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光に憧れ、影に生きる  作者: 小日向 史煌
ハデスト帝国編
42/73

終わりを告げる歌

更新までに長い期間をあけてしまい申し訳ありませんでした。

これからは少しずつ更新できるよう頑張っていきます!

 世界には様々なものが溢れている。人や動植物など、この世界にある全てのものが何かを消費し、何かを生み出す。しかし、生きている過程で生み出されたものの中には、正しくはないものもある。それは魔術師ではなくてもこの世に生まれたもの全てが持つ微力な魔力と反応し、邪なものとなって外に吐き出されていく。世界がそれを吸い込むことで、生き物は不自由なく生きてきた。

 だが、数百年に一度、ためきれなくなった邪なものが地上へと吐き出される。それが穢れであった。


 ただ吐き出されるままであったなら、生き物は瞬く間に死んでいっただろう。穢れによって大地は枯れ、水は濁り、空気は汚れ、動物は魔獣化し、人々は争い出す。そんな世界を生き抜けるものなどはいない。しかし、そんな危機的状況を救う、穢れを浄化できる存在の聖女が現れた。

 なぜ聖女が現れるのか、それは今だに解明されていない。だが、浄化された地はより豊かな土地となることから、世界をより良くするために神が遣わしたのだろう。聖女は穢れを浄化し、世界をより良くする使命を持っているのだ。そう考えられるようになった。歴史学者の中には、これが導きの神アレルへの信仰の始まりだと言う者もいる。


 そして人間の独善的な考え方でいうと、もう一人使命を持って産まれてくる者がいる。それが邪なものを穢れとして表へと吐き出させる存在。



「それが彼だ。そうだろう?」

「はい」



 クロードがノエルへ視線を送りながらソフィアへと問いかける。見つめられたノエルは顔を強張らせ固まったままだったが、その後投げつけられたオリビアの険しい眼差しと言葉に僅かに眉を寄せた。



「貴方のせいで、わたくしはこんな目に合っているのね!? だいたい、すぐに聖女であるわたくしのところに来ていればこんなに穢れを広めることもなく、旅だって早く終わらせられたでしょうに」

「彼は何も悪くはない。穢れを生み出す者の存在を知るのは各国の王や側近の者くらいで、私でさえ旅の途中で知ったのだ。なぜ隠すのか納得したくはないがな……。それでソフィア嬢。穢れを生み出す者は、己にそのような力があるという自覚がない。そうだな?」

「はい、その通りでございます」

「そんな彼にハデスト帝国に捕まる前に私達の元へ来いというのは無理な話。旅は各地の穢れの浄化と穢れを生み出すもの、即ち彼を見つけるためのものだ。まぁ、当初の予定よりも大事になってしまったがな」



 渋い表情のクロードの後ろではハーヴェイが苦笑いを浮かべている。オリビアは納得していない様子でノエルを睨みつけていたが、クロードの言葉で先ほどまでの怒りを思い出したのか、女神のように美しい表情を一層歪めた。



「そうですわ! なぜわたくし達が命を狙われなきゃいけなかったのですか。それもこれも、その者のせいではありませんの? 穢れを浄化できる聖女を襲うなんて、あり得ませんわ!」

「まぁ、ハデスト帝国の行った行為は許せんが、危険とわかっていて飛び込んだのは私達だからな」

「は、い?」

「だから、命が狙われているのはわかっていたのだ。だが、彼の側には厄介な奴がいるようだったから、少しでも警備の固い城から引き離すためには聖女を城に乗り込ませるのが手っ取り早い。そう思って今回の案を承諾した。大体、自分が狙われているとわからなかったのか? テッドの件で少しは自覚してくれたかと期待していたのだがな」



 クロードは盛大にため息を吐いた。

 今回、ノエルと接触する上で一番厄介だったのは『他者の能力を操る能力』を持つアスベルであった。アスベルの能力について調べてわかっていた事は、相手の能力を知り、接触することで能力を操ることができること。一度操ったことがある能力は、ある程度近くに能力者がいることで接触せずに操ることができること。そして、一番重要なのは、能力者の意識がない状態では操れないことだ。


 もしも城でノエルに接触しようとすれば、アスベルだけではなく、城にいる魔術師や騎士とも戦う必要がある。そうなれば、ソフィアの能力をクレイズと共有しながら戦うことは難しく、キャメルまで守れないためキャメルを連れていくことはできない。その上、魔術師や騎士の中にアスベルの操れる能力者を紛れ込ませられてしまえば、アスベルを倒すのはますます難しくなるだろう。

 だからこそ、ノエルやアスベルには城から離れ、少人数になってもらう必要があった。そのために聖女一行を城へと向かわせたのだ。例え、聖女の命を狙う黒幕が城の主である皇帝だったとしても。



「ハデスト帝国は、聖女であるオリビア嬢を(ノエル)に近づける訳にはいかない。なぜかわかるか?」



 呆然としたままのオリビアは無言で首を横にふる。それを見たクロードは頭痛でもするのか頭に手を当て顔を歪めた。それだけでソフィアは何となく今までの苦労を察し、心の中でクロードに同情をする。



貴女(聖女)には彼の能力も浄化し、消し去る力があるからだ。彼の能力が消えれば、穢れの発生は止まる。まぁ、穢れの発生が操られていたからすぐに止まるかはわからんがな。しかし、世界にまた邪なものを吸い込める力が戻れば自然と発生は止まるだろう。ハデスト帝国は彼の力をまだ使いたかった。だから聖女には近づけたくなかったのだろうな」

「わたくしの、力……!?」

「やっと思い出したか。貴女は穢れを浄化するための歌の他に、もう一つ歌を教えられていたはずだ」



 やっとここまできたか、とソフィアは小さく息を吐いた。

 城の警備や当日の動き、アスベル達が逃げ込むだろう場所を調べ、サリーナ達に逃げる道順を教え、その道順に逃げやすいよう魔術を仕込む。決行当日は、アスベルに気づかれないよう護衛兼能力者を排除し、アスベルがソフィアを『アスベルの能力対抗要因』と認識さえ油断させておき、暗闇の得意なソフィア自身が闇の中でアスベルを討つ。


 全ては穢れを生み出す者(ノエル)聖女(オリビア)を引き合せ浄化させる、という任務のため。



「あの歌はこの時のためのもの、だったのですね」



 ようやく理解したオリビアから落ち着いた声が落ちる。ノエルを真っ直ぐ見つめ、一歩踏み出したオリビアの凛とした姿勢は正しく聖女そのもので、その神秘的かつ厳かな雰囲気に先ほどまで喚いていた面影は一つも見受けられない。


 確かにこうして見ると聖女様らしいな、と妙に納得していたソフィアは隣から感じる視線に気づき目を向けるも、その人物と目は合わない。

 これで彼と会うのは最後かな、そう思うと何だか少し残念な気がして、そしてそんな自分に少し驚いて。ソフィアは誤魔化すようにお疲れ様の意味を込めて小さく頷いた。すると、久しぶりに見たフード姿の彼も頷き返してくれたようで、小さくフードが揺れていた。



「では『終わりを告げる歌』を……」



 そう言ってオリビアが歌い始めた歌は、優しくて甘くて少し切ないような、そんな歌だった。

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