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非才陰陽師・裏

作者: 九条 隼

『非才陰陽師』とつながっています。

『非才陰陽師』を読まれた方は、テンション・空気の差にご注意ください。



それは、あの事件から五年がたったある日。


ふかふかのソファーに二人で寝転がって、数枚の写真を手に取っていた。もちろん写っている人はただ一人である。それにしても、これしか撮らせてくれないなんて……! ツンデレめ!!

んー、そうだな。“まあ……しょうがないからこれくらいはサービスね”とかなんとか言っちゃったりして?

素敵! かわいい! かっけー! 犯してえ!! でも今は妄想だけにとどめておく。

……ああ、おちつけ俺! クールが売りなんだから……! ひっひっふー……。

っていうか、左でも息荒い人がいるんですけど。……。お前、女の子なんだから! 唯一の女の子なんだから!

「リッカ……鼻血どうした」

「えっ? ……えへ! まあまあ、はいサービスショット」

「……!?」

……。

おっおおおおおおぉ!!

やべえきたこれ、風呂上がりじゃないですかああぁぁあ! あの人風呂嫌いなのに写真とか珍しい! てか鎖骨! 色気! 色気! もともと犯罪級なのにこれはもうテロですよおぉ!

至福……! あああ幸せすぎて辛い。生きるの辛い。

女子高生に負けないくらいの悲鳴を上げて二人で一緒に笑って、帰ってこないあの人の充電。あの人への愛で俺らに叶う奴はいないだろう。ふふん。

しかし汚してしまってもまずい。取り敢えず厳重に丁重に仕舞い込む。えっ金庫に? 当然だろまったく。

「いやあ、流石リッカ……撮影の腕は神だな」

「いやいやそういうユイこそ……改造の腕は流石天才だね! めっちゃ綺麗だよ」

いやいやいや、そんな!

また二人でテンションが上がりまくってソファでゴロゴロと転がる。これ、マサがいたら蹴り落とされそうだけどね! 幸せだ……。


紅茶を入れて落ちついて、また笑い合う。

「そういえば、帰ってこないねえ……マサもコハも」

「ね。失踪者三名に増えたね」

「ねー」

マサとコハは探しにあの人を行っただけだけど、きっとまた連れて帰れないだろう。いくらマサが強運の持ち主手もコハは悪運の持ち主なんだから。プラスとマイナスはかけたらマイナスになるからね。あっ今上手い事言った。

……まあ、二人が帰ってきたらこうやってのんびりできないんだろうけど。

それにしても、そろそろ本当に寂しい。リッカとこうやって過ごすのも好きだけど、やっぱりみんなでいるのが一番好きだ。

そっとリッカを覗き見れば、どうやら考えることは一緒らしい。



「……行くか」

「行こう!」

「……どこに?」

紅茶を持つ手が止まる。リッカはきょとんとして俺を見てた。あ、はい、ノープランですよね。

これもしかして探すところから始めなきゃダメなんかな。……いや、勿論あの人をさがす手がかりだからそれも幸せだけど。まあ、見つけたら御褒美……ってのがあったらもう死ぬほど幸せっていうか死んじゃうんだけどね。いや、勿論あの人が生きろっていうなら不老不死になってでも生きますけど!

「ふっふーん。じゃじゃーん、見てこれ!」

「リッカ、ピン芸人にでもなるの? でも芸人って頭良くなきゃできなくね?」

「ちげーよ! 顔じゃなくて液晶見ろ!! 液晶だ!」

近い近い。近すぎてなんも見えない。

取り敢えず謝罪して、液晶を覗く。……掲示板か?

「どうしたの、これ」

「美少女掲示板。見つけた美少女をね、ここに書き込むんだって! ほら見てココ。茨木で黒髪美少女発見! これは二次元レベルだって!」

なるほど、理解した。



「行くぜ、茨城!!」

「イエッサー!」


しかし俺達のこの気合はすぐに燃え尽きることになる。




 **



「うう……人、多いね……」

顔を真っ青にしてふらふらと歩くリッカを支えながら、人込みの中を縫うようにして歩く。

忙しそうに走るサラリーマン。きゃいきゃいと楽しそうに笑い合う女子大生。ビニール袋を二つ持って歩くおばさん。朗らかに笑いながら散歩をするおじいさん。けたたましく叫びながら罵倒しあうカップル。


この街に来たのは、久しぶりだ。……なんて、あんまり覚えてはいないんだけど。でも確か、何度かここに来た気もするかな。

それにしても、ほんとに吐き気がするくらい人通りが多いところだここは。こんな街の中に、陰陽師が隠れ住んでるだなんてバカみたいな話、誰が信じるんだろうか。

――ああ、この街は、人嫌いのリッカには少し酷だったかもしれない。

教室ですら一時間も座っていられないくらい人嫌いな彼女は、今日も今日とてやぼったい眼鏡のレンズの奥の少し紫っぽい青色の目を伏せている。本当は青いんだけど……本当に、自分の無力さが嫌になる。ごめんな、なんて思うけれど、やっぱり声には出なかった。


それにしても、本当に人が多い。

「やっぱり、ここにはいないのかな……?」

「大人しく家で待ってた方が、良かったのかもね」

ああ、折角目撃発言があったっていって、笑ったと思ったのにな。泣きそうな顔したリッカの頭に手を乗せれば、少しビビったように震えて、また笑った。どうやら、まだ触られるのは慣れないらしい。

ああ、そうだ。

「じゃあどうせなら、俺の実家来る? ここの近くだし。山奥だからいろいろあって結構楽しいよ」

「……あったの? 実家」

なんだそれ、なんて笑って、そう言えばリッカとミズキはこっちで育ったわけじゃないことを思い出した。二人にとっては実家なんて言われてもピンとこないんだろう。

まあ、うちの連中はみんな、それぞれ色々あるもんなあ。

俺の幼少期なんざ、リッカ達に比べたら何でもないんだろうな……なんて。こういうの比べるのはよくないってのは分かってるんだけど。過去を誇れるくらい、強くないんだよ。とかなんとか言ってると、不憫な子みたいだ。本当は、今ではもう世界で一番ってくらい幸せなんだけどね。

「いや、そりゃあるよ。俺、日本生まれの日本育ちだから。まあ、あんまいいとこじゃないけどね」

そうなんだ、でも行きたい、なんて俺の顔を見上げたリッカに、笑った。


「うん、行こう」

こんな俺でも、お前らと一緒なら、俺も、強くなれるんだよ。

昔はこんなこと、考えもしなかったよ。



――ああ、そう言えば今、どっかで見たことがある様な奴がいたんだけど。

……誰だったかな。



まあ、いいか。

それよか、とりあえずはこの馬鹿の体調をどうにかしなきゃな。

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