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憂鬱

 目が覚める。

 頭が重い。

 時計を見るとまだ目覚ましをセットしている時間よりも結構早くに目が覚めてしまったらしい。

 隣の義斗はもう目覚めたらしく、ベッドにはその姿が無かった。

 どこにいったのだろう。

 俺はとりあえず朝の日課を済ませる。

 


 

 部屋に戻るが、義斗はまだ戻っていない。

 どこに行ったんだか…。

 嫌な予感がする。

 まさかと思う…しかし、義斗に限ってそんな事は無いだろう。

 俺は、学校の支度を手早く済ませる。

 まだ時間が残っている。

 いつもならこういう暇な時間は義斗を起こして潰すのだが、その相手は今はこの部屋にいない。

 「…暇だ」

 たまには点呼前に動き始めるのも悪くない。

 そう思って、寮監の部屋へ向かう事にする。

 

 そういえば、片桐や斉藤はどうしているだろう、昨日の事がある。朝あったら声を掛けよう。

 そう思った。

 寮監はテレビを点け、のんびりとそれを眺めていた。

 「失礼します」

 その声に気づくと寮監はこちらへ視線を向ける。

 「なんだ、橘か。どうした?」

 「えっと、今日は点呼先に済ませようと思って」

 暇だから早く飯が食いたいとも言えない…こういう時は適当にごまかしとくのがいいだろう。

 そう思ったが、寮監はそれ以上聞かずにわかったとだけ言って、またテレビに目を向ける。

 規則なんてなかった。

 以外にもあっさりと許可をもらった。

 とりあえず飯だ…腹が減った。


 食堂にはちらほらと人がいるが、やはり大半は部屋にいるようで、そこにいる人数は手で数えられる程しかいない。

 まぁ、部活や委員会活動など予定がある人以外にこの時間に朝食を取る人いないのだろう。

 俺は適当に皿盛ると席に座る。

 丁度食べ始めようとしたところで、食堂の戸が開く。

 入ってきたのは見知った顔…義斗が入ってきた。

 義斗はこちらを見つけると手を上げて近寄ってきた。

 「おう、早いな…どこいったかと思ったぜ」

 「…お前も早いな、てかどこ行ってたんだよ」

 「…あぁ、ちょっとな」

 そう言うと、義斗はお盆を持って朝食を取りに行く。

 また大盛りにしている。

 満足気な表情で戻ってくると、義斗は向かいの席に座る。

 「…また今日も大盛りだな」

 「おおよ…やっぱり食わなきゃ駄目だ」

 お前の場合は食いすぎなんだけどな…よく太らないな、関心するよ。

 まぁ、もっとも筋肉質なその体の消費カロリーはそのくらい食べないと足りないのだろう。

 「お前は少ないよな」

 「そうか?」

 俺は食べる手を止めることなく返事を返す。

 「おおよ、俺じゃそのくらいだと飢え死にしちまうぜ」

 「するかよ」

 いつもの朝食の会話だった。

 また食堂の戸が開きまたも見知った顔が入ってくる。

 今日はみんなやけに早いのな。

 「あぁ、おはよー」

 そう言って近寄ってきたのは片桐だった。

 「あぁ、おはよ…。朝早いんだな」

 「いやぁ、昨日は早く寝てしまって、朝早くに起きすぎたんだよ…」

 そう言う彼女の表情は少し暗い。

 向かいの義斗は彼女を無視しているのか、片桐を見ようともせずに大盛りののりたまをガツガツと食べている。

 おかず、なかったのか…?

