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GOLD GOD GLORY  作者: 白雲糸
第一章~魔王の目覚め~
13/96

13、バカで阿呆な羊

俺はどこまで行ってもギャンブルバカなんだ、知っている、それで後悔した事もいっぱいあった。それで、悔やんだ事もいっぱいあった、それでもそんな生き方を悔いた事は一度も無い。

俺は、俺のやりたいようにいつでもやってきた。

それで降りかかる災難は全て受け入れてきた。


何が悪い?


楽しいこと、やりたい事を我慢して生きるなら、死んでるのと同じだ。

そんな延命に価値なんて無い。


俺は、“生きてる”って感じたいんだ。


「それでは、ご案内致します」

「……っ⁉」


スーツを来た、身長2mを越える男二人が俺の両脇を抱え持ち上げる。

いつの間にか会場の音楽は止まり、全てのギャンブルが一時中断されている。

俺は、来た時とは違う扉の奥に連れて行かれた。

抗う事はしなかった。

男達の力が強かった事もあるが、運命は受け入れる、その上で破壊するというのが俺の信念だったからだ。


ただ、その時、他の奴等がボソボソと呟いていた事が、耳の奥で繰り返し俺に囁きかけた。


“あいつバカじゃねーの?”

“普通チップ一枚絶対残すだろ?”

“死んだな”

“ご愁傷さまです”

“危ねぇ、俺もチップ残り少なかったけど、熱くなって気付かなかった”


俺は、犯しては行けない禁忌を犯したらしい。


強制イベント“羊達の沈黙”


