リア充様の秘密とオタク男子の恋物語
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だけると嬉しいです。
佐々木勇太は、いわゆるオタクと呼ばれる人種の
少年だった。
ぽっちゃりした体型、漫画やラノベを読みすぎた
せいで、悪くなった目にかけた黒縁の眼鏡、うつ
むいた視線が特徴と言えようか。
その視線が、クラスの女子達に彼をキモいだのと
言わせるのだが、勇太は別段そんな事を気にしては
いなかった。
彼は、漫画やラノベやゲームや二次元女子をこよ
なく愛していたのだ。
キモいと言われようとも、オタクありえないと
言われようとも、彼にはオタクで何が悪い!と
言う考えがあり、そういう女子を苦手に思って
いた。
彼だって三次元のリアル女子の全てが嫌いと
言う訳ではないが、やっぱり自分の趣味を認め
ようとしない女子は嫌だった。
さえないモテないかっこよくない三拍子揃っ
たいわゆるモテない男子だと自他ともに認める
ような評価をもらう彼でも、一度くらいはモテ
たいと思う欲求がない訳ではない。
それくらいモテない少年だった、彼は。
……昨日までは。
と、長い腰までの黒髪を持つ美人といっていい
顔立ちの、スタイルのいい女子がこちらに歩み
寄って来た。
「佐々木君、一緒にお弁当食べましょう?」
彼が「モテないオタク男子」という自他共に
認めていたレッテルをはがされたのは、実は
彼女が原因だった。
まあ、悪い意味ではないので、原因というのも
おかしいかもしれないが。
彼女の名前は伽耶原美咲。伽耶原財閥のお嬢様
であり、両親に溺愛された一人娘。
もっと詳しく言うなら、この学園のアイドルと
いうかマドンナ的存在であった。
そんな女子が声をかけて来たのだから、クラスの
男達の視線は敵意に満ち、女子の視線もなんであいつ
なの、と言わんばかりのあまり好意的ではない物に
なる。
余談だが、美咲は勇太にとって好みのど真ん中と
いうか、ドストライクにいた。
清楚さを感じされる長めの紺のスカート、上品な
笑みをたたえた可愛らしい小さな唇、しわ一つない
ぱりっとしたレースのブラウスに、これまたしわの
ないきっちり着こなされた紺色のブレザー。
しかも、余計な事を付け足すならふっくらした胸と
細すぎない、しかし太すぎもしない腰のラインとかもう
惚れ惚れしてしまうほどだ。
「――佐々木君?」
「あ、ああ。行こうか伽耶原――じゃなくて美咲」
「ええ、行きましょう」
勇太が差し出したやや太めの腕を、彼女の折れそうに
細い手が取った。
羨望と嫉妬の視線が突き刺さるのを感じながら、彼
彼女と共に屋上へ急ぐのだった――。
ふん、と鼻を鳴らして美咲が手をもぎ取るような
勢いで離した。
……かなり痛そうだ。彼女の視線は、さっき大人し
そうだったのが嘘のように冷たい物になっている。
「いつまで握っているのよ!」
「す、すまん……」
勇太のぽっちゃりした腹に彼女の飛び蹴りが命中した。
やっぱりかなり痛そうだ……。しかし、スカートだった
せいで下着が見えたので勇太は役得だと思った。
……ふむ、白かとしげしげ見ていると、再び腹に美咲の
蹴りをくらう羽目になる。
「何見てるのよ! 死ね!」
「お前が見せたんだろ……」
「うっさい!」
真っ赤になって怒ってくるので、正論を言ったら足を
踏まれた勇太。
本人が後に語った所に寄ると、ちぎれるかと思うくらい
痛かった、らしい。革靴でぐりぐりされたらかなり痛いのも
頷ける。
もうお分かりだろうか。これが、美咲の本性だった。
さっきのはいわゆるロールプレイというかなりきりというか、
演技である。
クラスメイトの前で演技してだますなんて最低だと思う
かもしれないが、彼女もいろいろと事情が多い子なのだった。
そんな美咲と勇太の交流が始まったのは、一週間前だった。
それまでは、同じクラスではあったけれど全く交流などなく、
高嶺の花のような存在である彼女に声をかける事すらためらわ
っていたのだ。
彼の今一押しのゲーム、『ときめけ☆学院』の一番気に
いっている子、長瀬つばさちゃんのようなおっとりした
お嬢様風のスタイルや口調は勇太には大変魅力的に
移っていたのだった。
オタクだのキモいだの言われ、反論する事も出来ない勇太に
クラスを敵に回してまで彼女にアプローチする度胸があるはずも
なかった。
しかし、彼は彼女の誰にも言っていないであろう秘密を知って
