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♯影冤の人〜僕は過去で未来のキミと、二度出逢う〜  作者: 道楽もん
第二章 傀儡女編

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乙女の休息2


「この傷は二年前……ある男によって負わされた……いや……」


 イザヨイは伏し目がちに語り始める。


「……生まれついての醜女しこめである妾には、有って当然のモノやもしれぬ……」


「そんなこと……そんなこと、無いですよ。なんで、そんな事を言うんですか? 」


 コハルは悲しそうな表情でイザヨイに聞き返す。


「うむ……だが、先ずは服を着させてはくれぬか? 裸のままでは、いささか落ち着かぬ……」


 イザヨイはそう言うと、少し悲しそうに微笑む。


 湖から上がり濡れたままの状態で服を着た二人は、服が乾くまで近くの樹木の根元に腰かけて話し始める。


「我等傀儡子は、数年前まで全国を巡っておった。あの男……クサナギとは上総国(今の千葉県あたり)で出会った」


 イザヨイは思い出を辿るように、物悲しい眼差しで宙を見つめている。


「今思えば、不思議な出会いであった……我等が街道を歩いておると、一人の……正体の分からぬ怪しい人物から声をかけられた」


「誰だか分からないんですか? 」


「うむ、頭から布を被るように全身を隠しておったのでな。立ち居振る舞いから只者ではない事は覚えておる」


 身体にまとわりつく小袖を気持ち悪そうにつまむコハルを見て、イザヨイは微笑みながら話し続ける。


「その者は、『近くの樹の根元に、クサナギと言う名の男が待っている。彼は記憶を失くしているので、面倒を見て欲しい』と妾に言った後、姿を消しおった」


「怪しい上に厚かましい奴って、最悪じゃないですか……イザヨイさんは、そいつの頼みを引き受けちゃったんですか? 」


「その者はともかく、記憶を失くしているとは只事ではないし、不憫ふびんにも思えてきてのぅ……一族で面倒をみることにしたのじゃ」


 イザヨイは、コハルとの間に横たわるトウキチの頭を優しくなでる。


「クサナギは記憶が無くとも良く働き、そして一族でもとりわけ醜女である妾でさえさげすむことなく接してくれた」


「優しい方なんですねぇ」


「……そんなクサナギを、妾は生意気にも慕い始めておった。やがてクサナギの方から関係を迫って来るようになり、妾もそれを受け入れた……」


「良いですねぇ、私も醜女と言われているので、そういうの憧れますぅ……」


 うっとりするような表情のコハルを見て薄く微笑んだイザヨイは、徐々に顔を曇らせる。


「互いに同じ気持ちである事を何の疑いもなく、二度身体を重ね合わせた次の夜……奴は豹変しおった」


 トウキチの頭を撫でるイザヨイの手が、徐々に止まっていく。素直に頭を撫でられていたトウキチは、急に頭を振って立ち上がると森の中へと歩いて行く。イザヨイはそんなトウキチの背中を力無く眺めてから、再び話し始める。


「あの夜のクサナギは様子がおかしかった……いつもの優しさが微塵も感じられないような素振りで、妾を激しく抱いて姿を消す直前に……」


 両脚を抱えるように座っていたコハルは、その腕の中に口元を隠すように縮こまりながら耳を傾ける。


「『醜女らしい顔に変えてやろう』と……その時、奴が何処からか持ちだした石包丁の様なもので……顔も、心も……えぐられて……」


 イザヨイは身体を震わせ、両手で顔を覆ってしまう。コハルは見かねたように胸の中にイザヨイの頭を抱く。


「クサナギの心が妾と同じだと自惚れ、人並みの幸せを求めようなどと思ったから……天罰がくだったのじゃ……」


「そんな事ありませんっ。そんなこと……」


 その言葉を皮切りに、堰を切ったようにイザヨイの頰を涙が伝い落ちる。コハルはその間ジッと身動きせずに、イザヨイの気持ちを受け止め続けていた。


「……妾の方が歳上じゃというに、みっともない姿を晒してしもうたの」


 ひとしきり泣き終えたイザヨイは、心なしか晴々とした面持ちでコハルに礼を言う。


「このような事、誰にも話せぬでな。いくらか気が晴れたわ……」


「……友達なら、当たり前じゃないですか」


 コハルの言葉に、イザヨイはキョトンとした表情を見せる。


「……友……妾と、其方がか? 」


「ハイッ。……ご迷惑ですか? 」


 おずおずと尋ねるコハルを見て、イザヨイは優しく微笑む。


「とんでもない。妾から願いたいくらいじゃ」


「……良かったあ。本当は、ずっと前から仲良くなれないかなと思っていたんですよ。

 出会って間もない頃、私とヒロキ様に対する態度が親の仇かって位、刺々しかったから……」


 コハルの言葉にイザヨイは申し訳ない様な表情を見せる。


「気を揉ませてしもうたの。

 実はヒロキ様の顔も性格も、出逢った頃のクサナギと似ておっての。再び妾の目の前に現れたのかと身構えてしもうたのじゃ」


「……そんなに似ているんですか? 」


「うむ……正に瓜二つじゃ。もちろん、その後仕事を通して其方らと付き合ううちに、それは誤解であると気付いたがの」


 にこやかな笑顔を見せるイザヨイに、コハルはホッとした様な表情を見せる。


「……原因が分かったからスッキリしました。イザヨイさんに、そんな過去があったんですね。

 あ……って事は……」


 何かに気付いたのか、険しい顔でイザヨイに詰め寄って行くコハル。


「イザヨイさん、ヒロキ様の事気になっていたりしてないですよね? 」


「……なぬ? 」


 イザヨイは少し焦った様に、驚いた表情でコハルに聞き返す。


「昨夜『牛鬼』と戦う前にヒロキ様にもたれかかった時、只ならぬ気配を感じたんですけど……」


「……あぁ、あの時か……」


 イザヨイは宙に視線を漂わせ思い当たる節に気付くと、チラリとコハルの表情を盗み見る。


「……確かにあの時は、ヒロキ様に昔のクサナギを重ね合わせていたやもしれぬ……」


「ヒロキ様はお優しい方ですけれど……ダメですよ。その……」


 コロコロと表情を変えるコハルを、楽しそうに眺めるイザヨイ。


「コハルを見とると、本当に楽しくなってくるのぅ……安心せい、コハル」


 ふっと寂しそうな笑顔のイザヨイは、はっきりとした口調でコハルに告げる。


「……妾は、もう二度と男性を愛する事はあるまい……」



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