 いや、今はどうでもいいか。

 しかし、義斗の表情には怒りの色は見えず。ただ意地を張っているだけにも見えた。

 子供っぽいな。

 まぁ、昨日のあれのせいで彼女と顔を合わせづらかったんだろう。

 「…となりいいか?」

 そう言うと、鮭定食を盆にのせた片桐が隣に座った。

 いいともなんとも言ってないのだが。

 まぁいっか。

 向かいの義斗は、その行動に片桐をにらむ。

 一瞬片桐は俯いたが、再び視線を戻すと義斗を見つめて言う。

 「…その、なんだ…昨日はすまなかった」

 「頭に血が上って…自分でも後悔してる」

 彼女はそう言うと、本当に申し訳なさそう頭を深く下げた。

 「…事情は聞いた、君が悪くないことも、君がどうしてああなったのかも…」

 「すべて私の思い込みだった…」

 喧嘩両成敗…しかし、事と次第ではその論法は当てはまらないと言う事だろう。

 多分それは斉藤が関わっているんだろう。

 なんとなくわかる。

 昨日の野球部員の対応と言い。

 しかし、悪いのは野球部員なのだろうか…それとも斉藤を入部させ、義斗を引き込んだ俺なのだろうか。

 答えなんてわからなかった。

 「いや…いいんだよ…お前は悪くない」

 義斗はそう言った。

 お前は悪くない。つまり悪いのは他にいると言うことだ…でも俺にはそれがだれなのかわからなかった。

 片桐はそれを聞くと、顔を上げた。

 「…ありがとう」

 そう呟いた。

 「そして、これからよろしく」

 意味がわからない…よろしく?

 「はぁ?」

 義斗も同じ気持ちなのだろう、意味がわからないと言う言葉を出していた。

 「なに…今こうやって仲直りできた…だからよかったら友達として…だな…その」

 彼女も勢いで言ってしまったのだろう。

 恥ずかしそうにもじもじとし始めた。

 その言葉を聞くと義斗は大笑いを始める。

 「はっはは、そんな事か…いいっていいって。昨日の敵は今日の友ってな!!」

 そう言うと、義斗は手を差し出す。

 「仲直り…だ」

 片桐と義斗は握手し、これで仲直り…そういう事になったらしい。

 「だとしたら、今後は今回の事の根っこをなんとかすることを考えよう」

 片桐は早速本題を持ち出した。

 きっと彼女なりに昨日考えていたのだろう。

 俺は憶測でしか事の成りをしらない。

 ここはしっかりと聞いておくべきだろう。

 「とりあえず、事の全貌を知りたいんだけど…」

 俺はここで初めてその会話に入る。

 「…あぁ、やっと聞く気になってくれたんだね」

 「なんだよ、厚志知らなかったのか」

 そう言うとどちらからでもなく、昨日の経緯を説明された。

 簡単に説明するとこうだ。

 昨日、義斗が野球部に顔を出し、適当にウォーミングアップをしながら俺を待っているところに斉藤が来て、部員が斉藤を邪険に扱ったのが事の発端だったらしい。

 やっぱりかとしか思えなかった。

 そんな気はしていた。

 「うんで、それの解決策なんてあるのかよ」

 「彼らは彼らなりにがんばってきた経緯はある…それは否定できない事実だ」

 彼女の目は真剣で、その話す口調には力がこもっている。

 「だが、それは斉藤君自身を否定する事にはならないと思うんだ」

 と繋げる。

 つまり、彼女は今のままの野球部に斉藤を馴染ませたいと思っているらしい。

 しかし、そんな事が果たしてできるだろうか。

 俺には到底無理に思える。

 「だから、斉藤を邪魔する奴は全員ぶっとばせばいいんだろ?」

 なんにもわかってないな義斗は。

 「いや、それじゃ何にも解決にならないんだって」

 「橘君の言うとおりだ、それじゃあ何にもならない…野球部の事なんだから野球で決めれば良いと私は思うんだ」

 それはもっともだが、能力の高い者へ対する嫉妬心と急に入ったというよそ者へ対する敵対心を果たしてそれだけでうまくまとめられるのだろうか?

