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模擬戦闘

 和桜が生まれた国はとても治安が悪かった。なんだかんだ言って最後には強いひとが勝つ。勝てるならば正面からでなくてもいい。知恵と体力を絞り出さなくては生きていけなかった。

 魔法賢士として覚醒していた和桜からすれば体力、というよりも生命力は十分すぎた。そして知恵は生まれつき備わっていた。恐らく、特異的な魔性の一つなのだろう。前世の記憶は持っていない。しかし、知恵だけは何らかの条件で受け継ぐことができる。

 これはあくまで妄想でこの理屈でいえば重ねる毎に知恵が積み重なり無限の知恵を得ることになるため、正確ではないだろうが大筋はあっていると思っていた。

 孤児である和桜には、この知恵がどういう由来なのかよくわからない。一番ありそうなのは母親からの遺伝だが、母親は知らないし、魔性が遺伝するのかも知らない。

 結論は情報不足。と、和桜の知恵は判断した。

 であるから、和桜は戦士として十分な素質を持つ人間であった。

 そして多くの勝歴を持つ人間として、目の前に素手で立つ優介に負ける気はしなかった。

 和桜が武器として使っていたのは、“その辺に落ちているもの”であるからして、なにか特定の武器にこだわりはない。

 いま、事務所の地下一階にある道場で優介と和桜が部屋の対角線上に立っている。

 「ルールは殺さないこと。勝負ではないので実力が判明次第、適当に終わりにするから。和桜ちゃんは武器は何か?」

 「いえ、大丈夫です」

 「優介も大丈夫よね?」

 「大丈夫だ。問題ない」

 「よし。和桜ちゃん。優介を殺す気でやらないと、大変なことになるわよ。それじゃあ、ゴー!」

 開幕と同時に動き出したのは優介だった。身体を前傾にした猛ダッシュ。

 優介が和桜まであと五歩というところで走り幅跳びのように飛び上がった。

 和桜は優介繰り出す右手のパンチを、左手の平で受け止める。否、魔法ではじき返す。

 渾身の力積を載せたパンチをはじかれた優介はそのまま下がり距離をとった。

 「なるほど。法則改変系ベクトル逆転というところか」

 「……え?」

 「図星みたいだな。かかってこいよ」

 和桜は素直に感動していた。まさか自分の魔法属性を言い当てられるとは思ってもいなかった。法則改変系魔法は、文字通り魔法の範囲内における法則を上書きする。その法則は物理則を始め個々人の魔法属性に委ねられるが、魔法内容が非常に曖昧で視覚的な変化が乏しいという特徴から、たとえ発動者でも完全に理解できてない場合も少なくない。これが他人からすれば何が起きたのかさっぱりわからないことも多分にある。

 それをたった一発の攻撃で……。

 こんなことが出来る人は彼女の故郷にはいなかったし、自身も出来ない。

 それが彼女の闘志に火をつけた。

 「そうでなくっちゃ」

 和桜は地を蹴り一気に間を詰めにかかる。

 

 優介はこう思った。

 俺、かっこよくね?。ラッキー。

 見破るのがむずかいしいと言われ実際に受けてもよくわからかった。

だから、和桜の魔法属性が当てる事が出来たのはのはほんの偶然であった。というのも、ほんのさっきまで読んでいた本は“法則改変系魔法の対策”というものでありしかも、ベクトル逆転を例にしているケースがあったのだ。

 その本によればベクトル変化系魔法の弱点は、法則改変中は自らの攻撃によるベクトルも反転してしまうことである。ベクトルを与えるわけではなく、ベクトルを持っている物体の運動を逆にするため、自分の攻撃も自分で弾いてしまう、と。そのため、この手の魔法の対策は、相手の攻撃する瞬間の魔法を、解除する瞬間をねらえ。

 それをふまえて

 「かかってこいよ」

 であった。実際には物理では攻撃できないだけなのだが。

 和桜が突撃してくる。左手を引いてストレートを構えている。

 優介はカウンターを撃ち込めるよう右足に魔力を充填した。

 三、二、一、

 「こ――ここだ!」

 絶妙のタイミングで振り上げた右足は和桜の顎を捉えーー

 ーー弾かれた。

 「んなっ!?」

 バナナ! じゃない、ばかな!

 優介の体勢が崩れる。

 これで完全に彼女の手番だ。

 しかし、法則改変中では和桜は攻撃できないはず。ここは見極める必要がある。

 彼女は引いた左手を振りかざーーさずに、優介の右脇を通り過ぎた。左腕はそのまま首へ引っ掛けそこを軸に身体を回転。優介に後ろから押し倒すべく圧をかける。

 なるほど。

 要するに、和桜が優介を殴れば確かにベクトルは反転するが掴みかかり勢いを、ベクトルを殺せば改変状態のまま攻撃出来るということか。

 おもしろい。

 

 和桜は優介の、かかってこい、にはカウンターの構えがあることにすぐ気付いたし、それに対しての対カウンター用カウンターを用意していた。

 和桜は後ろから締め技をキめきるために、優介を一気に押す。

 え? なんで?

 優介はピクリとも動かなかった。

 優介は和桜の足に自分の足を素早くを引っ掛け、そのまま後ろに倒れかかってきた。自分の姿勢も不安定だが、それはこの人も同じ。空中で体の位置を入れ替えて叩きつけてやる。

 「そこまで!」

 絵里が戦闘を打ち切った。

 優介はそれを確認して倒れる自身の体を自らの足で支えた。背中が和桜と密着しているので、そのまま前に進み、和桜と向かい合うように、あぐらを書いた。

 「私まだ戦えます。まだ負けていません」

 和桜は抗議を申し立てるが、

 「いいえ、和桜ちゃん。あなたの負けよ」

 「どういうことですか」

 「あなたに倒れかかったとき、優介くんは自身の位置エネルギーをかなり、増幅させていたわ。あなたは優介くんと入れ替わるつもりだったのだろうけど、無理よ。魔法的に彼はすごく重い状態だったの」

 「つまり、あのままだと私はぺちゃんこになってた・・・・・・ということですか?」

 「砕けちったでしょうね」

 「・・・・・・・・・・・・」

 「でも私は女の子にこんな事する優介くんの良心を疑うわ」

 「え、おれ?」

 「当たり前じゃない。男なんて醜いもの死ねばいいのに」

 「ちょっとそれはひどくないか!? 世界中の男を敵にする気か!」

 「あら、ちょっと脱げばすぐ私の味方になるわ?」

 「うぐ・・・・・・男には」友情というものが

 「性欲しかないでしょう? さっきだって背中におっぱい押し付けてたじゃない」

 「そんな意図ねぇよ! おいそこ、胸を隠さない!」

 「隠してません。ただ優介さんの目を如何にして潰すか考えていただけです」

 「洒落になってないから! いやホント頼むからお願いします殺さないで」

 キリのない応酬に絵里は見切りをつけて。

 「まぁまぁ、とりあえず仲良くなってくれてよかったわ。上に行ってお茶でもしましょう」

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