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元魔王だけどパンダになって魔王討伐するね  作者: 橋本
第1部 これも醍醐味ってやつかしら
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第17話 これって私のせい?


 ロニーを含めた捜索部隊、計九名が第三チェックポイント付近を捜索し始めて三時間が経過した。

 かなり広範囲に渡って捜索したが、それらしき痕跡は見当たらなかった。

 冒険者の戦闘の痕跡は多く見つかったが、いずれも行方不明になったパーティに繋がるものではなかった。


 不気味だったのは、周囲に魔物の気配がほとんどなかったことだ。

 第三チェックポイントは最も魔物の数が多いエリアだ。なのにここまで三時間、一匹たりとも魔物の姿を見ていない。

 こうなるケースは二つ。狩りつくされたか、全ての魔物が巣に籠っているかだ。どちらであっても異常事態ではある。

 その違和感は部隊員全てが肌で感じ、一旦チェックポイントまで戻ろうという話が出始めたその時、一行はついに一つの痕跡を発見した。


「……血痕だ」

 明らかに複数人のものと思われる大量の血痕が周囲に飛散している場所を発見した。

「死体なし。戦闘の痕跡あり」

「移動の痕跡、ありません」

 報告を受けた管理官が神妙な顔を浮かべる。


「……おかしな話だ。なぜ死体がない? 生きているなら移動した痕跡があるはずだが」

 周囲の足跡はここで完全に途切れている。

 倒れた草木もなく、血痕もこの場所にしかない。死体がないなら巣に連れていかれた可能性があるが、痕跡が残らないというのは奇妙だ。


「空を飛んだ、とかでしょうか」

「鳥型の魔物に連れ去られた……? ロニー殿、どう思われますか?」

「あり得ない話じゃないとは思いますが、鳥型の魔物っていうと、ここだとフォレストハーピーとかになりますね」

「……フォレストハーピーと戦ってこの出血はどうなんだ? そこまで殺傷性の高い攻撃なんて出来たか?」

「しかしそれ以外の魔物なら、例え喰い殺されても死体は残るはずですよね」


 頭を捻る隊員達のうち一人が、何の気なしに呟いた。

「――丸呑み、とか?」


 軽い笑いでも起こるかと思ったようだが、実際には咳払い一つ起こらない静寂が訪れた。

 そんなまさか、と誰もが口にしたそうだが、できなかった。絶対に有り得ない話ではないからだ。


 そしてもしそうなら、それは大型の肉食系の魔物が存在することを意味している。駆け出し冒険者用ダンジョンにいていい魔物ではない。


「嫌な予感がするな。――よし、一先ず近場のフォレストハーピーの巣へ向かおう。もしそこにいなかった場合は……本国に騎士団を要請する準備をしておけ」






 それから更に二時間かけフォレストハーピーの巣を二つ捜索してみたが、いずれにも行方不明者の姿はなかった。

 結局捜索は打ち切られ、担当官はハシュール国本土に騎士団を要請することを決めた。


 そうなってはしばらく国営ダンジョンは利用不可になる可能性がある。国がどのように判断するかにもよるが、おそらく今日明日中に探索許可が下りることはないだろう。

 担当官から後日正式に謝礼をもらう約束をすると、ロニーはそのままチェックポイントへと戻った。


「あ、ロニー」

