、あの時と同じように。
「ジン! お前はどうして僕の…… 僕の邪魔ばかりするんだ!」
「そんな事は簡単だ、俺はお前が大っ嫌いだからだよ、ローヤ」
俺が詠唱を終えると、悪魔の箱を中心に上空に魔方陣が形成されて行く。
それは、魔王の目覚めのイベント発動の鍵となる魔方陣と重なり、湖の金貨が結合を始め、一つの大きな金の流動物となりうねり出す。
上空に現れた二つの魔方陣は、まるで反発しあうように空間を歪め、あちこちで、黒い稲光が走る。
魔方陣が重なる部分の空間の歪みは、酷く荒れ始めると、次第に落ち着きを取り戻し、気付くと2つあった魔方陣は一つに纏まり湖の金の固まりが魔方陣へと吸い寄せられると、その金塊に魔方陣が吸収され、ドロリと粘土が高い魔方陣を纏った金塊が地面に落ちた。
その光景を、俺は勿論だが、ローヤもチイユも息を飲み見守るしかなかった。
ゲームやアニメでは見た事のあるような光景でも、現実、目の前でこんな事が起きると、俺達人間は抗う事も、逃げ惑う事も出来ずに見守る事しかできねぇんだろうなと思うと同時に、あ、これが固唾を飲むって事なんだと理解した。




