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♯影冤の人〜僕は過去で未来のキミと、二度出逢う〜  作者: 道楽もん
第二章 傀儡女編

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鬼堂の主人

 

 イザヨイがコモチの後を追って森に入り一時(約二時間)が過ぎた頃、コモチの姿を見失ったイザヨイは、道に迷っていた。


「さっきから、同じ所をグルグル回っている気がするのぅ……どこに行ったんじゃ」


 息を切らせて道無き道を行くイザヨイは、暑さの為か身につけた直垂ひたたれの襟がはだけ、豊かな胸元をのぞかせている。手ぬぐいで胸元の汗を拭きながら天を仰ぎ、鬱蒼うっそうとしげる樹木を眺めてため息をつく。


「坂になってきたから、森を抜けて山を登っていると思うがのぅ……ん? なんじゃ……? 」


 ふとイザヨイは、何かを感じて鼻をひくつかせる。


「松ヤニの燃える臭い……山火事では無いな、かがり火……か? 

 山の中とはいえ、灯りが必要な暗さとは思えぬが……何かしとるのか? 」


 一人つぶやいたイザヨイは仕事道具の入った木箱を担ぎなおし、臭いをたどり歩き始める。


 やがて木々がひらけると、目の前には巨大な洞窟の入り口が現れる。その前の地面には円形の図形が描かれており、それを照らす様に焦げた臭いを辺りに放つ、かがり火が二つ焚いてある。

 イザヨイは草むらにしゃがみ込むように身を潜め、辺りを注意深く観察する。


「誰もいない……? いや、洞窟の中から声が聞こえる……」


「……ええぃ、言う事を聞きなさい」


 耳を澄ましていると、洞窟の中からコモチの声と共に何か大きなモノが、抵抗する様な物音が反響して聞こえてくる。


「やはり、ここにおったかコモチ……と、あれは……牛? 」


 白い水干すいかん姿のコモチが一頭の牛を引き連れ、洞窟の中から姿を現す。牛は何かを予感しているのか、コモチを振り回さんばかりに激しく抵抗している。


にえは贄らしく、大人しくして下さいな……実験一つままならないではないですか」


 コモチは言う事を聞かぬ牛に文句を言いつつ、地面に打ち付けられた杭にようやく牛の手綱をくくりつける。


「ふぅ……これで良し。準備出来ましたわよ」


 そう言ってコモチは洞窟の中へと声をかける。


「実験……? コモチめ、何をやろうと……あっ、あぁっ……」


 イザヨイはコモチの言動に首をひねっていたが、洞窟の奥から出てきた人物の顔を見て、力が抜けた様にペタンと座り込んでしまう。


「うむ、ご苦労」


 洞窟の中よりコモチに声をかけ近づいて行く人物は、肩から紐で吊るされたさや長尺刀ちょうじゃくとうを収め、堂々たる態度で歩いて来る。

 その男性のたたずまいを眺めながら、コモチはほぅっとため息を漏らす。


「……どこか、頼りなげな雰囲気のヒロキ様も良いですが……わたくしは、やはり自信のみなぎる男性が好ましいですわ。……ねぇ、クサナギ様」


「ヒロキ……? 

 あぁ、この俺と同じ顔をした奴の事か……取るに足らぬわ。

 俺と勝負になる様な輩であれば、話は別だが……」


 クサナギと呼ばれたヒロキと瓜二つの顔をした男性は、不敵に顔を歪めて笑う。


 コモチとクサナギの会話を聴いていたイザヨイは、まるで見ているものが信じられないと言う様な表情で、震える手で声が漏れぬよう口元に手を当て、一人ごちる。


「……雰囲気はまるで違うが、あの顔で長尺刀……二年前に妾を捨て、姿を消したクサナギ様に間違いない。

 何故、今頃になって……」


「……むぅ? 」


 クサナギは不意に周囲に目を配る。その様子を見たコモチは、不思議そうにクサナギに尋ねる。


「……どうかなさいましたか? クサナギ様」


「人の気配がする……何者かが潜んでいるぞ」


「あぁ……」


 コモチは下ぶくれた能面のような微笑みを浮かべる。


「きっとイザヨイですわ。ようやく追いついたのでしょう。

 わかっていますわよ、姿を見せて下さいな」


 イザヨイはコモチの声に応え、担いでいた木箱をその場に下ろしてのろのろと立ち上がる。小刻みに震える身体を必死に押さえつけながら、やっとの事で草むらから出て来たイザヨイは、クサナギに向かって搾り出す様な声で話しかける。