数日後、両手に重たい鎖を巻かれ、闘技場に投げ出された俺は、再び赤い文字で、異なる風景を目に刻んだ。


両手は鎖で巻かれ自由度は低い。


闘技場の壁は高く、数十メートルはあり、外に危険が及ばないような造りになっていた。

それだけ、この中は危険という事を悟る。


スーツの男に連れて行かれてから数日間は、牢屋に閉じ込められ、豪華なあの部屋の食事とは比較が出来ない程に粗末な食事を与えられた。


その間俺は、まるで死刑を待つ受刑者の気持ちになっていた。


まるでと表現したが、闘技場に放たれた一頭の獣……魔獣を見た瞬間に、これが死刑であるという事を理解した。


頭が三つの想像上、空想上の生き物。


地獄の番犬(ケルベロス)……


その体躯は、筋肉が脈動していて、兎に角デカい。


白熊と対峙した事は無いが、白熊が小熊に見える程に、この番犬はデカかった。


それでも、チイユ達と一緒に遭遇してきた獣は、これに勝るとも劣らない風格だった。

しかし、今はチイユは居ない、俺を守るモノは何も無い。

しかも、今は手に鎖を巻かれ、その尋常じゃない重さに耐える事で必死で、壁に囲まれた闘技場からは逃げる事も、抗う事も出来ない。


スーツの男が、闘技場に俺を放つ直前に、“スキルや魔法は自由に使って構わない”と、低く聞き取り難い声で囁くように言った。


スキルが自由だったらなんとかなるのがこのイベントの仕組みらしいが、俺にはスキルが使えない。

金貨が無ければ何も出来ない。

それが、俺のスキル……。

チイユが“使い勝手が悪い”と言っていた事を不意に思い出す。


「ちょ、待てって……」


チイユの心配する顔が浮かんできた。

直後に、番犬(ケルベロス)が俺に突っ込んで来て、俺は軽々と吹き飛ばされ、闘技場の壁に激突した。

全身から血が吹き出すんじゃねーかと思う程の痛みが駆け抜ける。


それでも、この世界で鍛えた身体はもってくれた。


必死で立ち上がろうとする俺を、まるで飼い犬に与えられた、おもちゃの様に牙で優しく挟み込むと闘技場の中央に投げ飛ばされた。


優しく俺を噛んだ牙は、その仕草とは裏腹に、しっかりと俺の足と、胴体に食い込んだ。

痛みが、熱が込み上げて来る。

会場からは歓声があがる。


壁が高くて見えづらいが、俺のショーを沢山の人が見ているのが分かる。


そして、その反応から、皆俺では無く、この番犬(ケルベロス)を支持している事が容易に想像できた。

当然だ、俺も魔獣と俺を比較するんだったら、迷わず魔獣にベットする。


三つの頭が、俺を奪い合うように次々に食らいつく、最後は飽きたのか、地面に叩きつけ、強靭な前足で蹴り転がす。


観客も飽きて来たのか、殺せコールが会場を覆う。


全身を貫き、停滞する痛みが俺に語りかける。

“もぅ、良いだろ?十分に頑張ったろ?お前は場違いなんだ、早く終わってしまえ”

その声は、優しく、聞き覚えがあるが、誰の声か思い出せない。

悪寒が走る、走って、走り抜けると、猛烈な眠気が襲ってくる。


そんな俺の事など気にする様子も無い、三つ首の番犬(ケルベロス)は、口の中に炎を溜め、既に絶命しかけている俺にそれを浴びせようとしている。


いつもだったら、ここでチイユが現れて助けてくれるんだろうが、そんな気配は無い。

俺は、覚悟を決め、ゆっくりと立ち上がる。


ここまで、ズタボロにされて立ち上がる事が出来るのは、チュートリアルを受けた事と、ここまで来るのに必死で走って来たからだろうか……。

やってきた事が無駄じゃなかったと思うのは、大人と呼ばれるようになって、イヤ、もっと前からか、初めての事だった。


いつも努力をしても、結局結果がついて来なかった。


部活でも、受験でも、就職でも、結局要領が良いやつか、努力が苦にならないような変態か、努力が実る環境に身を置いている奴が、結果を手にいれる。

何も持たない、俺のような奴は、最後は運が無かったと諦めるしか無かった。


だってそうだろ。


俺は頑張った、死ぬほど頑張った、頑張って、頑張って、頑張った事に結果がついて来なければ、そうやって諦めるしかない。

本当に頑張ったから、だからこそ現実を受け入れる事が出来ないんだ。


こんな所で、こんな番犬(ケルベロス)ごときに俺はやられてしまうのか。


そう思ったら、急に恐くなって、切なくなって、悲しくなって、諦めかけていた自分の命に抗うように、必死で立ち上がり、番犬(ケルベロス)が吐き出す灼熱の火の玉を手に巻き付いた鎖で受け止める。


両腕は焼け爛れたが、鎖は火の玉の熱量を受け止めきれずに、砕けて、弾けた。


それで状況が何か変わる分けじゃない。

けどよ、一矢報いる事位は出来るんじゃないか?


火の玉で止めを刺すつもりであったであろう番犬(ケルベロス)は何が起こったのか、その三つの頭でも理解が出来てない様子だ。

いや、三つもあるから混乱しているのか?


