17、有能で全能で無能な英雄の戦いの果てに……
その光を見ると、漆黒の剣士は剣をチイユに対して平らに構え叩きつけた。
斬るのでは無く、チイユの意識を刈り取るように剣を叩きつけた。
「……ジンさん、逃げるっ……す」
チイユは、意識を失う直前まで俺の事を案じてスキルを発動しようとするが、願いは届かず、地面に転がった。
俺は、その光景を瞳の奥に焼き付け、一度ゆっくりと瞼を閉じると、金色の光の剣を造り出し、大きく息を吸い込み漆黒の剣士へ良い放つ。
「どうして欲しい? 選べよ、俺に殺されるか、俺にぶっ殺されるか」
「どちらも無い、貴様は俺に殺され、チイユはローヤの元へと連れて行く」
このスキルを手に入れて、使い勝手悪い、魔力が無い等と言われ続け、俺なりにこのスキルで何が出来るか散々考えた。
金貨を用いてスキルを使う。
俺が辿り着いたのは、金貨を飲み込む事だった。
そして手に入れたこの力。
“金塊の暴食”
発動条件――
大金貨10枚以上の経口接種
能力――
経口接種後、身体が金色に輝きを放つようになり、そこから一定時間身体能力、魔力の爆発的向上
副作用――
能力発動後、一定時間経過後は魔力が尽き、行動不能となる
漆黒の剣士が、“神の剣”で上から右斜め下へ斬り付ける。右斜め下へ走った剣戟はさらにそこから一回転してそのまま上へと走り、その剣は気付くと左側へと俺を吹き飛ばす程の衝撃で斬り付け、その剣は既に俺の顔の真横を真っ直ぐに通り過ぎている。が、全て感覚で受け止め、受け流し、お返しに下から上へ向けた一撃で吹き飛ばし距離をあけ、間髪入れず金貨を弾丸の様に複数投げつけ、全てが漆黒の剣士へと届く。
しかし、通常爆発するハズのそれは音もなく砕け散る。
“神の剣”
能力――
スキルの無効化
発動条件――
大容量の魔力を常に消費し続ける事
副作用――
自信のスキルも無効かされる
自信に付加されたスキルさえも無効かする
大容量の魔力を常に消費し続ける
「故に貴様のスキルがどれだけチートだろうと、俺には効かない」
漆黒の剣士……ホントにこのスキルだらけの世界で、剣士を名乗るに相応しい奴だ。
これだけの力を持っていて、どうしてローヤに荷担する。
俺は、休む間もない漆黒の剣士の剣戟を弾きながらも、時間切れを常に意識して、全力で斬り付ける。
「剣が、一本じゃ足りねーな」
俺が剣を持った右腕をダラリと下に垂らし、左腕を前に構えると、漆黒の剣士は一瞬俺との距離を開けた。
その隙に、左手の中にもう一本、魔力で剣を造り出す。
いよいよ時間がねーな。
“金塊の暴食”は、魔力が爆発的に増えるが、無尽蔵になる分けじゃ無い。
使えば使う程、時間切れが早まる。
「お前にどんな戦う理由があろうと、俺は、俺の仲間に手を出す奴を絶対に許さねぇ」
「貴様に何が分かる」
漆黒の剣士は、雄叫びを上げ“神の剣”が消費する魔力量がさらに増えたかのように、紫色のスパークが剣を纏い、力任せに振り下ろす剣戟が幾度と無く俺を襲う。その剣はとても技とは呼べない程に単純いて、しかし、速く鋭く重たく、片手では防ぎきれない。
幾度目かの剣戟の後、巻き起こる紫色のスパークが俺の頬を焦がしそれに気を取られた隙を付いて、鬼気迫る漆黒の剣士の渾身の一撃が俺に振り下ろされる。
正直、その瞬間に死を覚悟した。
漆黒の剣士の“漆黒の鎧”の兜のその奥にある瞳から、燃え盛る炎が上がるのが見えた気がした。
気のせいだと言われればそうなのかも知れないが、俺はこの時、確かに瞳に炎を見た。
「ジンさんは殺させないっす! “神の盾”っす」
チイユが、スキル無効の剣に対して、それ同様に神の名を冠する盾を使用し、“神の剣”の一撃を防いだ。
最強の矛と、最強の盾を語る上で“矛盾”と言う言葉がある。
しかし、スキルを無効化する剣で、あらゆる物理攻撃、魔法攻撃、スキルでさえも、その身に受けた全ての衝撃、能力を無効化する盾を叩いても、その攻撃は通らない。ここに“矛盾”は無い。
“チイユ・タスクロード”という少女は、守ると言ったら必ず守る。
この世界で、恐らくNo1の守護者で間違いない。
チイユが掌から解き放った直径1m程の菱形の盾は、神々しく輝き、漆黒の剣士の決死の一撃を俺の目の前で防ぎ宙に浮いている。
俺はその隙を逃さず、御返しに、スキルで爆発的に向上させた身体能力で、さらに加えて筋組織が全て千切れる程に力を込めて、両手に握った2本の剣で、これも技とは遠くかけ離れた力技で順に斬り付ける。
3度、漆黒の鎧に剣戟を受けた漆黒の剣士は身体を大きく仰け反り後退し、握りが浅くなった“神の剣”を地面に叩き落とす。
大きく上に振りかぶった右腕の剣で、完全に無防備になった漆黒の剣士の胸を斬り付け、その一撃で鎧にヒビが入ったのを確認し、一回転してさらに2度同じ箇所を斬り付ける。
もう一撃――
さらにもう一撃――
漆黒の鎧の胸部が完全に砕け散り、漆黒の剣士は両ひざを付き、そのまま前屈みに倒れた。
同時に俺の身体を包む金色の光は徐々に弱まり、自分で斬り付けたその勢いのままに斜め前方に身体が浮いた。
「スキル発動! 不可防壁」
「っす!」
俺が吹き飛び倒れ込んだ先は、固い地面の上では無く、優しいスキルの壁に囲われた、柔らかくて、良い香りがする少女の胸の中だった。
「ジンさん、凄すぎるっす、オイラがスキルを封じられて手も足も出なかった相手に勝ったっす」
「相手は、“神の宝具”を持ってたんすよ、普通だったら絶対無理っす、こんなの勝てるのはジンさんだけっす、大好きっす」
「ジンさん大好きっす……」
チイユの頬から大粒の滴が流れ落ち、俺の瞼を濡らした。
柔らかい感触と、青い髪の良い香りに包まれて、俺は完全に魔力が尽きて、深い眠りについた。