 そんな事は片桐もわかっているようで、俺の疑問を詠んだ様にはっはは、と笑ってみせる。

 「なにを憂いでいる橘君、私に任せなさい…後はうまくやる」

 そう言うと、彼女は席を立つ。

 もう、朝食を食べ終わっていた。

 義斗だけは、なにをするのかまだうまく理解していないみたいだが、そんな事はどうでもいいと言わんばかりに、目の前に盛られている大盛りののりたまを掻きこむ。

 「じゃあ…また」

 片桐は食堂から出て行った。

 どこへ行くかはわからないが、彼女なりに考えがあるのだろう。多分部屋ではなく別の場所へ行くのだと思う。

 周りを見ると、食堂はいつの間にか生徒でにぎやかになっていた。

 時計を見るともう7時はとっくに回っていた。

 そろそろ斉藤も顔を出してもおかしくない頃だが。

 とあたりを見渡していると、斉藤を見つけた。

 彼女もこちらを見つけたらしく、お盆を持ってこちらへ向かってきていた。

 「おはよー」

 「あぁ、おはよう」

 そう言うと、斉藤は、隣に座った。

 「もう大丈夫なの?」

 昨日の事もあるし、彼女を案じて訊いてみる。

 しかし、彼女は首を傾げるとへ?と返してきた。

 多分彼女の頭は鳥さんの頭なのだろう…。

 あれだけの事を一睡だけで忘れられるなんてうらやましいぜ。

 「それより聞いてよ…起きたらね…」

 なんの事は無い話だった。

 起きたら、ベランダに猫がいたらしい。

 「黒い猫で、かわいかったの」

 黒猫…か。

 「朝から黒猫とは…」

 義斗が神妙な顔つきでそう言っていたが、俺はなにを言いたいのかわかったので適当にその話題に触れさせないように、その自慢ののりたまに醤油をぶちまけてやる。

 「あああぁぁぁぁぁあッ!!」

 絶叫している。

 頭を抱えて、のたうち回る義斗…やりすぎたか。

 「俺の…俺ののりたまぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 あたりの生徒の視線が痛かったので、とりあえず今度はマヨネーズをぶち込んでみた。

 「ええエェェェェェェェェェッ!!」

 追撃は予測していなかったらしく、その光景を見て義斗は真っ白になっていた。

 「まぁ、食ってみろって、案外うまいかもしれないぞ」

 そう言って、義斗にわずかな希望を持たせてみる。

 「そうだな」

 そう言うと、義斗は恐る恐る元のりたまを口へ運んだ。まぁ、今となってはのりたま?なのだが。

 そののりたま?を口に入れると、表情を二転三転させ、真っ青な顔になる。

 「なんだ、不味かったか?」

 「食えるかッ!!」

 そう言って、机をバーンとたたく。

 「食べ物を粗末にしちゃいけないと思うよ…」

 隣からお叱りを受けた。

 「だそうだ、ちゃんと食えよ」

 「食えねぇって」

 まぁ、もっとも食えないものにしてしまったのは俺の責任だ…仕方ない…後で食堂のおばちゃんに謝って捨てよう。

 そう思っていると、義斗は意を決したのか、一気に口の中にその謎ののりたまもどきを突っ込んだ。

 「勇者だ…」

 「うわぁー」

 食いきった義斗の顔はどこか誇らしげだった。

 「悪い、トイレ行くから、悪いな」

 そう言うと、食器を片付け食堂から走り去った。

 よっぽど食えない代物だったらしい。

 そんなに変なトッピングにはなってないはずなんだが。

 まぁ、いいか。

 隣の斉藤は、ゆっくりと朝食を味わうように食べている。

 なにがそんなに楽しいのか、時折見せる笑顔は本当に楽しそうだった。

 「楽しいの?」

 俺は口に出していた。もしかしたら、俺は疑問やなんかはすぐに口に出てしまう性質なのかもしれない。

 「ん?…うん」

 そう頷く斉藤の表情は笑顔だった。

 なにがそんなに楽しいのかね…。

 時計を見るとまだ、登校する時間までは時間がある。

 食べ終わっていたが、俺は斉藤が食べ終わるのを待つことにする。

 昨日は途中で抜けちゃったからな。

 幸せそうに朝食を頬張る彼女に付き合うことにした。

 


