16、裏切りは誰の為に?
領主は俺達の申し出を快く受け入れていれた。
既に何度も調査部隊を送っているが、アリィ以外は誰も帰って来ていないという。
城や、その近辺の森の中で襲って来るのは獣ばかりで、冒険者に出くわす事は無いという事だった。
「派遣部隊が戻って来ないって事は、確実に何かと出くわしてるっす、今度はオイラが調査に行ってくるっす」
「お前まで石化したらどうすんだよ?」
俺がチイユの申し出を遮るとチイユは、キメ顔で“大丈夫っす”と、いつもより声を低く発して話を続けた。
「オイラは、“聖邪の鎧”を聖神化してるっすから、石化は無効なんす」
「流石は、英雄と呼ばれるだけの事はあります」
領主や、他の城の者達がチイユを褒め称え、他には何を聖神化しているのか、武器は持っていないのか、戦歴は、宗教はと次から次に質問攻めに合い会議は一時中断される。
「それで、ジン様はどのようなモノを聖神化されてるんですか?」
一人の男が俺に問いかけると、皆が一斉に俺に注目した。
「ジンさんは、スキルが最強だから、聖神化は必要ないんす」
“おぉ~”と歓声が巻き起こる。
そして、英雄チイユと、英雄ジンがもてはやされる。
俺は分けも分からずに、英雄として皆の称賛を受けた。
当然そんな会議は捗らず、結局最初にチイユが言った、自分一人で調査に行くという話で結論が出た。
俺も一緒に行くと言ったが、チイユは自分一人の方が守りやすいし、逃げやすいし、要するに俺は足手まといだという事だった。
その日の内にチイユは幻想の森へと向かった。
チイユの話では2~3日で戻るという事だったが、1週間が過ぎ、1ヶ月が過ぎても戻る事は無かったが、変わりに城が襲撃を受ける事は無かった。
1週間を過ぎた時点で、聖邪の鎧を持つアリィが幻想の森へと向かい、1ヶ月と少し過ぎた所で、衝撃の事実を城へと持ち帰った。
「アリィ、チイユは? ローヤはどうだった?」
「チイユ様は、私達を裏切って、ローヤに付きました」
そんな分けが無い、チイユが、俺を、裏切る、そんな事がある分けが無い。
「明日の早朝、日の出と共に、魔獣を引き連れてこの城を襲撃し、幻想の森のイベントを阻止する因子を全て根刮ぎ、根絶やしにするという事です」
「なんと、チイユ様が我々を裏切って、それではもしかして……」
領主や、城の人々がチイユと共にここを訪れた俺を疑う。
当然だ、チイユが裏切るのであれば、当然俺も疑われる事は理解出来る。
でも、納得できねぇ。
「チイユが俺達を裏切った理由は何なんだ?」
そう、俺を裏切ってでも成し遂げたい事が出来たのであれば、それが行動原理だと言うのであれば納得出来る。
さぁ、アリィ。俺が納得出来る理由を示せ。
「ローヤがこの城を落とし、ジン様を殺す手段を持ってると、チイユ様がローヤの側に付けば、ジン様だけは助けてやると、その事を信じてチイユ様は私達を裏切り、ローヤに付いたんです」
「なんと、ジン様をお守りする為に、自ら修羅の道を選んだと言うのか」
それでは、ジン様に裏切る理由は無いと、俺が英雄というだけの理由で領主達は、あっさりと俺を信じ、倒すべきはローヤとチイユという絵が出来上がった。
「分かった、それが理由だったらしょーがねぇ」
「納得頂けて良かったです、それではさっそく防衛の策を練らなくては」
「イヤ、俺は遠慮しとくよ、今回ばかりは進んで戦う気にはならねぇ」
「そうですか……」
アリィは残念そうに、俺が部屋の外に出ると、その扉を固く閉ざした。
そぅ、はじめからこうなる事が分かっていたかの様に。
俺は、持ち出せる全ての金貨を大道具入に入れると、翌朝の防衛の為、今は静まり返った城門前に、一人陣取った。
俺の知ってる“チイユ・タスクロード”は、どんな事が理由であったとしても、俺を守る為に、俺が嫌う事を絶対にやらない。
俺から嫌われる事を絶対にやらない。
それでいて、いつも俺を信じ、自らの力で俺を守り抜こうとする。
アリィは嘘をついている。
裏切り者がいるとしたら、それは間違い無くアリィだろう。
そのアリィが嘘を付いているとすれば、夜明けを待たずにこの城は攻められる。そうする事がローヤの狙いで、アリィの企みだろう。
月明かりで照らされる森の中を、俺が睨み付けると、不意に地面が盛り上がり、次々に湿った地面を打ち上げ、俺の良く知る魔獣……地獄の番犬が数体、イヤ、もっとか、さらに続けざまに数体の大蛇が現れた。
この10mを余裕で越える、この大蛇が、石化の元凶か……
このまま俺が石化されるか、食い殺されるというのがローヤの計算か?