しまったのだった――。
「――ご主人様、お帰りなさいませだにゃん♪」
「か、伽耶原……!?」
「さ、佐々木……君!?」
「「……」」
彼らの間の、時が止まった。美咲も、勇太も全く動く事が
その時出来ていなかった。
状況を説明すると、二人がいるのは秋葉原とかではなく、
早埼市と呼ばれる二人が住む市に新しく出来たメイドカフェ
だった。
今日は猫耳デーというメイド達が猫耳をつけ、語尾に猫語を
つけて接客してくれるという事でメイドも好みの内である
勇太は出向いたのだった。
しかし、そこでクラスのマドンナ的存在の少女と出会うなど、
誰が想定するだろうか。しかも、客ではなく店員として。
「ちょっと、ミサっち何してるにゃん? 早く、ご主人様を
お席にご案内しないと!」
「あ、ご、ごめんなさいだにゃん! ご主人様、こちらのお席に
どうぞだにゃん♪」
「え、あ、う、うん……!」
と、そこに別のメイドさんがやって来て美咲に注意したので、
慌てて美咲は謝るとぐいっと強い力で勇太の腕を引いた。
かなりの力が入っているけれど、メイドさんの方は気づいて
いないようだ。
ちなみに、美咲は銀色の猫耳、メイドさんの方は紅茶色に近い
髪の色をしているので黒い猫耳だった。
服装は、紺色の清楚なワンピースに白いフリルつきのエプロン、
ヘッドドレスと呼ばれるレースのレースの髪飾りを両方つけている。
「あ、あのさ、伽耶原、痛いんだけど……!」
「ここではみさっちだにゃん、ご主人様!」
「い、いだだ! いだいいだいっ!」
さっきより掴んだ腕に力が込もり、勇太は悲鳴を上げた。
と、その耳元に美咲が甘い声音で怖い発言をする。
「この事誰かに言ったら、ご主人様を殺しちゃう、にゃん♪」
……ドスの利いた声で言われるより、余計怖いと勇太は思った。
こくこくと頷くと、にっこりと可愛らしく微笑んだ美咲の腕が
離される。
こうして、勇太は伽耶原美咲の秘密を知ったのだった――。
仕事が終わった後、勇太は美咲に呼び出されメイドカフェ近くの
公園へとやって来た。一体、どんな話を聞かされるのかと身構えて
いると、遅い!と声を張られた。
びくっとなって振り返ると、腕組みをした美咲が立っている。
学校で見たのとは違う、どことなく高慢そうな表情を浮かべた彼女は
瞳が怖かった。
「……あの事」
「え?」
「……あの事、誰かに言ったらあんた殺すから」
「ひいっ!」
相手が自分よりか弱そうな少女だというのに、つい萎縮して
情けない声を上げてしまう勇太だった。
ふん、と鼻を鳴らしながら彼女が口を開く。
「え、えっと……意味が分からない。お前、誰?」
「はぁ? あたしは伽耶原美咲に決まってるじゃないの」
「ってか別人じゃん! 学校のあの清楚なお嬢様キャラはなんなの!?」
「あ~あれ演技」
「演技!?」
ま、マジかよ女って怖い……とでも言いたげな顔をする勇太に、美咲は
小さくちっと舌を打ってからにっこりと笑った。
しかし、その顔は勇太にとっては恐怖しか与えない物だった。
「ま、マジすみません! 秘密見ちゃってすみません! 俺が悪かった
ですからどうぞお許しを!」
「うるさい、黙って話聞きなさい!」
「ぐはっ! き、綺麗に鳩尾に決まった……うぐっ」
土下座しながらぺこぺこ謝る勇太に、美咲は可哀想な物を見る目をして
いたが、うっとうしくなったのか怒鳴るや鳩尾に強烈なキックを見舞った。
かなり痛かったのだろう、勇太は涙目でうずくまっていた。
「あたしがあんたにして欲しい事は、謝って欲しい事でも土下座して欲しい
事でもないわ」
「じゃ、じゃあ何なんだ!?」
「あ、あたしと……あたしと付き合いなさい!」
この日から、伽耶原美咲と佐々木勇太のお付き合いは始まった――。
とはいっても、これは協定的なお付き合いである事は否めない。
そもそも、美咲が「付き合いなさい」と言ったのは秘密を握られている
以上近くにいてバラさないように見張るという意味合いもあったからだ。
近くにいる以上、「彼氏彼女」という関係が一番後腐れがない。
「ほ、ほら、早くご飯食べるわよ!」
「わ、分かった。分かったから怒鳴るなよ」
しかし、勇太は知らなかった。美咲が勇太に、正体がバレる前から
目を付けていた事を。いつも、彼女の頬が赤くなっている訳を。
(全く……勇太の奴、いつもあたしといるとわたわたばっかりして。
全然意識していないのかしら……?)