 チェックポイントに戻るとすぐにトリスが出迎えてくれた。

「どうだった?」

「奇妙なことが起こってる、ってことは分かった。もしかすると騎士団が動くかもしれない」

「え、そんなに?」


「おそらく国営ダンジョンはしばらく閉鎖されるだろう。かなり予定が変わるが、今日はひとまずここに泊まって、明日は町に戻ろう」

「そっか……じゃあこれでレベル上げも終わりになっちゃうかもしれないね」


 ロニー達がリビア町に来てから三週間近くが経過している。

 二人は一カ月の滞在を予定していたので、残りは一週間といったところだ。

 騎士団の到着から本案件の解決までにどれだけかかるかは不明だが、そう多くない時間しか残されないだろう。


「残念だ。これからってところだったのに」

「ううん、十分だよ。二人が来てくれなかったらレベリング自体できなかっただろうし」

「……よし、じゃあ少し早いが渡しておくか」


 ロニーは胸ポケットに手を入れると、中から小さなバッジを取り出した。

 オレンジ色のバッジには小さくTの文字が彫られている。


「君のだ、トリス」

「なにこれ?」

「俺たちのパーティシンボルだ」


 冒険者パーティによくみられる、パーティメンバーであることを象徴するものだ。

 指輪、イヤリングなどパーティによって様々だが、ロニーパーティではバッジを使っていた。

 凝ったところではエンブレムを決めたり、使う金属を決めたりとユニーク性を高めることもあるが、ロニー達は極めて質素で、各メンバーのイニシャルが彫られているだけだ。


「国営ダンジョンを卒業したら渡そうと思ってたんだが、まあ今でもいいだろう」

「うわあ、ありがとう! これ、皆もつけてるんだよね?」

「ああ。俺は襟に。フィーネは腰につけてるな。パンダのもあるが……そうだな、いい機会だし今渡してくるか」

「あ……今?」


 トリスはバツが悪そうに頬をかいた。

「パンダがどうかしたのか?」

「うーん、ちょっと……ね」






「――イッッエエェェェイ!!!」

 第三チェックポイントに戻ったときから何やら騒がしいと感じていたが、どうやらパンダの奇声が原因のようだった。


 チェックポイントの広場には人だかりができており、皆一様に酒を持ち寄り笑い声が周囲に響き渡っていた。

 その中心にはテーブルがあり、その上に二つの椅子が信じられないような不安定さで積み重なり、その頂上でパンダが逆立ちしながら酒をラッパ呑みしていた。


「……………………これは?」

「あはは……。なんていうか、フィーネとパンダちゃんがお酒を飲みながら話してたみたいなんだけど、パンダちゃんがちょっと酔っちゃったみたいで」

「ちょっと?」

 今のパンダの姿は明らかに異常……いや、もはや狂気的とも言える。


「アーーーーッハッハッハッハッハッハ!!」

 積み重なった椅子の上でグルグルと回りながら高笑いを轟かすパンダ。

 椅子は今にも崩れ落ちそうなほど不安定だが、どういったわけかグラグラと揺れながらもしっかりとパンダを支え続けていた。どんなバランス感覚をしているのかとロニーは呆れるしかなかった。


 酒は二十歳になるかレベル10にならないと呑んではいけない決まりになっている。

 冒険者はそういった堅苦しいことを嫌う者たちが多く、パンダのような少女が愉快に踊っていれば面白がって見物しそうだというのは分かるのだが、肝心のフィーネはどうしたというのだろうか。

