零 体が燃える
体が燃える。
灼熱の炎に包まれている。錯覚だと頭では理解しているのに、熱さ、痛み、苦しみはまったく癒されない。
炎は僕の内側にある。
内側から全身を焼いている。
目が乾いて涙が出るが、それもすぐに蒸発してしまう。網膜がカラカラに乾いて痛い。
悲鳴を上げようとするが、声は上がらない。喉も焼かれて声を上げることができない。息すらできない。
本能的に喉を押さえようと手が伸びる。
手が喉に辿り着いた瞬間、手のひらの熱が僕の喉を焼いた。
痛覚が全身を突き抜け、つむじから叫びが上げる。
もしも、悲鳴を上げることができたら、少しは楽になっていたのかも知れない。
だけれども、僕の喉は声を上げることができないほどダメージを負っている。
今の僕はただひたすら耐えることしかできない。
熱さに、痛みに、苦しみに、絶望に。
逃げ道はどこにもない。
熱さは僕の内側から僕を襲っているのだから。
胃、肝臓、胆臓、小腸、大腸、腎臓、全てが無慈悲な炎に焼かれる。
血管を通って、熱気が僕の脳みそを焼き殺す。眼球も口内も喉も、全ての水分を蒸発させる。
息苦しい。いや、息ができない。
全身全霊を込めて、外部の酸素を取り入れようと呼吸をしてみるが、空気は僕の唇に当たるだけで空気を飲み込むことができない。
陸に上がった魚はこうなるのだろうか。生きたまま丸焼きになる魚はこうなるのだろうか。
僕は床をのたうち回りながら、心の中で悲鳴を上げ続けた。
一瞬の間に炎は僕の全身を制圧した。
煮え滾る血液は、今や生命を維持するための命の象徴ではない。今ほど血液を恨むことはない。
皮膚が感じている痛みは、日焼けの感覚に似ているのかも知れない。
だが、痛みは日焼けとまるで比べ物にならない。まるで別次元。
異質過ぎて、最初は熱さだと認知できなかった。
どんな種類の痛みか、判別ができなかった。否、今でもできない。
ヒリヒリ? ズキズキ? ジワジワ? チクチク? ギンギン?
鈍い痛み? 鋭い痛み? 考えるだけ無駄だ。到底、擬態語では形容できない種類の痛みなのだから。
意地悪なことに、意識だけはハッキリとしている。
いっそ気絶できたら、こんな痛みを感じずに済むのに。
また一段と熱が増した。
もはや、この痛みと熱さに耐えるだけで、何も考えれない。
未だ燃え尽きない炎。
視界はあるのかどうかわからない。余裕がない。
ただ、ただ、熱い。痛い。怖い。
思考が少しずつ、薄れていく。
痛みは格段に、増していく。
残酷な痛みと熱のこと以外を感じることができない。
電子機器の回路が焼き切れるように、僕の…思考は…途切…れ……る……
もう……何も………考えら……れな……