 

 部屋に戻ると、真っ青な顔をした義斗が迎えてくれた。

 「…おう…遅かったな」

 その表情には普段の元気がない…精神的なものなのだろうか、体調が優れないように見える。

 とりあえず、なんとかフォローだけしとこう。

 「義斗…実はな」

 「…なんだよ?」

 「醤油とマヨネーズって滅茶苦茶食い合わせが良いらしく、なんと最高の万能薬になるらしいんだ」

 唐突にそう言ってみる。

 それを聞いた義斗は、突然動き回ってみる。

 「…あ、やっぱりか…なんか俺も今日は調子良いような気がしたんだ」

 適当だな…こいつの体って。

 そんな事を思いながら、学校へと出発する。

 今日はいつも通りの時間につきそうだ。

 



 教室にはもう既に多くの生徒の姿が見える。

 やはり、少し時間が違うだけで、だいぶ違うみたいだ。

 時計は8時を回っていた。

 後ろでは、無駄に体を動かしている義斗がついて来ている、鬱陶しいからとっととどっかへいってくれ。

 その思いが通じたのか、彼は忽然とどこかへ消え去った。

 どこへ行ったかは今更問うまい。

 席に着くと、俺は何もする事もなく、始業をまった。

 そこで少し違和感を感じた。

 なんで俺ってこんなにもクラスの奴を知らないんだろう。

 思えば、義斗以外にこのクラスで話す相手はいない。

 …?

 よくわからないがとりあえず今は気にしないで置こう。

 

 しばらくすると教師が入ってくる。

 「なんだ、今日は義斗はいないのか…」

 「……。」

 「じゃあはじめるぞ」

 それだけ!?

 義斗の不在の理由を特に尋ねることもなく、教師はホームルームを始めた。

 



 四時間目の終了を告げる鐘で目が覚める。

 2時間目の英語のあたりから記憶がない…どうやら長い昼寝をしてしまったらしい。

 前の席にはいつ帰ってきたのか義斗の姿があった。

 てか、こいつはいつも昼休み寝てるのか…昼飯ちゃんと食ってるのか?

 ちょっと心配になり、今日は義斗と昼食をとりに行くことに決める。

 さて、どうやって起こそうか。

 …。

 「おーい、義斗ー」

 呼んで見たが残念ながら反応はなく、寝息が聞こえてくる。

 とりあえず椅子を蹴る。

 椅子はいい具合にだるま落としの原理で抜けると、その上にいた義斗は床へと落ちる。

 「イテッ!」

 やっと起きた。

 「おはよう義斗」

 「…。なんだよ」

 「昼だ」

 「…あぁ」

 「飯にしよう」

 「……、そうだな」

 そう言うと、義斗が立ち上がり。俺は、さっさと食堂へと歩いていく。

 途中で斉藤の姿を見た気もしたが…、追ってみようか。

 後ろの義斗の表情は浮かない。

 まぁ、気持ちよく昼寝をしていて、あんな起こされ方をしたら、当然だろうか。次からはもっちょっとまともな起こし方をしよう。

 そう思ったが、こいつが、まともな起こし方で果たして起きてくれるのか少し不安になる。

 いままでだってまともな起こし方は少しは試したのだが…。

 さてっと…放っておくのも可哀相だし、誘ってみるか。

 「義斗…悪い、斉藤も誘おう…」

 「…あ、あぁ。いいぜ」

 「そうと決まれば、先に食堂の方に行っててくれ。後で合流するから…」

 「了解だ席取りして待ってるよ…早めに来いよな」

 「当然…連れたらすぐ来る」

 そう答えてやると、義斗は食堂の方へ向かっていった。

 さてと、言ったものの斉藤はどこにいるのだろうか…まぁ、多分中庭にはいるとは思うのだが。

 パンを買う前に捕まえれたらいいなと思う。

 俺は、購買へ向かう事にした。

 