俺は、痛みで気を失いそうな事以外は至って冷静だ。


しかし、反撃が出来ない。


身体能力で劣り、魔力で劣り、武器で劣り、スキルで劣る俺には、こんな番犬(ケルベロス)一頭を殺す事さえも出来ない。


“死”というフレーズが一瞬浮かんで来た。

それは、最初は一瞬だったが、徐々にその存在感を示し、俺の中で大きくなり、恐怖で足が震えるのを必死で我慢した。


……


結果は、俺の大勝だった。

どういう理由か、逃げ惑っていた俺の足元に、砂に埋もれた金貨が一枚その輝きを放っていた。


~闘技場のルール~

・スキルは自由に使える

・魔法の使用も問題無い

・スキル、魔法で出現した武器の使用は認めるが、武器の持ち込みは禁止

他、色々と……


ただ、言える事は、落ちている金貨を拾って、スキルを発動させてもルールに抵触しない。


闘技場に俺の笑い声が響く。


飛竜を相手にダメージを負わせた金貨が一枚俺の手の中にある。

大金貨じゃない事が悔やまれるが、これで十分だ。

一枚あれば、こんな魔獣怖くない。


気付くと、自然と足の震えが止まっていた。


そこからは、飛竜に一撃をお見舞いした動作を再現した。

スキル発動……そして番犬(ケルベロス)の絶命。


金貨は、番犬(ケルベロス)に直撃すると大爆発を巻き起こした。

正面、ド真中の顔が吹き飛び、前足、胴体の血肉が飛び散り、残った頭の瞳は輝きを失い、その場に崩れ落ちた。


さっきまで起こっていた、番犬(ケルベロス)コール、殺せコールは鳴り止み、闘技場を静寂さが包み込んだ。


その静寂を切り裂くように一人だけ、たった一人だけ大声で喜んでいた。


「やったっす!ジンさん、最高にカッコいいっす、めちゃくちゃにされたいっす、お嫁さんになりたいっす、まずは抱き締めて貰うっす、でも頑張ったのはジンさんだから、オイラがヨシヨシするっす、抱き締めるっす」


チイユの声に、その内容に、観客は完全に冷静に熱が冷めてしまっただろうと思ったが、それも束の間、鳴りやまない大歓声が闘技場を包んだ。


何かを頑張って良かったと思った事は今まで一度も無かった。

努力して掴み得た事はあるが、それが努力に見合ったと思った事は一度も無かった。

ただただ、虚しく、理不尽な毎日を過ごしていた。


そんな日々を、金貨一枚がぶち壊してくれた。


俺は、拳を握り、はしゃいで喜ぶチイユに掲げて見せた。


俺は、素直に嬉しかった。

自分の力で何か出来た事が。


でも、違った。


何でチイユがここに居るんだ?


何で、金貨が落ちていた?


たまたま?


そんな分けが無い。


チイユが落として……置いてくれていたんだろう。


そんな事をして、俺が喜ぶと思っていたのか?


そもそも、喜ぶも何も殺されかけていた分けだから、命を救われた分けだから素直に感謝するべきだろう事は分かっているんだけどよ……


どうして、いつも俺を助けるんだ?

それで、俺がどれだけ惨めな思いをしているのか分かっているのか?


分かってねぇ~んだろうな……。

あの笑顔(かお)はそんな笑顔(かお)だ。


俺は、そのままイベントから、闘技場から解放されると思っていたが、そのまま扉の向こうに連れて行かれて、元の牢屋に繋がれた。


それから10日間、10体の獣と戦った。

戦って全て倒した。

闘技場には、毎回金貨が落ちていた。

そのお陰で毎回勝つ事が出来た。

10回目の勝利で俺は闘技場から解放された。


「流石ジンさんっす、“羊達の沈黙”のクエストをクリアした人は殆ど居ないっす」

「オイラだったら、どこかで諦めて逃走するっす」

「不味いもんしか食べてないっすよね?」

「旨いもん食いに行くっす?行くっす?行くっす!」


なるほど、理解した。

こんな粗末なクエストに最後まで付き合う阿呆はいないんだろう。

“雄弁な羊飼い”の方が明らかに合理的で、優雅で、簡単なんだろうが、俺はその機会を自ら手放した。


「凄いっす」

「凄いっす」

「凄いっす」


お祭り騒ぎのチイユが少しだけ鬱陶しいが、ここまで喜ばれると流石に少しだけ照れてしまう俺はやはり阿呆なんだろう。


「行くぞ!」

「行くっす、ジンさん、何食べたいっすか?」

「とりあえず、ボリュウムがあって旨いもんかな?」

「分かったっす、行くっす」

「所で……」

「どうしたっすか?」

「アリィはどうした?」

「アリィは置いて来たっす」


……


【今回のイベント報酬】

羊の呼び笛(シープコール)

羊飼いの腕輪(ハンドカフス)



~金銀財宝全て換金済~

金貨×20枚

【2000万相当】


以下、銅貨、銀貨、道具省略



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