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光に憧れ、影に生きる  作者: 小日向 史煌
ティライス王国編
2/73

表があれば裏もある

 

 王都の端にあるアレルティア教会。ここは双子が保護され、育てられたところである。


 門をくぐって教会の中に入れば、顔見知りと何度もすれ違う。もちろん祈りを捧げにくる民ともすれ違うが、誰とも言葉を交わす事なく会釈だけで済まし、目的地まで歩いていく。


 アレルティア教会は導きの神アレル様を信仰している。


『全ての生き物は何かの使命を背負って生まれた。意味のない生はない』


 という教えを説き、愛ある導きをしてくれるとしてアレル様を祀っているのだ。

 そのため親のいない迷い子達を保護することも使命のある者を救うため、という大義名分を掲げ行われている。


 そして聖女は穢れを浄化する使命を導きの神アレル様から賜ったと言い伝えられ、アレル様の使者とされているため尊い存在と認識されている。



 まぁ、これはアレルティア教会の表の顔でしかないのだが。




 ソフィアとサリーナは教会の地下へと足を運んだ。光の入らない地下は、正しく彼女達の居場所と言えよう。薄っすらと足元を照らす光を頼りに、なんの躊躇もなく奥へと進む。そしてある部屋の前に着くと、一度顔を見合わせ、ゆっくりとノックをした。入室の許可を得てからドアを開ける。



「よく来たね、サリーナ、ソフィア」

「「お久しぶりでございます、セルベト様」」



 部屋に入った二人を迎えたのは、歳を感じさせない大きく引き締まった身体に優しげな顔立ちのナイスミドルだった。名をセルベト・オーランド、公爵家当主であり、国王の従兄弟でもある由緒正しい家柄の男だ。


 彼は入ってきた双子の名を間違えることなく呼べる数少ない人物の一人である。何故なら彼は双子を拾った張本人であり、成人するまで目をかけてくれた人だからだ。



「ここまで来てもらってすまなかったね」

「いえ、王都を立つ前にお会いできてよかったです」



 眉を下げ謝るセルベトに笑って返すサリーナを横目にソフィアが話を切り出す。



「お話があるとは、今回の仕事の件ですよね?」

「おいおい、久しぶりの再会なのに会話をする気はないのか、ソフィア」

「早くお話しを終わらせて、ゆっくり休んで欲しいだけです。ここ最近は聖女の旅の件などで休んでいらっしゃらないでしょう?」

「まさか、監視されていたのか?」

「セルベト様!」



 呆れと怒りの混ざったソフィアの声にセルベトが笑い出す。誤魔化す時は笑う癖のあるセルベトにサリーナは苦笑いするものの、隣で怒っている妹をなだめる方が先か、とソフィアに抑えるように声をかける。


 普段のソフィアは他人に声を荒げる事も自分の意思を伝える事もしない。ただ黙って聞いているだけだ。心の中にある言葉を相手にぶつけるのは姉妹のサリーナやセルベト、数少ない仕事仲間くらいである。



「すまんすまん。心配してくれてありがとう、ソフィア。では早速、本題にいこうか。まぁ、座ってくれ」



 双子を自分の前の椅子に座るよう勧め、座ったのを確認すると、目の前に紅茶の入ったカップを運んできた。いや、カップがひとりでに目の前まで飛んできた、というのが正しい表現であろう。

 三人は別段驚くこともなく、運ばれてきた紅茶を飲んだ。



 まず、はっきりさせておきたいのは、この世界の魔法は無詠唱で魔法を発動させられないということだ。もちろん魔力が高い魔術師ならば簡単な魔法であれば無詠唱で発動することは可能だが、複雑なものは術式や呪文を用いなければならない。


 セルベトのように紅茶を入れてカップを運ぶ場合、どこに、何を、どうやって運ぶかを物に伝える必要があるため無詠唱では不可能なのだ。


 ならばなぜできたのか……



「本当にセルベト様の能力は便利ですね」

「いやー、動かなくて良いから怠けてしまっていけない」



 そう、セルベトは『意志の力のみで物を動かす』能力を持っているのだ。


 生き物は微量な魔力を持って生まれてくる。時々、魔力量が多い者が現れ、貴重な存在である彼らは魔術師として国に守られるのである。人々は魔術師の作る魔石に頼っているため、魔術師は敬われる存在なのだ。


 そんな魔術師とは別に、この世界には『特異体質』と呼ばれる特別な能力を持つ者もいる。魔力や血とは関係なく、呪文など面倒な事をしなくても使える特異体質は、能力によっては魔法よりも優れた力があったため人々に恐れられるようになった。


 昔は戦の時は兵として扱われ、必要なくなれば捨てられた。血と関係ないために家族には恐れられ、迫害を受けた者もいたためか、ほとんどの者は能力を隠して生きてきたという。


 そんな歴史の中でできたのがアレルティア教会であった。表面ではアレル様を祀る教会、しかし実態は、特異体質の能力者を守る組織なのだ。捨てられる子供の中には、能力がバレて捨てられる子も多く、教会で育てられながら能力の制御の仕方や生きる術を教えられる。



「私としては、君たちの能力のほうが羨ましい」

「確かに便利ですが、欲を言うなら相手を限定しないでほしいですよ」

「それもそうか。その方が仕事もしやすいだろうしな」



 困り顔を向けるサリーナとソフィアもまた、特異体質のせいで親に捨てられた子供なのである。



「それでセルベト様。今回私達が選ばれたのは、私達の能力と関係しているんですよね?」

「そうだ。今回の仕事は聖女を護衛するためだけではないからな」



 ソフィアが本題であろう話を振れば、セルベトは笑顔を引っ込め、厳しい顔つきで頷いた。もはや優しいおじ様の面影はなく、仕事上の上司がそこにいた。



「この一年でかなりの村や町、森が穢れにやられた。それにより食料不足や物価の高騰、失業者の増加などの問題が発生してきている。しかし、それで儲けているやつもいるようなのだ」

「それは……不正や悪事をはたらいて儲けていると?」

「そこがうまく掴めんのだ。今、王宮内も魔獣化した動物の駆除やらで人手が足りなくてな。しかし、このまま野放しにしていては浄化したとしても国が崩れることになる」



 そこまで言うとセルベトは一つ息を吐き、神妙な面持ちで頷く双子に向かって微笑んだ。



「君たちの仲間も動いてはくれるから、そう硬くなるな。もちろん、旅先での周りの動きも探って欲しい。しかし、それよりも今回の穢れの騒動、歴史書の記述と比べるとおかしい気がしてな」

「おかしい……ですか?」

「そうだ。まぁ、それも探し人が見つかればわかるかもしれないがな」



 今度は力強く頷く双子を見て、頼もしいな、と呟くとセルベトは席を立った。その動きに合わせるように立ち上がった双子に笑いかける。



「今回は国王の頼みだから君達を派遣する。国のためでもあるからね。でも必ず無事に戻ってくるんだよ」



 セルベトの優しげな微笑みに嬉しそうに頷くサリーナ。隣では照れながらもソフィアが笑った。

 双子にとって彼は国を支える大臣の一人であり、今の仕事を教え込んでくれた上司であり、数少ない身内のような人だ。そんな彼の一言に喜んでしまうのは仕方がないのかもしれない。


 セルベトが部屋を出て行くと、残された二人は彼の置いていった紙を読みながら呟いた。



「なかなか大変そうな仕事ね」



 その声がどちらのものかはわからない。もう一人は苦笑いを浮かべながら紙を燃やした。


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