 「やっぱし少し時間が変わるだけでだいぶ落ち着いてるんだな…」

 購買にいる生徒の数は、昼休み開始直後よりも幾分少なかった。

 斉藤はもう買ってしまったのだろうか。

 いつもの場所に行ってみる。

 そこにはいつも通りにパンを頬張る斉藤の姿があった。

 「…よう」

 声をかけると、彼女はこちらを見つけると笑顔で手を振ってくる。

 「やぁ、橘君」

 「よう…もう昼飯買っちゃった?」

 「…ん?」

 斉藤は少し首を傾げる、こちらの意図がわからないのだろう。

 「いや、ちょっとさ、今日は一緒に食堂で食べるってもの悪くないかなって…」

 なんか、言って見たら滅茶苦茶恥ずかしかった。

 「…んー」

 「いいよっ」

 彼女は少し考えたようにパンを眺めると、こちらに視線を向け、笑顔でそう答えてくれた。

 食堂では義斗が待っている、急ごうか…。

 斉藤は俺について来る。

 

 食堂では義斗が座って待っていた。

 彼はこちらを見つけると、手を振って合図を送る。

 「こっちだこっち」

 「遅くなった…」

 「なんか、すみません…あと、誘ってくれてありがとうございます」

 そう言って斉藤は頭を下げた。

 「いいって事よ、一人より二人、二人より三人の方が楽しいぜ」

 いや、お前が鼻を高くする理由がよくわからんが…。

 すると、突然後ろから声がする。

 「私も混ぜてもらっていいかな…」

 片桐だ…。

 「いいぜ…やっぱり飯ってのは大勢で食わないとな」

 「…もちろん、大歓迎だぜ」

 「片桐…さん、ですよね…」

 そうか、斉藤は昨日の一件以外で彼女を見たことが無いのか…。

 「あぁ…二年の片桐遙だ…よろしく」

 「…はい。二年の斉藤江里菜です…よろしくです」

 自己紹介をすると、斉藤は何故かぽわーっと微笑んだ。

 多分、彼女的にかなり嬉しいのだろう。

 だれからでもなく、それぞれが昼食を取りに行く。

 俺は、全員が配膳を完了するまで席取りだ…帰ってきて席が無いんじゃ洒落にもならないからな。

 みんなの後ろ姿をみてふと思う。

 いつの間にか俺達にも付き合ってくれる人が増えて、そういうのっていいなと…そう思った。

 「なーにしけたツラしてんだよ、厚志…次はお前が取りいく番だぜ」

 そう言って、義斗は大盛りの牛丼をもって席に着いた。

 「…あぁ…行って来る」

 そう言い俺も取りに向かう。

 俺も今日は牛丼にしよう

 そう決め、牛丼を取る。

 みんなはもう席に着いてこちらを見ている。

 どうやら、俺が戻るのを待っているようで、だれも飯には手をつけていない。

 「悪いな、待たせちまって」

 「いいって事よ、気にすんなって」

 「…うん。じゃあ食べよー」

 「うむ」

 俺が席に着くとだれからと言うわけでもなく、昼食会が始まった。

 


