1、これが俺の人生~バットエンド、それがどうした?
人生は不公平だ。
どれだけ頑張っても、どれだけ努力しても、結果が出なければ認められない。
だから、俺は、努力も、過程も関係ない、運の世界に身を置く事にした。
俺は職業を良く聞かれる。
俺は即答で“パチプロ”と答える。
皆一様に、“はぁ?”という完全に見下した顔をする。
時間給で働いて、月給で働いて、どれだけ稼いだとして、稼げば稼ぐほどに国が搾取する。
働き方改革だのどうのこうのと言う話が出て来るが、結局残業しても残業しても残業代まで国が税を課すような世の中で、俺からしてみたら、定職に着いて働いている奴等の方が“はぁ?”だ。
その点パチスロは良い。
パチンコ屋には、換金率ってやつがある。
まぁ、良い子には分からないかも知れないが、玉やら、コインやらを現金に変える時に、約1割程度店が搾取する。
しかし、その換金率以外は何も搾取されない。
月20万の給料から国がいくら搾取してるか知っているか?
健康保険、厚生年金、雇用保険、所得税、住民税諸々、本気で考えるのが嫌になるほど国が搾取しやがる。
この話をすると、インテリな奴等は、その恩恵を国民は受けてるとか、そもそも国民の三大義務だのなんだの言いやがる。
“ふざけるな!”
そんな事は俺は知らない。
生まれてこの方病院なんて使った事無いし、そもそも年金なんて貰えるかなんてわからねぇ。
道路だって、車も自転車も使わない俺はこの辺が砂利道だろうと、ぬかるみだろうと関係ない。
電気はどうする?長距離の移動はどうする?
それは、民間企業にしっかり払ってる。
その民間企業の職員は国に税金払ってるんだぞ?
だからなんだ。
俺はそんな生き方をしたく無いと言っただけだ。
最低限、この国の国民として、せめてもの礼儀として、そいつらに敬意は払う。だがしかし、それだけだ。
パチプロとして儲けているのか?稼ぎはあるのか?
あぁ、調子が良い時で月に20万位は稼いでる。
もちろん、そこに国が税を課すことは無い。
年収はどれくらいか?
100万位だが、それがどうかしたか?
俺にはそれだけあれば十分だ。
一日中空調が快適な店で過ごして、一日1食でも苦にならない。
知ってるか?喉が乾けば、公園で水が無料で飲めるんだぞ?
本が読みたければ、店にある。
パチンコ屋のカードのポイントでたまには酒が飲める。
便利な世の中だとは思わないか?
……
おい、ちゃんと聞いてるのか?
「なんすか?ジンさん今日も負けてイライラしてるんすか?」
そういうお前はどうなんだよ?
「おいらは、雇った人達から回収した分と合わせて……」
いくら買ったんだよ?
「ちょっと待って下さいっす、今計算してるんす」
「あ、出ましたよ、今日はトータル628,200のプラスっす」
め、めちゃくちゃ勝ってるじゃねーか。
「そこから雇った人達に経費を払ったから、オイラの勝ちはたったの180,000位っすよ、たいした事ないっすよ」
そう言いながら、笑う30代のおっさんに俺は苛立ちを覚えながらも、今日俺が勝った分の日当18,000を受け取った。
当然いつもは、自分でカネを出して打って、勝った分のカネで生活してる。
けど、どうしても調子が悪くて、打つカネさえも余裕が無いときは、この30代の小太りのおっさん“チュウタ”に雇ってもらう。
――
「最近チュウタさん払い悪いよなぁ」
「ホント、それな」
「だいたいよ、日当8,000て決めてるのに、敗けが続いたら払わないとか勝手過ぎんと思わねぇ?」
「思う、マジそれ思う!」
いつもの光景だ。
チュウタは常に、10~20人程度代理でパチスロ台を打つ人間を雇っている。
俺も今日はそいつらと一緒に朝の抽選に並んでいる。
何の抽選か?
