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光に憧れ、影に生きる  作者: 小日向 史煌
ティライス王国編
18/73

特異体質者の抱えるもの

少し長くなってしまいました。

 様々なものが焼けた鼻を刺す臭いが辺りに漂い、一面が焼け野原とかしていた。そんな中、全てのものが爆発により焼き尽くされたにも関わらず、動き出した影が二つあった。



「皆さん、そのまま伏せていてくださいね。顔を上げたら許しませんよ?」



 優しい声とは裏腹に有無を言わせない様な威圧感を感じさせる声が響く。ソフィアは笑顔でそんな声を発するサリーナに苦笑いを浮かべた。



「待て、皆が無事か確認を……」

「クロード様、今顔をあげたら旅は続けられなくなりますよ」

「しかし」

「女性の裸を見たいというなら覚悟してください」

「これは失礼した」



 そう、爆発から命は守れたものの衣服は守れなかったのである。焼け野原に素っ裸の男女が寝転がっているという、決して誰にも見られてはいけない様な光景が広がっていた。サリーナとソフィアは特異体質を持つ仲間に作ってもらった特製のポーチから服を取り出し着ると、まずはオリビアに服を着せ、男性陣の腰に布をかけていく。

 しかし、一人だけその必要のない男がいた。



「魔術師のローブは万能ですね」

「あぁ、攻撃や魔法から魔術師を守るように術式が組み込まれているからな」



 一人晒し者にならずに済んだクレイズは、あっけらかんとソフィアに答える。

 やっとサリーナから起き上がる許可を得た男達は顔を上げ辺りを見回すと顔を歪めた。木々は焼き尽くされ、テッドは愚か拘束した男達の姿もなかったからである。



「やはり彼らは駄目だったか」

「捨て身の攻撃だったのでしょう。仕方がありません、あの爆発で生きていられる者などいませんでしょうから。逆に我らが生き残っていることが不思議なくらいです」



 険しい表情で話すクロードとハーヴェイであるが、なんせ布を腰に巻いただけの姿である。ソフィアは思わず引き締まった身体をさらけ出す美丈夫二人から目を逸らした。



「ひとまずここから離れましょう。ハーヴェイ様、近くの町付近に飛んで頂けますか? 私とソフィアで服を調達してきますので」



 サリーナの提案に頷いたハーヴェイは、何度か瞬間移動を繰り返して聖女一行を町の近くへ運んだ。その後ソフィアとサリーナは手分けして服や武器を調達し、やっと一息ついたのである。



「助かった。ありがとう、二人とも。それで、まずは何故私達が助かったのか教えてくれないか? あの時、クレイズは魔法を使っていなかったし、助かった要因は君達にあると思うのだが」



 岩に腰掛けたクロードは嘘は許さないといった表情でソフィアとサリーナを見つめている。その脇に立つハーヴェイやクレイズも同様で、オリビアだけが今だ放心したままだった。



「まず、改めまして私はサリーナの妹のソフィアと申します。皆様を陰ながら見守る役目を担っておりました」



 礼をとるとクロードは頷き先を促す。ソフィアが後の説明はサリーナに任せようと視線を向けるも、軽く逸らされてしまい、内心面倒くさがりつつ話を続けた。



「お気づきとは思いますが、私達は特異体質を持っており、国王様からのご依頼で皆様をお守りしております。私達の能力は意思のみで会話ができることで、基本的には聖女御一行様と外との連絡係を担っております」

「ああ、それは知っている」

「クロード様はご存知だったのですか」

「あぁ、父上から聞かされていたからな。ハーヴェイ達に教えなかったのは他言無用と言われていたからだ」



 腑に落ちない顔のハーヴェイと反応のないクレイズを困った表情で見つめていたクロードは、話を戻そうとソフィアに向き直る。



「話を戻そう」

「はい。しかし、私達が起用された理由はもう一つあります。私達が能力を二つ持っているからです」

「二つ? それは珍しいな」

「はい、その能力が『己に害をなす特異体質の能力を無効化する』というものです」

「……なるほど。テッドの炎は特異体質の能力だったから君達には効かないわけか」



 納得したかのように呟いたクロードに合わせてハーヴェイも頷く。ソフィアはそんな二人の反応よりも、ジッとこちらを見つめるクレイズの視線が気になって仕方がなかった。



「だが、何故私達も助かったんだ?」

「私達と直接触れ合っている間は、その人にも私達の能力が適用するからです。あの時、皆様の手を掴んだのはそれが理由です。私達の能力は直接の攻撃や魔法には対応していませんので、対特異体質者のための存在と言えます」



 実際、それが本来の目的なのはサリーナだけで、ソフィアは別の任務のために起用されている。しかし今、そのことまで彼らに話すつもりはない。


 もう説明することはないし、これ以上聖女一行と共にいても意味はない、とその場を離れようとしたソフィアの背後から声がかかる。



「なんで一行と合流を?」



 振り返った先には怪訝そうな表情を浮かべた仕事仲間のライルが立っていた。武器の流出先の調査から戻ってきたのだろう。



「色々あってね」

「探したじゃないか。あっ、サリーナ久しぶりだな」

「ほんと、久しぶりだね」



 目の前にいる王子や騎士などを丸々無視してサリーナに挨拶し始めたライルを呆れた表情で見ていたソフィアだったが、咎めることはしない。特異体質を持つ者の多くは、王族や貴族に敬意を払わないからである。