彼女の事情を詳しく説明しておくと、伽耶原美咲はロールプレイ、
つまり何かになりきるのが好きな子だった。メイドでも、版権物
キャラでも何でもなりきるのが大好きなのだ。
本来のキャラはこの傲慢そうな感じのキャラなのだが、中学生の
時この性格が原因でいじめに遭い、ハブられた経験があるのでおっとり
お嬢様タイプのキャラを演じていたりする。
いわゆるリアルツンデレ女子な彼女は、実は勇太の事が好きなのだが
素直になれないという一面があるのだった。
「ゆ、勇太……!」
「何だよ、伽耶は……! あぶねっ!」
「美咲って呼べって言ってるでしょうが! くっ、よけたわね!」
伽耶原と呼びかけそうになった勇太に、美咲のハイキックが命中……
しそうになったので今度は彼はぽっちゃりした体型で器用にも
よけた。
悔しげな顔になって美咲が彼を睨む。
「……で? なんだよ、かや――美咲」
「あ、あんたのさ、好きなアニメなんだっけ? ときめけ学院?」
「貴様、何を言うか! 『ときめけ☆学院』はアニメではない
ゲームだ! そもそも何で疑問形なんだ! あんな素晴らしい
作品をけなすつもりか許さんぞ俺は!」
その途端、好きな作品を馬鹿にされたと勘違いした、勇太が
いつもの大人しさが嘘のようにキレた。
それに若干怯えつつも、ふてくされたように美咲が謝る。
勇太もそれを聞いて我に返ったらしく、困ったような顔に
なりつつ続きを促した。
「ご、ごめん……。ゲームの『ときめけ☆学院』ね」
「あ、お、俺もすまん……ちょっと取り乱した。で?」
「まだ好きなの? 『長瀬つばさ』ちゃん」
「もちろんに決まっておろうが! つばさちゃんは俺の天使だ、
女神だ、嫁だ! ああ、つばさちゃんみたいな子が実際にいたら
いいんだけどな~」
「ゆ、勇太なんか死んじゃえ!」
「何故だ――っ! 俺の『嫁』の事を語って何が悪……あ、
すみません。嘘です、美咲様」
「様づけすんな!」
むくれたままで問いかけるも、彼があまりにも理想の少女に
ついて語りすぎるのでキレて怒鳴ってしまった。
その事を否定され、再びキレかけるも彼女の目のあまりの怖さに
情けなく謝ってしまう勇太である。
「……巨乳おっとり系お嬢様」
ボソッと自身の胸に目をやってうらめしそうに呟く美咲の気持ちに、
未だ勇太は気づいていなかった。
というか、美咲だって決して小さい方ではないのだが。
「あたしだって、まだまだ大きくなる可能性が……」
「美咲、一人で何ぶつぶつ言ってんだ?」
「な、何でもないわよ! 馬鹿!」
「ってだから何で蹴るんだよ!?」
「あんたなんか大怪我しちゃえばいいのよ――っ!」
「だから何で!?」
「う……うう……」
次第に泣きそうになって来る美咲に、勇太はついおろおろしてしまう。
本当にどうしたらいいのか分からなかった。
「え、美咲? どうしたんだよ?」
「そんなの、そんなのあたしがあんたの事大好きだからに決まってる
じゃないの馬鹿!」
「……ホワッツ?」
「死ね馬鹿勇太! 人の告白を何だと思ってんのよ!」
「ち、違う。本当に意味が分からなくて……み、美咲が俺の事好きって
意味が分からないよ。罰ゲーム?」
「ち・が・う! あたしは、あんたの事が本気で好きなの!」
「え……!」
美咲が自分の事を好きだと全く気が付いていなかった勇太は、顔を
真っ赤に染めておろおろしていた。
そんな様子を見た彼女の目に涙がたまって行く。
「ど、どうせあたしは『つばさちゃん』みたいに胸が大きくないわよ、
おっとりお嬢様じゃないわよ!」
「そ、そうじゃなくて俺は俺なんかを好きになってくれる子がいる
なんて思ってなくて……」
「勇太は、『なんか』じゃない。裏表のあるあたしもちゃんと受け
いれてくれた、優しい人じゃない」
「美咲……!」
「今は、あたしの事が好きじゃなくてもいい。でも、見てなさい
よね! いつか、あたしの事好きだって思わせてみせるから!
さ、お弁当食べましょ」
どこか男前なセリフを言い放つ美咲に、勇太が少しどきっと
してしまったのは余談だ。理想の嫁とは違うものの、美咲は
勇太にとって相当に可愛い子で、そばにいて欲しいと思う子
でもあった。
(好きとかって、まだよく分からないけど……美咲の事を
もっとよく見てみようかな)
勇太は少しずつ恋愛方面の事も、考えてみようと決意した。
美咲が作ってくれたお弁当は、甘目の卵焼きやお花型の
ウインナー、俵型のおにぎりにプチ野菜サラダが入った
女の子らしい物だった。
「はい、あ~ん」
「え、えええ!?」
卵焼きを上品に箸でつまみ、口元まで差し出された勇太は
おろおろするも、悪い気はしなかったのでぱくりと食べた。
真っ赤になりながら食べている勇太に、美咲もまた頬を
染めながら幸せそうにしている。
今はまだかりそめの恋人である二人が、本物の恋人に
なる未来はそう遠くない日かもしれなかった。
まだラブラブとは言えないが、幸せそうな二人を見て
いるのは天高く上る太陽だけだった。
勇太と美咲の物語は、まだまだ続くのだろう――。
シチュエーション考案者:にゃーせさん
オタク男子(できればかなり濃いオタクがいい
です…)と、間逆のリア充女子の恋物語です。
リア充女子はアイドルみたいにモテる小悪魔系
でもいいし(裏表があるとかいいですね〜)、ヤンキー
系のコギャルでもいいです。