20、英雄の称号
「よし、じゃあ、幻想の森へ行くぞ!」
「そうっすね、どっちにしてもローヤを止めないとっすけど……」
「すけど、なんだよ」
「ホントにシズネを信用しても大丈夫なんすか? ローヤと対峙した時に裏切られたら全滅っすよ」
「大丈夫だよ、なぁシズネ?」
「わた……俺になぁと言われても、大丈夫ですよとしか言えないですが……」
「ですが、私は……俺はジンの事を信じてるから! それが答えじゃダメか?」
無理してキャラ作りしなくても良いのにな。
漆黒の鎧を身に付け、仕草だけシズネの女性らしさが残った違和感に戸惑いながらも、チイユをとりあえず、まぁ、納得させた。
何より、裏切られたとして、俺がなんとかすると言った事に、チイユは“ジンさんはいつも口だけっす”と良いながらも、満更ではないようだった。
直後、どこか遠くから、紛れもなく恐怖の悲鳴が聞こえた。
シズネが背にした“神の剣”に手を伸ばす。
俺も急ぎ、大道具入の金貨を確認する。
シズネの中の漆黒の剣士としてのスイッチが切り替わる。
「城の外だ! ジン行くぞ!」
扉を蹴破り、急ぎ城の外へと向かうシズネの大きな背中を追う。
チイユは、囁くように文句を溢しながら俺の後ろにピッタリと張り付き追い掛けている。
外に飛び出た俺たちは、街の方角に有り得ない光景を目にする。
「ヤバイっす、始まってるっす」
「何が始まってるんだ?」
俺は、街の上空に現れた、紫色の巨大な魔方陣とそこから垂れる長い蛇?の尾のようなモノを見上げ、思考が停止した状態で訪ねた。
「何がって、魔王の目覚めっすよ!」
「ジン、良く聞くんだ、魔王の目覚めは、魔王と共に12の眷属が目覚める、魔王の目覚めを阻止しても、いや、本来だったら魔王の目覚めが不発に終わったとしても、何らかの恩恵を貰えるようになってるんだ」
「恩恵って…… あんなもの召喚されたら街が消し飛ぶぞ」
城の中は、あちこちから悲鳴や怒声が飛び交っている。
領主を筆頭に、城の人々が街の人々の避難と、城さえも捨てる覚悟で災害対策に入っている。
「ここまで進んでたとは、ジン! 急ぎ幻想の森へ行くぞ!」
解き放たれた漆黒の稲妻のように森の中を駆け抜けるシズネを、俺は必死の形相で追随するが、次第に後ろ姿は影となり、気配となり、その内に完全に見失った。
「あっちっす!」
チイユ!良かった、チイユが居てくれて。
俺は、自身の身体能力の低さに嘆きながら、俺に合わせて並走してくれるチイユに感謝しながら幻想の森の中央へと向かった。
幻想の森の中央、最深部。
そこには、見たことも無いような一本の大樹が、群青色の花を咲き誇りその存在感を放っていた。
大樹の周囲は湖になっていて、テレジアの街と同じように大樹の上空には巨大な魔方陣が描かれていた。
そんな事よりも、俺が驚愕したのは、湖の中に漂う信じられない量の金貨が魔方陣を乱反射して輝いていた事だった。
「これ、一体金貨何枚あるんだよ……」
「これは、金貨だけじゃないっす、大金貨もあるっす、スマホと同じ条件だったら、大金貨777万枚がイベント発動条件っす」
「それっていくらになるんだよ」
どこぞの国家予算を遥かに凌ぐその額の計算に思考が追い付かない。
「ローヤはこれだけの額どうやって手に入れたんだ?」
「簡単っす、国から奪ったんす」
「いやぁ~チイユ、それは心外だなぁ」
現実の事とは、あまりにも掛け離れた光景に目を奪われていた俺達の背後にローヤが佇んでいた。
チイユは慌ててスキルで防御の膜を展開するが、ローヤは嘲笑うように光を放つと、俺達と一瞬にして距離を開けた。
その速度は、雷が走る、その表現がしっくりくる感じだ。
「国から、ルシアン王国から奪ったんすよね?」
チイユは構わず話を続ける。
「だから心外だって言ってるでしょ? 奪うのも簡単じゃ無いんだよ、アレやこれやそれやどれなんか、色々苦労したんだよ」