 食べ終え、一息つけると、みんなそれぞれの教室へと向かっていった。

 「俺達も戻ろうぜ」

 「あぁ、早くしないと遅刻だ」

 時計はもう時期に始業の時間を指す。

 俺達は小走りに教室へと向かった。




 授業を適当に聞き流して、放課後。

 どうでもいいけどこいついつも寝てるんだな。

 前の席で堂々といびきを立てている義斗をたたき起こすと、部活へ向かう。

 昨日の件がある…行きにい。

 「どうした、厚志、暗いじゃねぇか」

 「…あぁ、俺はお前程図太い神経してないんでな」

 そう答えると、そうか…と義斗が答え、会話が終わった。

 「どうしたんだい?そんな暗い顔をしてさ…」

 突然声を掛けられる。

 同じクラスの…えぇと、確か宮沢…そう、宮沢絵衣莉。彼女が声を掛けてきた。

 「…まぁ、いろいろあってさ」

 適当に答えておく、彼女は関係ない、そこまで詳しく話す必要もないはず…。

 「…そういえば…さ、橘君、野球部入ったんだって?」

 だれから聞いたのか、彼女は俺が部活を始めた事を知っていた。

 「あぁ、まぁな…」

 「好きなの…」

 「…え?」

 聞き返すと、照れ笑いして言い直す。

 「…野球、好きなのかなぁって」

 「いや、別に好きって程じゃあないさ」

 「へぇー、アタシは好きだよ…」

 「野球が?」

 「…うん」

 そう言えば、宮沢はソフトボール部だっけ。

 「小さい頃は、アタシもやってたんだよ…」

 「へぇ…意外だな」

 「えへへ…呼び止めちゃって悪かったね…いってらっしゃいな」

 そう言うと、彼女は踵を返して、教室の外へと駆け出していった。

 「なんだったんだ?」

 義斗が言う。

 「…わからん」

 俺達は、部室へと向かう事にした。

 

 

