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光に憧れ、影に生きる  作者: 小日向 史煌
ティライス王国編
3/73

聖女御一行様、現る

 

 王宮の正門入り口前、そこは大勢の民衆で溢れかえっていた。

 集まる人々は入り口から続く道を囲むように立ち、希望の光を瞳に宿して今か今かと門の扉が開くの待っている。


 そんな入り口を一望できる建物の上に小さな陰が一つあった。普通の人ならば真似ができないだろうその動きをいとも簡単に行う彼女に気付いたものはいない。



「さすがは聖女様ね」



 そう呟いた陰の主、ソフィアは呆れた表情を隠しもせず、ただ入り口が開くのを眺めていた。

 なぜソフィアが聖女の出発を眺めているのかと言えば、もちろん仕事のためである。そうでなければ、人が大勢集まるところなんかに来やしない。



「まぁ、サリーナもいるし、メンバーがどんな人なのか気になるっちゃ、気になる」



 意外と自分も色めき立つ民衆と変わらないのかもしれない、とソフィアは心の中で己に毒吐いた。民衆の中には美しい聖女目当ての者や見目麗しい護衛の男達の噂を嗅ぎつけて寄ってきている者もいる。ただ直向きに聖女御一行を見送りにきている人のほうが少ないくらいだろう。


 そして直ぐに人の裏を考えてしまう自分は相当捻くれているのかもしれない。

 そう思うと無意識に深いため息が漏れた。



 すると突然、地響きのような揺れと共に民衆の歓声が空いっぱいに広がった。考え事をしていたソフィアは突然の事に驚き、慌てて態勢を整えるため屋根にしがみつく。なんとか落ちるというヘマをしないで済んだソフィアは、頭を少し上げ、下の様子を覗き見た。そして思わず息を飲むと、心の中でサリーナに毒づいた。


 どこが美しい聖女とイケメン貴公子よ!そんな気軽な表現ですまさないでよね!



 今まで仕事上色々な人間を見てきた、もちろん容姿が整っている人もたくさん見てきたソフィアは、ある程度の予想をつけて来ていた。それなのに驚きで息を飲んでしまったのである。



 目の前で民衆に微笑みかけているのは、太陽の光を反射し輝きを増す銀色の長髪を風に靡かせ、紫色の瞳をした目鼻立ちのはっきりした美しくどこか神秘的な雰囲気を持つ女性。その隣には艶のある金髪に切れ長の蒼い瞳、男性の表現にはおかしいが美しい顔立ち、剣を持てるか疑いたくなる細身の身体だが、立ち振る舞いから威厳と男の色気を醸し出す男性がいる。

 あれがアレキセン伯爵令嬢であり、聖女であるオリビア・アレキセン様と第二王子クロード・セルス・ティライス様だろう。


 その神々しい存在感のある二人に言葉を失いつつ、その背後に控えるように立っている者に視線を向ける。


 そこには小麦色の肌に引き締まった身体を持つ紅色の短髪に金色の瞳の勇ましい男らしさを持つ、これ又整った顔立ちの騎士がいた。声援に答えるように笑えば、その勇ましさからかけ離れた優しげな笑顔に女性の黄色い声が上がる。

 彼はエレキソン伯爵家次男でありティライス王国で一番強いと言われるハーヴェイ・エレキソン様。彼は剣の使い手であるが、私達と同じ特異体質の持ち主でもある。私達と唯一違うのは、特異体質を公言していることだろう。


 まぁ、彼の特異体質は追い追いわかるとして、その横にいるのが国内一の魔力量を持つ魔術師クレイズ様。その容姿は……わからなかった。何故ならローブを纏い、深々とフードを被っていたからである。


 お披露目でもある出発の時にあそこまでフードで姿を隠す必要があるのだろうかと思い、ソフィア胡散臭いやつだと認識をしておいた。



「だけど、よく見たら本当に規格外の美形が揃ったわね……これはサリーナが『ただの侍女』と言いたくなる気持ちがわかるかも。あちらの役にならなくて正解だったわ」



 最後尾に控えるサリーナに同情しつつ、聖女一行の観察を切り上げるとソフィアは王都を出るために門へ向かった。



 ****


 ソフィアは整えられた道ではなく脇にある林の中を穢れにあてられていないか確認しながら、木々を縫うようにして走り抜ける。


『影』の仕事は名のごとく、物の陰にかくれて動くこと。ある時は他者になりきってとけこみ情報収集、ある時は屋敷に忍び込み、ある時は依頼主を護衛する。たまに私は何でも屋か、と誰かにつっこみたくなるほどだ。



 聖女一行が王都をたってから数日、ソフィアは聖女達よりも先を行くように進んでいた。聖女達は事前に調べられた国内の穢れに侵されたところを順番に回っている。今放たれている『影』は、だいたいが調査報告した後穢れに侵食された場所の確認やセルベトの言っていた悪事の調査をしていた。


 もちろんソフィアも同じような仕事をするのだが、それとは別の仕事も抱えているため時間を惜しんで先に進んでいく。

 そんな中、フッと聖女一行は大丈夫だろうか、と思い立った。一度魔獣化した動物と好戦したという情報は入ったのだが、それ以降連絡をとっていなかったのである。


 ソフィアは走った状態のまま心の中で言葉を呟く。



 《サリーナ、そっちはどう?何も問題はない?》



 すると間を空けず、サリーナから返事が帰ってきた。



 《久しぶりに声を聞いたわ、ソフィア。こちらは……まあまあかしら。急に連絡が来るってことは、また新しく穢れに侵食された所がでてきたの?》



 もうお気づきだろう。双子は『意思だけで会話をする』能力を持っている。


 通信技術の発展していないこの国は、離れたところにいる者に言葉を伝える手段は手紙でのやりとりしかない。高度な魔術を使える魔術師は言葉を伝えられるが、伝えるのみで一方通行なのである。


 そのため双子のように会話できる能力は貴重だ。ただ双子の能力の欠点は双子のみしか連絡できないことである。昔は誰とでも会話できる能力者もいたそうだが、彼女達はできなかった。



 《いや、新しい情報はないけど、どうかなって気になって。それより、まあまあって……何か問題があるの?》

 《そうねぇ……戦闘とかに関しては大丈夫かしら。護衛してくれる御三方はかなりの実力があるから、私の出る幕はないもの。ただ……》

 《……ただ?言ってよ、気になるじゃない》



 その少し疲れの見えるサリーナの声に一瞬不安がよぎる。いつも明るいサリーナがこんなに疲れているなんて、何か良くないことが起こっているんじゃないか。何か見過ごしてしまったのか……いつの間にか足を止め、色々な考えを巡らせていたソフィアは次に聞き取った言葉に思考が止まった。



 《ただ、みんなの個性が強すぎる》

 《……は?》



 あんなに美しく整った容姿持つ完璧そうな彼らの個性が強いとはどういうことだ。そう思いながらも、その後サリーナの話を聞いたソフィアは開いた口が塞がらなかった。


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