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作者: コトリ

 


 

 この世には神がいる。唯一無二、人間など足元にも及ばない神が。

 だが、その神は今はいない。かつて神と呼ばれた「もの」は今や人々を苦しめる厄災と成り果てた。

 厄災により、かつて栄華を誇ったとされる大地は今や萎え、荒れた大地が延々とはびこっている。


 そんな時代に、俺は生まれた。裕福とはいえない村に生まれ、法律も成立していない国で育った。

 ちゃんとした教育を受けてきたわけじゃない。それでも、人一倍体力があり、人一倍剣の腕が立つ。人一倍頭もキレて、人一倍肝も据わってる。

 どうしてそうだったかなんて、俺が知った事じゃない。


 人々は神が憎かった。かつて人間に栄華を極めさせた神が、今やそれを認めず人間達をその頂点から引きずり落とそうとしているのだ。再び自分が、それに成り代る為に。

 俺は神を憎んでいたわけじゃない。ただ、俺達は神を見たことがなかった。俺は、見たことのないものは信じたくないだけだ。

 それでも、俺は選ばれた。


 武器を持って立ち上がったのは俺じゃない。

「今こそ、厄災から大地を、人々を守るのだ」

 村のジジイの言葉だ。皆は賛同したが、俺にはそうは聞こえない。元々は神の作った大地だ。お前らの言いたいことはこうだろ?

「神から、大地を奪うのだ」

 俺についてくる気も無いくせに。


 それでも、俺は立ち上がった。

 厄災の、神のいる地など本当は行きたくは無い。それでも、勝手に話は進み、わずかでも共に立ち上がった仲間を連れて、そこへ向かった。

 そう、俺が立ち上がったのは、俺を心の底から頼り、信頼し、武器を持って行動を共にしてくれた仲間の為だ。お前らが俺を頼る限り、俺はその信頼を裏切らない。

 お前らの未来の為に、俺は戦うんだ。

 そう、この目の前の化け物にだって、今なら立ち向かっていける。


 神の――厄災の姿は、俺が想像していたどんなものとも違った。

 人ではない。獣でもない。言うなれば――、煙だ。黒い煙の集結。

「――テメエが厄災か」

 言葉なんて通じるのか?

 そんなことはどうだっていい。今のは確認だ。間違ってたらとんだ恥さらしだ。

 周囲を見回し、剣を構える。何だかこの地は初めて来たきがしない――。

 いや、それよりこんなものに剣が通用するか。

 それでも俺達の思いつく方法はただ一つ、煙を分散させる事だ。


 仲間が武器を持って厄災に立ち向かった。邪念を振り払い、共に声を上げ、俺は厄災に飛び込んだ。

 ところがどうだ、いくら剣を振っても風を吹かせても、厄災は、一向に分散しないし消えもしない。


 俺は身にしみた。これが神なんだ。人間なんかが敵うわけが無いものが。

 それでも仲間は果敢に立ち向かっている。俺も怖気づく気持ちとは裏腹に、体はうまく動いてくれた。

 俺ってやっぱり肝が据わってる――。


 それでも、戦況は圧倒的に不利だった。体力はそう長くは続かない。煙には変化が無い。

 こんなはずじゃなかった。俺は世界一強いんだ。村のジジイだって言ってたじゃねぇか。…ん?村のジジイ?

 あの野郎が本当に寝ないで俺達の勝利を祈ってるかって?

 答えはノーだ。考えなくてもわかる。今頃いびきをかいて寝てやがるに違いない。

 誰だってそうだ。俺達に頼って、自分は目を閉じているだけじゃねぇか!でも、俺はここにいる仲間の為に戦うんだ。

 テメエなんかに負けるわけがねぇ。


 ――何かが変だ。

 厄災の一部が体に入ったのか?

 いやに苦しい。――景色がかすむ。

 仲間の叫び声が聞こえた。恐怖にかられた声。俺はあいつのあんな声を、聞いたことがない。

 かすむ景色の中から、うっすらと厄災が形を変えていくのが見えた。黒い煙のかたまりから一筋の煙が立ち上っていく。煙は徐々に先端を尖らせ、ついには鋭い爪と化した。あんなもので刺されたら――。


 やめろ、やめてくれ。俺が悪かった。

 やっぱりこんな役、やらなきゃよかった。初めからわかっていたじゃないか。俺達の実力で、敵うわけがない。気がつけば地面に横たわり、死んでいる仲間がいる。それでも攻撃を続ける仲間も――。

 俺は泣きながら厄災に攻撃をした。体中が痛くても、体は勝手に反応した。

「俺は、負けるわけにはいかねぇんだ!」

 言葉が勝手に口から飛び出した。

 それでも、あいつらと同じ叫び声をあげて死ぬ自分の姿が目に浮かんでくる。

 ――嫌だ、助けてくれ!


 厄災が爪を振りおろすのが、かすれた視界に入りこんだ。


 ――ブツッ

「ほら、いいかげんになさい。ご飯だって言ってるでしょ」

「うるさいな、もう終わったってば!」

 部屋の入り口に立つ機嫌の悪そうな母親を見て、少年は目の前のゲーム機のスイッチを切り、立ち上がった。

「いくらなんでも夢中になりすぎよ、一日やってるじゃない」

「もうちょっとでクリアーなんだ。あと2、3回やれば、ラスボス倒せると思うんだけど」

 

***

初めて短編小説というものに挑戦しました。

オチとしては、これはゲームの中で、主人公はゲームの主人公でしたってことで。さて、タイトルがさすのは誰でしょう…?


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― 新着の感想 ―
[一言] 神がスタッフだってのは面白みがないので、 お客様が神様って事にしときました。さて、この場合のお客様は少年なのか読者なのか、はたまた小鳥さんなのか。 きっとバックグラウンドに潜むものを象徴…
[一言] 神=シナリオ・ライター で、正解ですか? 羨ましいほど、素直で癖のない文章ですね。 これからもがんばってください。
[一言] はじめまして、W4015Aの灯夜って言います。 文章は良かったと思います。 もう少しストーリーに捻りがあればもっと良くなると感じました。 これからも頑張って下さい。
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