 部室では、またも何か問題が起こっているようだ。

 その問題の中心には、昨日義斗を保健室へ連れて行ってくれた部員の姿があった。

 なにか言い争っているようだ…。

 てか、ふいに思ったが、この部活、しっかり活動しているのだろうか…。なんか、いつも問題を起こしているようにも思える。

 まぁ、まだ二日しか関わっていないからよくはわからんが…。

 「だからさ、なんでそんなにも、あいつらを嫌うんだよ」

 「そんなの関係ないだろ…だいたい、あいつらはムカつくんだよ…」

 「でもさ、そんなんだからって、初めから拒んだら、あいつらだって、その…何にもできないんじゃないかな…」

 言い合ってることは昨日と変わらない。

 俺達のことに関してだ。

 「あぁ、ちょっといい?」

 俺は、その間に割り込んだ。

 「なんだよお前…」

 「俺は、橘だ…知ってるだろ?」

 「っち…そう言う話じゃねーよ」

 相手の眼光は鋭く、今にでも殴りかかってきそうな、そんな勢いを感じさせる。

 「っは…俺達が参加する事がそんなに気に食わないんだな…」

 「あぁ…気に食わないさ…お前にはわかんねぇだろうけどよ。俺達だって真剣なんだよ…真剣にこのメンバーで上目指してんだ」

 「ちょっと」

 先程の部員がよくない空気を感じたのか、間に割って入ってくる。

 あたりを見ると、次第に部員の数が増えてきている。

 集まりだしたな。

 「お…なんだ?今日もまた揉めてんな」

 「お、面白そうじゃん」

 「っち…またあいつら来てやがんのかよ」

 いろいろな声が聞こえ始める。

 「…わるいが、今日は青鬼は来ないからな」

 そいつが言った。

 いまなんていった…青鬼…それは片桐の通りな…つまり片桐の事だろう。

 「今なんっつたよ…」

 「あ~?…青鬼は今日は助けには来てくれないんだって言ったんだよ」

 「…なにをした」

 「おい、厚志やめとけ」

 俺の言葉に怒気が篭っているいる事に気づいた義斗は俺を止める。

 我ごとながら安い挑発に乗ったと思う…しかし、気になってしう。

 片桐が来れない…なにかしらのトラップって事か…それとも何かしら用事でって事か…まぁいい。落ち着こう…。

 「わかった…お前らは俺達が気に食わない」

 「今更…わかりきった事だろ?」

 「おい…斉藤が来た」

 義斗の声にグラウンドを見ると、確かにこちらへ斉藤が向かってきていた。

 なんにも知らないような顔付きで、呑気に歩いていた。

 「あれ~…あいつ来たぞ…」

 部員達がヒソヒソと話し始めた。

 「…おい、本当にちゃんとやったのかよ」

 「…あぁ、ちゃんと念を入れて脅してやったさ」

 「…ほぅ…じゃあなにか…あいつはそんな脅し怖くもなんともありませぇーんって言う事か?」

 何を言っている…話している事は丸聞こえ。

 なるほど…こいつら、斉藤に何かしたんだな…。

 「義斗ッ!!」

 俺は叫んでいた…、義斗は俺が何をしたいのか瞬時に理解すると、斉藤の元へと走っていった。

 「なんだぁ逃げるのか?」

 義斗は反応しない…もともと奴はそういった安い挑発には乗らない…。

 いつも彼は止める方なんだ…。

 空を見る…晴天だった…。

 いっそここにいる奴らが消えてくれれば楽なんだろうな…そんな事を不意に思った。

 どうにでもなれと思った。

 「だれが逃げるって?」

 「…あぁ?」

 肩を捕まれた坊主頭の部員がこちらを振り向く。

 その振り向き際を狙ってその顔面に、拳をぶつける。

 衝撃を感じると、拳に熱を感じる。

 それを皮切りに、部員と俺の乱闘が始まった。

 坊主の部員は、立ち上がると、反撃とばかりに殴りかかってくる。

 「…こなくそッ」

 打ち出した拳を首でかわし、その拳を掴む。

 もう、彼には俺の攻撃をかわす事はできない。

 他の部員達は、様子を伺っている。

 「一気にかかってくればいいものを…」

 そう言いながら、掴んだ腕を半円を描き捻りあげる。

 苦痛から逃げるように相手は後ろを向き、もう完全にチェックメイトだ。

 「どうした…」

 もがけばもがくほどに腕に苦痛が走る。

 そう言う技だ…間接は完全に決まっている。

 「ほら」

 その限界の腕を更に捻る。

 相手からはギブだの何だのと言う戯言が聞こえる。

 後ろからの殺気を感じる。

 咄嗟にしゃがんでその拳をよける。

 先程言い争った奴か。

 「言ったよな…一気にかかって来いって」

 少し間合いを取り向き直る。

 「あぁ、言ったさ…」

 「だとよ…行くぜ…」

 部室から金属バットを持ち出した奴を見つける…その行為に激しく怒りを感じた。

 正々堂々…そんな言葉の欠片も持ち合わせない下衆…。

 「…下衆が…いいぜかかって来いよ……ほら…早く…死にてぇ奴からかかってこいッ!!」

 今の俺はどんな表情なんだろうか…彼らは若干怯んだように見える。

 久しぶりの喧嘩だ…。

 いつ以来だろうか…思い出している余裕はない。

 一人が突っ込んでくる。

 「うわぁぁぁ」

 切り込み隊長…か。

 体の一部を掴み、自由を利かせなくしてからの一斉攻撃。

 定石だ。

 一体多勢なら、だれかが枷になれば、その瞬間に勝負はつく。

 まぁ、そんな事はさせないがな。

 限界まで引き付け、寸前のとこで勢いよく蹴り上げてやる。

 前かがみに突っ込んできた奴の顔面にその蹴りは炸裂、一瞬で崩れ落ちた。

 「うんで…次は…」

 だれもかかって来ない…いや、さっきのバットを持った奴がいない…後ろに回りこんだのか。

 「…死ねや…」

 どうでもいいが…なんなんだろうか、この不良の喧嘩を思わせるようなこいつらの行動は…こいつら本当に野球部なんだろうか…。

 なんて思いながらも、後ろからの攻撃を前へステップしてかわす。

 間一髪だった。

 掛け声を掛けてくれなかったら気づかなかった。

 「馬鹿」

 リーチの差がある…しかし、振ったバットの軌道はかえれない。

 なら攻略は簡単だ。

 バットの軌道のぎりぎりまで近寄る。

 簡単だ…あとはバットをよければいいだけ…。

 相手が攻撃の態勢に入った。

 いまだッ!!