チイユは、きっと俺が魔獣と戦う事無く他が殲滅されるか、もしくはアリィが俺を守ってくれるとか聞いてたのか。
……違うな、チイユは何も出来ない状態で捕らわれているという所だろう。
ローヤがチイユに手荒な真似をやるとはとてもじゃないが考えられない。
とりあえず、目の前のこいつらを殲滅しねーとな。
「スキル発動! “黄金の流星”」
俺は、一撃で消えてしまうチートスキルでは無く、手の平で掴む事の出来る鞭のような撓りのある軌跡を産み出す、金色の弾丸を放った。
続けざまに、二枚、三枚、四枚とその数を増やして行く。
大金貨の裏には、複数の流星が舞い降りる夜の草原が描かれている。
俺は、その光景を再現するように、金色の流星を空から獣へと降り注ぐ。金色の流星の一つが一体目の番犬を貫き爆発すると、次々に流星は魔獣達へ降り注ぎ2体、3体と、その動作を繰り返し、その場の魔獣を殲滅した。
それは、一瞬の出来事だった。
獣の断末魔を聞き付け、城のテラスから身を乗り出し、領主達がその光景を食い入るように見ていた。
「これは、凄い、いや、凄いとかそんなモノを遥かに超越した神業だ」
領主と共に飛び出したアリィはまさかの光景に後ずさりしていた。
「アリィ、どうして魔獣がこんなにも早く来たんだ?」
領主は、当然そんなアリィを問い正し、捕縛する。
身体能力で優れているアリィは、そんな拘束、一瞬で解いてしまう事も出来るだろうし、そもそも捕まらずに逃亡する事も出来たであろう。
それにも関わらず、静かに捕らわれるアリィに違和感を覚え俺は視線を慌てて前に戻した。
「これは、これは、素晴らしいじゃないか、僕の想像以上だよ」
森の奥から、いつの間にか現れたローヤが手を叩きながら、俺に称賛を贈る。白々しい……お前は俺がチイユが居ないと何も出来ないと考えていたんだろうが、それが誤算だ。
「お久しぶりですね、ジンさんが魔獣達を倒す事を僕が誤算と考えてる思ってるの? だったら、全然違いますけどね」
そうやって何もかも見透かしたようにローヤが笑う。
「ジンさん、君のスキルは君が思っているよりも一回りも、二回りも凄くて信じたくない程のチートスキルなんだよ、それを君は理解してるのかい?」
「でも、魔力が無いのも周知の事実、皆知ってるんだよ、気付いて無かったなのかな? 魔力が無ければ、どんな最強のスキルも使えないね、残念だね、無念だね、君は雑魚に魔力を使い果たして、本命の僕に殺されるんだよ」
ローヤは俺を完全に見下し笑いだす。
「ローヤ何が可笑しいんすか? ジンさんは最強っす、無敵っすよ」
チイユが、“漆黒の鎧”を身に纏う剣士に連れられ、森の奥から出てきた。
その首には、眩しい程に神々しい剣が突きつけられている。
それでも尚、チイユは俺のスキルを見て、込み上げてくる笑顔を抑えきれないようだ。
チイユが身動き出来ない理由は、見たままの状況が示してくれた。
流石に剣が喉元に触れていれば、どんな防御スキルを使っても無意味だろう。
俺に魔力が無い? そんな事は分かってるよ。
俺にはいつも何かが足りねぇんだ。
だから、気付いてたから、色々試したんだよ。
チイユを、皆を守る為に。
「スキル発動! 金塊の暴食」
俺は、数十枚の大金貨を手に持つと、輝く金貨を飲み込んだ。
正確には、金貨は溶けて原形を留めておらず、液体と成り果てた黄金の滴を飲み干した。
さっきまで高笑いしていたローヤの顔つきが変わる。
「漆黒の剣士さん、君に後の事は任せるよ、僕は幻想の森に帰り儀式の仕上げに入るとするよ」
「あぁ、俺は初めからそのつもりだ」
ローヤは漆黒の剣士に耳打ちすると、森の奥へと消えて行った。
俺は急ぎ追いかけようとしたが、漆黒の剣士が放つ殺気と、チイユに突き付けられた剣のお陰でその場に釘付けにされた。
「いくらジンさんでも、この武器、“神の剣”には敵わないっす」
「今は、逃げるか、ローヤを追いかけるっす」
「煩い、貴様から殺しても良いんだぞ?」
剣の刃が食い込み、チイユの首筋から血が流れ落ちる。
その時、漸く俺の身体が金色に光始めた。




