第三短編 覚醒
今回のお題は「何かに怯える人」と「それに付け入る人」のお話です。
「最近、嫌な夢を見るんです」
町はずれの小さな病院で男と医者は対面していた。
「と言うと?」と医者は聞く。
男の言っている嫌な夢と言うのは、次々と人が様々な方法で死んでいくもので、その者たちが恨み事を彼に向けて言うそうだ。それを毎日見ている彼はすっかり参ってしまい、もう三日も寝てないらしい。
「先生、私はどうすればいいですか?」
「では、現実で同じ事をするのはどうでしょう」と聞いた男は目を丸くした。
大丈夫なのかと聞くが、研究では悪夢は現実で同じ事をすれば解消でき、それはどんなことでも法には触れないらしい。もう一度聞き返すが、医者は大丈夫の一点張りだったので本当だろう。
しかし、誰を殺せば。と考えていると医者にガタイの良い大男の写った写真を渡された。
「この男はどうでしょう」
はあ、と。聞けば、この大男は近くの八百屋の店主で嫌らしい奴だそうだ。悪い奴ならば殺しても問題ないだろうと男も賛同した。
「ではこれを」と受け取った一丁の拳銃を手に男は出ていった。
次の日、男は医者に報告をしに病院を訪れた。ニュースで報道していて確かに殺したのだと分かった。次は誰をと尋ねてくる男に、医者はスーツ姿の女の写真を渡した。この女も嫌な奴らしく、男は了承して病院を後にした。
次の日にまた男は病院を訪ね、医者の言う通りにまた殺した。次も次の次もそのまた次も男は医者に言われ、あっさりと殺した。
そしてある日、男はいつも通りに人を殺し、医者を訪ねるが病院の雰囲気が何だかいつもと違った。あまり気にせず医者の元に行くと、硬い顔をした男たちが大勢いた。その中の一人がスーツから手帳をとりだし、男に提示した。
「警察です。あなたの身柄を拘束します」
そう言われた瞬間に男は警察たちに抑え込まれ、いくら誤解だと叫んでも取り合って貰えない。
部屋の奥で医者が分厚い封筒を握っていたのを見て、男は騙されたのだとやっと目を覚ました。