ローヤが指折り、首を傾げ、楽しげな表情で語るが、その表情は苦労をした人間の顔じゃない。
「チイユ、もう少しなんだから、そこでゆっくり、じっくり見ててよ」
「断るっす!」
「断るって、じゃあどうするのさ? 既に発動が始まったイベントを強制終了させるのかい? そんな事聞いた事も無いのは、チイユも知ってるでしょ?」
「出来るっす、こっちにはシズネが居るっす」
「シズネ? あぁ、あの阿呆な女か、で? どこに居るんだい」
そう言えば、先に走って行ったハズのシズネが見当たらない。
「あはははははは、おかしいね、どこに行ったんだろうね」
その表情が、その口調が、その仕草が、その全てに苛立った。
「スキル発動! 黄金の軌跡」
怒りに任せて、ローヤに向けて、飛竜にさえも深手を負わせた一撃をローヤに、生身の人間に放った。が、それはローヤの手前で、風を巻き起こし消えた。
「あっれれぇ~、どこに行ったのかなぁ~?」
「それは! いつの間に手にいれたっすか?」
風が吹き荒れ、乱れる長い髪から見えた耳に何か光る金属を見つけ、チイユがその存在を追求した。
「気付いちゃいましたぁ? もう少し隠しとこうと思ったんだけどね、そうだよ、“神の翼”だよ」
神の翼? 滅多にお目にかかれない“神の宝具”をこの短期間にこんなにも出会えるとは、全部集めるのもそんなに苦労しないんじゃないか? と、安易な考えをしていると、それを見透かしたように、チイユがそんな俺を叱責した。
「こんな簡単じゃ無いっすからね? 普通は一生に一度、持ってる人に会えるだけで奇跡なんすからね」
「だいたい、ジンさんの周りは確率的におかしな事ばかり起きてるんす、常識じゃありえないんす、考えられないんす」
ポカポカとチイユが俺を叩いているんだろうが、体力差…… ステータス差が有りすぎて致命傷になりかねないから、本気で止めてくれと懇願した。
チイユは、我に帰りローヤを警戒する。
「そんなに警戒しなくても大丈夫だよ、君達が黙って見てれば僕は何もしないよ」
ローヤが口から出す言葉を遮るように俺はスキルを発動する。
「大金貨、10枚の大判振舞いだ、これで消えてくれ」
「スキル発動! 黄金の流星」
スキルの発動と共に、ローヤが顔を覆い笑う。
「ジンさん! ダメッっす!!」
チイユの言葉が空を掠める。
俺が放った無数の金色の軌跡は、すべて虚空へと消えて行く。
直後、凄まじい地響きが俺達を襲う。
「さすがチイユだなぁ~やっぱり僕は君が大好きだよ、でも阿呆なジンが先走ってスキルを発動するから、大変な事になったね」
「君がさ、放ったさ、スキル…… なんだったっけ? 黄金の流星? だったかな? どこに行ったと思う?」
ローヤがにやけて視線を送る先には……
「まさか! テレジアの街に…… 飛ばした? のか?」
「正解~! ご名答! 君も素晴らしい勘をしてるね、その通りだよ、魔獣の群れを一撃で、一瞬で滅ぼしたスキルが、あの街に降り注いだんだよ、領主も君がスキルを使う所を見てたらしいじゃないか、きっとみんな君を怨むだろうね」
「あ、それから、英雄の称号は、街の人に被害を及ぼしたら剥奪だからね」
「う~ん、残念だねぇ~」
攻撃が効かない…… それどころか、近寄れば飛ばされる、成す術無しとはこの状況を言うのか?
いいや、そんな事は無い、そんな事は言わせない。
「だったらどうした? 英雄の称号を剥奪? それがそんなにおもしろいなら何度でも笑わせてやろうか? 英雄? そんなモンに俺は興味がねーからな、今俺が興味がある事を教えてやろうか?」
「俺はな、お前の顔から笑顔を消してやりてーんだ、なんなら首から上を吹き飛ばしてやろうか?」
「スキル発動! 金塊の暴食」
俺は湖に手を入れ、湖の中を漂う金貨を両手一杯に掴んで、それらを一気に喰らった。