 彼女がこんな狂気を見逃すとは思えないのだが……。


「アハハハッ。いいぞーパンダー!」


 そんなロニーの予想を裏切り、あろうことかフィーネはテーブルの傍で爆笑しながらパンダを煽っていた。

 彼女の顔も真っ赤だ。今まで見たことがないくらいに泥酔している。ここまで酔ったフィーネはロニーも見たことがない。


「俺が探索中に連絡したらどうするつもりだったんだ……」

 呆れながらも、どこか嬉しそうなロニー。


 思えば、フィーネがこんな風に笑う姿などもう何年も見ていなかったように思える。

 昔はよく笑っていたのだが、特に冒険者になってからは少なくなった。

 それに、これは酔いだけによるものではなさそうだ。どうもパンダとフィーネは本当の意味で分かり合えているような気がする。今までよりもずっと仲がよさそうだ。


「……そうか」

 パンダはパンダなりの方法で、フィーネと打ち解けることができたようだ。


 冒険者として生きていくことを決めたフィーネが、それを後悔しているのではという気配を感じ始めてから、もう数年になる。

 ロニーはずっとそれを心苦しく思い、出来るだけ彼女には負担の少ない旅にしようと心がけてきた。

 何より、フィーネがロニーを心配して旅についてきたことを察していたロニーは、余計に彼女に対し負い目を感じていた。


 一日でも早く彼女が安心できるような強い男にならねばと焦っていた。

 危険度の高い依頼を受け、いち早くレベルを上げたいがそんなところに彼女を連れていくわけにもいかない。

 ただでさえかつて魔人との遭遇で心に深い傷を負った彼女を更に追い詰めるような真似はできない。


 ロニーはいろいろと理由をつけ彼女を危険な任務から遠ざけてきたが、その度にフィーネの顔は曇っていったようにも思える。

 そんな彼女の心を、パンダは出会ってから僅かな時間で晴らしてしまった。


 ……やはり自分は間違っていなかった、とロニーは確信した。


 パンダは間違いなくこのパーティに必要な存在だ。

 今までこのパーティに欠けていた多くのものを、パンダがもたらしてくれた。


「パンダにバッジを渡すのはまた今度にするか」

 ロニーは笑いながらパンダのバッジをポケットに仕舞った。

 気持ち的には今すぐ渡したいが、あれだけ楽しそうに笑っているところに水を差すのも忍びない。

 少なくとも今日はもう探索に出ることはないだろうし、息抜きをするのもいいだろう。


 ロニーがそう考えたそのとき。


 甲高い鐘の音が第三チェックポイントに鳴り響いた。

 その場にいた誰もが動きを止める。それはこの国営ダンジョンにおいて緊急事態が発生したことを知らせる警報だ。


 スタッフ用テントから飛び出してきた第三チェックポイント管理担当官が、広場に集まった人間を確認する。

 ほぼ全ての者が集まっていることを確認した担当官は、額に浮かんだ冷や汗を拭って言った。


「全員、荷物を持って移動の準備だ! 急げ! 今すぐだ!」

 ただならぬ気迫に、周囲の者の酔いも醒めていく。

「なんだよ、どうしたってんだ」

 冒険者の一人が問うと、担当官は緊張に呂律の回らない舌を懸命に動かした。


「――魔人だ」


 その言葉だけで、音が聞こえそうなほどに場が緊迫した。


「魔人が現れた。第二チェックポイントが襲われて……さっき壊滅した」






「酔いは残ってないな」

「ええ。残念だけど」

 トリスから受け取った即効性の酔い覚まし薬を使用し、パンダはすっかり元に戻っていた。

 簡易宿舎に預けておいた荷物から必要最低限のものだけを素早く選別する。他は持っていく余裕はない。

 宿舎の外も、今は怒号と人が走り回る音で充満している。


「フィーネ」

「――ッ! な、なに」

 フィーネには酔い止め薬は処方されなかった。そんなことをするまでもなく、魔人という言葉を聞いただけでフィーネの身体からは酔いなど吹き飛んでいた。

 フィーネは皆の準備が整うのを待っている間、宿舎の隅で体を小さくし、荒い息を吐きながら小刻みに震えていた。


 その肩にロニーがそっと手を添えた。

「大丈夫だフィーネ。魔人が現れたってことは、もう騎士団の出撃要請が出てるはずだ。町まで戻ればきっとなんとかなる」

「……分かってる。分かってるから」

 しかしフィーネから怯えが消えることはなかった。


 それはトリスも、そしてロニーも同じだった。