「それでどうだったの?」

「あぁ、武器はやはりハデスト帝国に運ばれていた。相手との受け渡し場所は林の中だったが、受け取り先は騎士団だ。あれは国が買ってるな」

「最悪ね。停戦を破るつもりかしら」

「今、ティライス王国は穢れによって弱っているからな」



 明日の天気を話すような軽い口振りで話すソフィアとライルの会話を切ったのは、クロードだった。



「そんな重要な話を軽くするな! というか、お前は誰だ?」

「あぁ、忘れてた。俺はソフィアとサリーナの同僚です。後はソフィアに資料渡しとくので、それで確認してください。じゃあな、二人とも」



 そう言うが早いかライルはその場から姿を消した。ソフィアの手元にはライルが言った通り、資料が残されている。ライルの態度に不快感をあらわにしていたクロード達ではあるが、彼らよりも腹を立てていたのが……



「なんですの、あの男! あのような態度をとるなんて許せませんわ。それと貴女もなんなのですか! テッドを……彼を救う方法だってあったはずだわ! サリーナ、あなたもあなたです。妹を止められないなんて」



 いつの間にか復活していたオリビアであった。今まで静かだった空間が一気に騒がしくなる。ソフィアは本気で早くこの場から離れたくなった。



「言っておきますが、彼は自分でこの道を選んだのです。私は聖女様の命を守ったに過ぎません」

「なんですの、その言い方!」

「聖女様を守らず、彼を救えばよかったのですか?」

「何を言うの。貴方はわたくしを守る任務だと言ったではないの」



 ソフィアは思わずサリーナを見る。サリーナは困った表情を浮かべ小さく頷いた。これ以上言っても意味はない、そう言っているようだった。ソフィアは小さくため息を吐くとオリビアを無視してクロードへと視線を移す。



「先ほどの彼の態度で不快な想いをさせましたこと、お詫び申し上げます。しかし、これが今この国、この世界の現状です。特異体質者の多くは家族や周りの者から蔑まれ、闇の中で己の能力を使って生きている者ばかりです。そんな彼らの中には、国や世界を恨んでいるものも少なくはないでしょう。この資料から、テッドはハデスト帝国の者である事がわかりました」

「そ、そんな! そんなはずはありませんわ!」

「いいえ、武器流出の件もガルベスト伯爵とハデスト帝国の間を取り持っていたのはテッドでした。武器の運び屋から証言はとってあります。先ほどの男達もハデスト帝国の者でしょう」



 ソフィアの言葉で力の抜けたように地面に座り込んだオリビアを一瞥したソフィアは黙ったままのクロード達を見つめる。眉間に皺を寄せ、考え込んでいたクロードは重たい腰を上げた。



「君は、テッドもハデスト帝国に利用されていた特異体質者だと思うかい?」

「どうでしょうか。しかし、最後の彼の言葉を聞く限りでは否定できないですね」



 敵であったテッドに同情するつもりはない。しかし、特異体質者を物のように扱う者がいることは事実で、テッドがあのまま聖女を仕留められずに生きて帰ったとしても命があったかはわからない。そう考えるとテッドも被害者なのかもしれなかった。



「……そうか。まずは、ハデスト帝国が再び戦を始めようとしている事と聖女を狙ってきた事を父上に報告ーー」

「それと新しい魔術師の派遣を申し出てもらえますか?」



 突然会話に入ってきたのは、黙ってソフィアを見つめていたクレイズだった。皆、クレイズの言葉に驚きや困惑の表情を浮かべる。



「どういうことだ、クレイズ」

「彼女について行きますんで。ハデスト帝国に忍び込むつもりでしょ?」



 ソフィアから目を離すことなくクレイズは話す。ソフィアは己のこの後の行動を言い当てられたことに驚き目を見開いた。



「た、確かにハデスト帝国に忍び込むつもりですが、それは私の仕事です。クレイズ様は聖女様と共に旅をするのが仕事ではございませんか」

「聖女様と一緒に穢れを浄化するのが俺の仕事だけど、君について行けばこの旅を早く終わらせられそうじゃないか。クロード様、ちゃんと聖女様のためになりますから、いいでしょ?」



 クロードはクレイズの考えを見抜こうとクレイズを見つめるも、顔がフードで隠れていることもあり、全くわからない。

 旅が始まった時から、常に怠そうなクレイズは必要な時にしか口を開かない謎の多い男だった。


 それでも旅の仲間に選ばれたのは、国一番の魔術師であり、推薦人がセルベト・オーランド公爵だったからだ。クロードは許可するか迷ったものの、今までの旅で聖女のために黙って働くクレイズの姿を信じることにした。どうせ駄目だと言っても勝手に行きそうだと思ったのもあるが。



「わかった、認めよう」

「クロード様!? 私は一人でも」

「よろしく。えーっと、名前なんだっけ?」

「な!? …… 嘘でしょ」



 項垂れるソフィアをサリーナは可哀想なものを見るような目で見つめる。

 ソフィアはといえば、ハデスト帝国に忍び込む事さえ大変なのに面倒事がまた増えたと肩を落とし、その元凶であるクレイズを睨みつけた。


 クレイズが何をどこまで知っているのかわからない以上、気は抜くことはできない。当の本人であるクレイズは、ソフィアの懸念を他所にそそくさと出発の準備を始めている。



「はぁ……ここからが本番だって言うのに」



 ソフィアはライルから受け取った資料に目を落とす。

 そこに書かれていたのは武器流出やテッドの件だけではなく、ソフィアの本来の仕事に関わる情報が記載されていた。



「準備はいいか?」

「……はい」



 クレイズに促され、皆に一礼したソフィアは嫌々ながら後に続く。

 こうしてソフィアは新たな仲間(?)と共にハデスト帝国に向かうことになったのである。

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