パチンコの事に関しては、別でググってくれ。
いちいち説明してたらとんでもねー事になる。
努力が糞だと言ったが、最低限の知識が無いと話にならねぇ。
そんな底辺の中でも、ド底辺のやつらが、温厚で、面倒見の良いチュウタからも見放される事がある。
そんな前兆として、だいたい抽選でチュウタに対する愚痴を溢している。
俺も敗ける時はある。
でも、そんな時は、どんな時でも一日必死で打ち切る。
そんな時、チュウタは、申し訳なさそうに5,000だけ渡してくる。
既に数万敗けているのにも関わらず、俺が悪いにも関わらず、チュウタは申し訳無さそうに5,000渡してくれる。
それなのにも関わらず、俺の前に並ぶこの二人は永遠30分チュウタに対して愚痴を溢して抽選に敗れた。
俺は、しっかりと数百人並ぶ抽選で28番を引き当てた。
これで今日の勝ちは手堅い。
そう考えたのは、今日の朝の出来事だった。
一日が終わってしまえば、大敗の結果だった。
何が悪い、一生懸命頑張ったんだよ。
トイレに行きたくても、高設定確定してたから、必死で我慢して打ったんだよ。何が悪かった?
昼間、チュウタが差し入れしてくれたコーヒーを飲んだだけで、一日必死に打ち切った。
それでも、結果はズルズルと5万敗けだった。
いつものようにチュウタが、申し訳無さそうに俺の所にやってきた。
「申し訳ないっす、今日も5,000しか渡せないっす」
「いや、今日はいらねぇ!」
「受け取って貰えないと困るっす」
「何が困るんだよ」
「だって、ジンさん頑張ってくれたっす」
「受け取って貰えないと、二度と代理で雇えないっす」
それを言われたら……クソっ!
「分かったよ、だったらチュウタ!飯行くぞ!!」
「ジンさんとだったら大歓迎っす!」
そう言って満面の笑みで笑ったちゅうたは、スゴくキモかった。
けど、それでも、俺の努力を、結果を伴わない過程を素直に、本当にシビアだが素直に評価してくれるチュウタを俺は嫌いでは無い。
勝った時によく行くファミレスを避けて、ひっさしぶりに馴染みの居酒屋へと向かった。
5,000分を飲み食いに一日で使おうと思ったら、結構好き勝手食える。
チュウタは尚も申し訳なさそうにしているが、俺が奢りだと言い切ると素直に喜んでくれた。
チュウタの資産は推定でも数千万はあると雇われている奴等の間ではもっぱらの噂だ。
その噂話が、隣の集団からも聞こえて来た。
「チュウタさんってカッコいいよねぇ~」
「何?ミナコ、あんたあんなおっさんがタイプなの?」
「ミナコちゃん、それは無いわ~俺達の方が圧倒的にカッコいいぜ」
「え?だってお金持ちだよぉ、私お金持ち大好き」
「なんだよそれ、結局カネじゃねぇか」
「うんうん、見た目も、ポッチャリしてて、髭面で、凛々しくて、私達をしっかり雇って、社長って感じでカッコいいの」
「うるせえよ、あんなブタの話なんてどうでも良いんだよ、俺の前で二度とあいつを良く言うんじゃねぇ」
まぁ、良くある光景だ。
お金大好きな女子と、女大好きな男子と、勝てなくて、カネが無くてイライラしている奴等のどうでも良い飲み会の席だ。
会社の飲み会では、だいたい上司の悪口とかだろうけど、俺達が飲みに行くとだいたい、チュウタみたいな雇い主の話になる。
しかも、酒が入ってるからろくな話にならねぇ。
だから、俺は大体こういう飲み会は、誘われても断る。
まぁ、俺も30代突入した頃から、こういう若い連中に誘われる事も無くなったんだが。
「チュウタ、気にするな」
「うん、おいら全然気にしてないっすよ、だって皆のお陰でおいらは飯がくえてっるっす、感謝っす」
本当に、こいつと俺の差を見せつけられる。
これで、可愛い天使見たいな女の子だったら惚れてしまう所だ。
「チュウタ、それ明日の情報か?」
「違うっす、ただのスマホゲームっす」
俺達は、食いたいだけ食って、飲みたいだけ飲んで寛いでいた。
「ジンさんは、空き時間とかにやらないっすか?ゲーム」
「俺がゲーム?やるわけねーだろ?俺がやるのは真剣勝負だけだ」
「そもそも、カネにもならねー事をやる時間なんてねーよ」
「そんな事無いっすよ」
ちゅうたが、スマホをテーブルに置いて急に真剣な表情で俺を見てきた。
「このゲームはゲームであってゲームじゃないっす」
「なんだよ、急にそんな真剣な顔でよ」
「このゲームは全世界数億ダウンロードしてる、超有名、超リアルな真剣ゲーム“WORLDEND”っす」
「真剣ゲームってなんだよ、まさか、ゲームで死んだらリアルでも死ぬとか言うんじゃねーよな」
「そのまさかっす」
気のせいか、さっきまで賑やかだった居酒屋の店内から音が遠ざかって行く気がした。