 魔獣ならばまだしも、魔人がこんな場所に現れるなど誰に予想できただろう。


 魔人と人類の戦争の歴史はもう三○○年にも渡り、何度も戦闘が勃発しているが、多くは『狩場』を巡って起こっていた。

 レベルを上げるため。そして相手にレベルを上げさせないため。狩場の確保は両陣営にとって死活問題だった。


 今や主要な狩場の多くは魔族に占領されている。

 しかしこの国営ダンジョンが襲われるなどといったことは今まで一度もなかった。

 魔族領からも最も離れた国の一つであり、確かに利用者の多い狩場ではあったが、魔族にとって占領する価値があるとは思えないほど低レベルな狩場だからだ。


 こんなところを抑えても魔族にメリットはないし、人間にもさほどデメリットはない。だというのに、まさか魔人が乗り込んでくるなど、想像の埒外だ。

「おいお前ら! あと一分で支度を終えろ! 一秒たりとも遅れるな!」

 担当官の怒号が木霊す。


 この場にいる誰もが焦りと恐怖に身を焦がされている。

 当然だ。ここにいるのは駆け出し冒険者達だ。魔人など相手にできるはずがない。

 遭遇すればすなわち死だ。






 準備を終えて広場に出ると、三○人ほどの冒険者が第三チェックポイントの出入り口に集結していた。

 皆一様に緊張を露わにし、震える足で懸命に立っているように見えた。


 担当官が先頭に立ち、大声で指示を飛ばす。

 とにかく森を抜けることを優先する。この人数であればダンジョンの魔物は襲い掛かってこないだろうから、最短距離で出入り口を目指すとのことだ。


 ロニーはせめて皆を先導しようと、担当官のいる先頭を目指して歩き出し、――その手をパンダに掴まれた。

「どうしたパンダ」

「最後尾にいましょう」

 パンダは静かに、そしていつになく真剣な表情でそう言った。


「どうして」

「いいから。今はじっとしてて」

 怪訝に思うロニーだったが、ここはひとまずパンダの言葉に従った。

 やがて一行はチェックポイントを抜け、静かに歩き出した。

 整備された道は歩かない。最短距離ではないし、あまりにも目立つ。魔人との遭遇を未然に防ぐためにも、木々に隠れながら進むのが最善だった。


「――外れましょう」

 不意にパンダが囁いた。

「どういう意味だ?」

「この集団から外れましょう。私たち四人は別のルートで出入り口を目指す」

 その言葉にロニーはもとより、フィーネとトリスも驚愕に目を剝いた。


「何言ってるのあんた」

「正気じゃないぞ。少人数で行動するなんて」

「ちゃんと理由があるの。時間がない。お願い、私を信じて」

 そう話すパンダにはいつものような砕けた雰囲気はない。ふざけているわけではないらしい。


 パンダ以外の三人の視線が交差する。

 トリスは怯えながらも、そしてフィーネはいつものように、ロニーにその決定を委ねていた。


「……」

 ロニーの論理では、明らかにこのまま進んだ方が安全だ。

 この一行は最短距離で森を抜ける。それだけ危険は少ないように思うし、そこから外れるということはいたずらに森に滞在する時間を長めるだけに思える。

 そして万が一、不幸にも魔人と遭遇してしまった場合は、少なくとも現状で持ちうる最大の戦力で対抗できる。

 ロニーパーティ四人ではどうあっても勝ち目がなくとも、これだけの人数がいれば、いざとなれば逃げられる算段も増える。


「……わかった」

 その上で、ロニーはパンダを信じた。

 ロニーが想像できる利点など、パンダも見当がついているに違いない。そこから更に、パンダにしか分からない要素があるのだと感じた。


 初めてエルフの森近郊に出向くことになった日。パンダはロニーパーティの事情を一目で看破した。

 彼女は破天荒で恐れ知らずだが、同時に鋭い観察眼も持っている。ロニーはそれを信じることにした。


 最後尾からゆっくりと列を離れる四人。

 周囲に充溢する緊張からか、それに気づく者は一人もいなかった。






「どうして魔人は第二チェックポイントを襲ったと思う?」

 一行の進む道から外れて数分後、森の影に身を隠しながら四人は出入り口を目指して歩いていた。

「このダンジョンを占拠するためだろう」

「いいえ、ダンジョンだけ占拠しても意味がない。すぐに騎士団が派遣されるだけよ。本当にこの狩場を抑えるつもりなら、リビア町も同時に抑えないとだめ。魔人一人じゃ無理よ」