「……久しぶりじゃな……クサナギ様……」


「俺は知らぬ。女、名を名乗れ」


 尊大なクサナギの態度に、イザヨイは顔を隠す布の奥で唇を噛む。


「……イザヨイじゃ……本当に、人が変わってしまった様じゃな……昔は、もっと優しかった」


「醜い顔の貴女に、愛想を尽かしたのではないのですか? 」


 コモチはククッと声を漏らして笑みを浮かべる。イザヨイはその言葉に反発する様に、コモチに向かって叫ぶ。


「『顔など関係ない』と、言ってくれていたのじゃっ。

 クサナギ様が妾の前から姿を消す……二年前まで……なのに……」


 徐々に、力なく肩を落としてゆくイザヨイ。 


「確かに妾は、コモチほど美しいおなごでは無い……だが、姿を消す直前のクサナギ様は、まるで何かに取り憑かれたかの様に、人が変わってしまった……」


 イザヨイはそう言うとガックリとうなだれ、その場に座り込んでしまう。

 その様子を見たクサナギは、おもむろに口を開く。


「そうか、あの時の……思い出したぞ。

 三度目の逢瀬おうせの夜、俺が容姿をののしると泣いていた女か」


 そう言うとクサナギは乾いた笑い声を上げる。


「それで顔を隠しているとは……ハハハッ、全く分からなかった……グゥッ」


 クサナギは不意に頭を抱え、よろめく。

 コモチとイザヨイは何が起こったのかと戸惑いの表情を見せる。


「……クサナギ様? 」


 次第に大量の汗をかき、苦しそうな表情を見せるクサナギ。その背からは、暗くよどんだ湯気の様なものが立ち上っているのが分かる。

 やがてクサナギは苦しそうにしながらも、毒気の抜けた様な表情で顔を上げると、イザヨイに向かって話しかける。


「……イ、イザヨイッ」


「……なんじゃ……? 雰囲気が……」


 先ほどまでの刺々しい雰囲気が薄れたクサナギを見て、イザヨイは思わず手を伸ばす。


「イザヨイ……俺……を、殺せっ……」


「やはり、何かに取り憑かれておったのか? クサナギ様っ……」


 イザヨイは、その場から這う様にしてクサナギに近付こうとしたが、一瞬にして再び禍々(まがまが)しい表情に戻った彼を見て、伸ばした手は虚しく空を切る。


「グゥッ……まだ、意識があったとは……」


 苦悶の表情を続けるクサナギは、頭を抑えながら洞窟の入り口へと足を向ける。


「クサナギ様っ、どちらに……実験はどうされるのですか? 」


 寝ぐらと思われる洞窟に帰る素振りを見せるクサナギに、コモチは焦った様に呼びかける。


「……ならば」


 コモチの声にわずらわしそうに顔を歪めたクサナギは、刀が逆さになる様に鞘を天に向けて、カチンと留め金を外す。

 ズラァァッと、金属のこすれる音が聞こえたかと思うと、すれ違いざまに怯える牛の首が宙を舞う。


「……後は、勝手にやるがいい……」


 そう言うとクサナギは、いつの間にか抜いていた刀を鞘に収め、ふらつく足取りで洞窟の闇に溶け込んでいった。


「あン……つれないお方ですわね……そこがまた良いんですけれども……」


「……何が……起こったのじゃ……」


 大量の血を吹き出し痙攣けいれんしながらもたたずむ、首の無い牛を呆然と眺めるイザヨイを、振り向くコモチは冷たい笑顔で見下ろしている。


「……これから起こるんですのよ……摩訶不思議な、見世物は……」

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