 占拠とは一時的な話ではない。

 継続的に占拠し続けるつもりなら、いずれにせよもっと多くの兵がいる。

 しかしリビア町そのものが襲われたという報告は上がっていない。魔人はあくまでも突発的にこの国営ダンジョンにだけ出没した。

 この異常事態の説明を誰もできていない状況だった。


「占拠が目的じゃないなら……何かを探してるのかな」

 トリスがぽつりと呟いた言葉に、パンダは一度頷いた。

「もしそうだとしたら、どうして第一じゃなくて第二チェックポイントを襲ったの?」

「……そこにあると思ったから?」

「じゃあなぜこの時間なの? まだ陽は落ち切ってない。夜にすればいいって誰でも思わない?」

「……夜だと、そこにないから?」

「――おいちょっと待て」


 耐えがたい悪寒が背筋を走り、ロニーは口を挟まずにはいられなかった。

 二人の問答で、ロニーは一つの恐るべき仮定に辿り着いてしまった。


「…………俺たちが、狙われてるって言いたいのか?」


 トリスとフィーネが恐怖に息を呑む。否定してもらえることを願ってパンダを見遣るが、パンダは沈黙していた。

「待ってよ、どうしてそんな話になるのよ」

 フィーネの語調が強まる。是が非でもロニーの言葉を否定しようとしていた。


「時間によってチェックポイントを出入りするものっていえば、ダンジョンの利用者だろ。あとは物資くらいだが……入ってくることはあっても出ていくことはほとんどない」

「でも私たちだってことにはならないじゃない」

「で、でも……目星はつけてるってことになるよね?」


 そう、仮に誰かを探していたとして、手当たり次第に探すなら第一チェックポイントから襲撃するはずだ。

 なぜなら第一チェックポイントを封鎖してしまえば、利用者は森から抜け出すことが困難になる。一番確実な方法のはずだ。


 しかし第一チェックポイントを素通りし、わざわざ第二チェックポイントを襲ったのは、そこに対象がいる可能性が高いという見立てを立てたからだ。


「だからこの時間なんだ。第二チェックポイントまでは毎日町に戻る者が多い。確実にチェックポイントには来ていて、かつまだ帰っていない時間帯。それが今なんだ」

「だから! 私たちが狙われてるなんて理由にはならないでしょ!?」


 魔人に狙われているかもしれないという恐怖から、半狂乱になるフィーネ。

 しかしロニーは内心で一つの確信を得ていた。この状況を説明できる確信を。


「……今朝、行方不明の冒険者を探しに行ったな?」

「それがなによ」

「捜索した結果、死体は見つからなかったが痕跡を見つけた。明らかに異常な痕跡だったが……こうなると、あれは魔人によるものだった可能性が高い」

 その言葉で、フィーネも息を呑んだ。ロニーの言いたいことに察しがついてしまったらしい。


「あれは第三チェックポイントのエリアだった。つまり魔人はわざわざ第三から第二チェックポイントに移動して、一晩待ったんだ。ならその時点で確信を得ていた可能性が高い。……そのパーティから聞いたんだ。目標が第二チェックポイントにいるってことを」

「私たちは昨日まで第二チェックポイントにいたわ。私たちが狙われていてもおかしくないってことよ」

「……」


「ただし。フィーネ、あなたの言う通りまだ確定じゃない。でももし私たちが狙いなら、次は第三チェックポイントを襲うはずよ。だから次に狙われるのは、第三チェックポイントから出てきたあの一行よ」

「……囮に、したってわけ?」

「結果的に私たちが囮になる可能性だってある。言いっこなしよ」

「ど、どうして私たちが狙われるの?」


 トリスは今にも泣きそうな顔だった。

 トリスには魔人に狙われるような理由はない。

 しかし……他の三人には思い当たる節があった。


「……俺とフィーネは、昔魔人と戦ったことがある。あいつが……」

「やめて! もう二年近く前の話よ。今更ッ」

「私かも」

 ぽつりとパンダが呟いた。


「なに……?」

「私が狙われてるのかも」

「どういうことだ、パンダ」

「……説明が難しいわね」


 パンダはかつて魔王だった。

 そして今は魔王の座をビィに渡し、冒険者となった。

 しかしその最終的な目標は魔王であるビィの討伐。それはビィを含め数人の魔人には知られている。

 故に彼らがパンダを狙う可能性はあると言えばあるが……。


 ――いや、ビィがこんなことをするとは思えない。

 パンダのその考えは確信に近かった。


 ビィはパンダの力を受け継いだ。その結果パンダは弱体化し、もうビィにとっては用済みとなった存在だ。今更パンダを抹殺しようとするだろうか?

 もしビィにその気があったのならそもそもパンダは魔王城を出る前に始末されていたはずだ。


 弱体化したパンダはレベルを上げるためにいずかの狩場を利用する可能性が高い。

 確実に仕留めようと思うなら、世界各地の狩場に魔人を放っているはずだ。


 確かにハシュールは駆け出し冒険者が集まりやすいという意味でパンダがいる確率は高いかもしれない。しかし優先度としては決して高くないはずだ。

 事実パンダはロニー達がいなければこんな温いダンジョンは利用するつもりさえなかった。


 ということは少なくとも数十人規模で世界中に魔人が派遣されている可能性が高い。

 しかしそこまでするのならばやはりパンダを無事に魔王城から出した理由が説明できない。どう考えても、これはビィの意志ではない。


 ――あるとすれば、ビィの指示を受けていない何者かの独断。

 パンダのことを知っており、複数の魔人に指示を出せる魔人。


「……四天王?」

 魔王直轄の幹部。魔王と直々に血の盟約を交わした四人の魔人の内の誰か……。


「……とにかく、今は森を抜けることだけ考えましょう。フィーネの言う通り、魔人が私たちを狙ってると決まったわけじゃない」

「そうだな。もし魔人が既に目的を果たしているなら、襲われるのは第二チェックポイントだけで済むはずだ」

「……そうね。きっとそうに違い……」


 直後、遠くの森から激しい揺れが響き渡った。


 四人がそちらを見る。空には無数の鳥たちが慌てたように飛び去っていき、連続的に爆発音も響きはじめた。


 ――戦闘音だ。あの方角は間違いなく、第三チェックポイントを抜けた面々が通るルートだ。

 そして彼らと戦闘をする可能性があるものなど、魔人以外にありえない。


 凍り付いたように動けない面々。

 ――魔人の捜索は、まだ終わっていないのだ。


 ロニーは深い嘆息と共に頭を抱えるしかなかった。

「……こっちだ。少しルートを変えよう」

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