 俺はそれを避けようとした…。しかし体が動かない。背面には先程倒したはずの奴がくっついている。

 やばい…。

 そう思うのと同時だろうか。

 激しい衝撃を頭部に受けた。

 意識が遠くなる。

 クリティカルヒット…そんな単語が浮かんだ…。



 

 夢を見ていた。

 ここはどこだ…。

 見覚えのある教室…。

 一年の教室だ…。

 義斗と始めてあった場所。

 はじめ彼は冷徹な表情をしていた。

 何者も近づけないそんな雰囲気をもっていた。

 彼が話し掻けてくる。

 「橘…橘厚志だな…」

 「それが?」

 最初に交わした言葉はそれだった。

 それからなにかがあった。

 それがなんであったのかは思い出せない。

 

 場面が変わって、校舎裏…、裏庭か…俺と義斗が互いに睨み合い対峙している。

 どっちが勝ったんだっけ…よく覚えてない。

 さらに場面は変わる。

 そこにはいつもの寮の風景が。

 「今日からお前と同部屋だからな」

 義斗はそう言っていた。

 あぁ、思い出した、この件があってから俺達は一緒に行動するようになったんだ。

 なにがあったかは思い出せないけど…。

 遠くから声が聞こえる。 

 女性の声か…。

 だれだろう…、聞き覚えのある声。

 

 「…いつまで寝ているんだ…まったく」

 目を覚ますと、見覚えのある顔が目の前に飛び込んだ…。

 ………。

 ……。

 …。

 「って、片桐!?」

 俺は飛び起きようとするが、頭痛が走りうまく動けない。

 「よせ、直ぐには動けない」

 彼女はそのままの姿勢でやさしく言う。

 「…にしても、初めてやってみたが、膝枕というものは意外に痺れるんだな」

 「膝枕!?」

 今の状況がなんとなくつかめてきた。

 確かに、後頭部にあたる感触は柔らかく暖かい。

 あぁ…そうか。急に顔に熱が走る。

 「なんだ…恥ずかしいのか?」

 多分顔が赤くなっているのだろう…彼女はうれしそうに微笑んでみせた。

 「しかし、また喧嘩とはな…」

 また今日も彼女が助けてくれたのだろうか…。

 しかし、彼女は続ける。

 「私がもしもあの場に出くわしたのだったら、死者が出ていたところだ…気をつけてもらいたい」

 その口ぶりからすると、片桐ではない別の人が事を鎮圧したらいい。

 一瞬義斗の顔が浮かんだが…きっと彼なら、斉藤を連れてどこかへ逃げてくれただろう。

 意外にあいつはそう言うところ敏感だからな。

 「まぁ。今度イリアに会ったらお礼を言っておくといい」

 イリア…顔は思い出せないが、名前だけなら思い出せる。

 「三神か…」

 「あぁ…丁度見かけたらしい」

 「…そろそろ時間だ」

 茜色の夕日を受ける彼女の顔は悠然としていて、どこか神秘的にも見えた。

 「起きれるか?」

 心配そうに聞いてくる。

 頭痛はまだガンガンと襲ってくるが、あんまり格好悪いところは見せたくない。

 やせ我慢だ。

 俺は立ち上がると、大丈夫と、一言言う。

 「そうか…今日は風呂は軽くシャワーにだけしとくといい、頭部への衝撃はなにが起こるかわからないからな…ちゃんと病院にもいくんだぞ」

 そう言うと、彼女も立ち上がる。

 「あぁ、悪いな」

 なにと言って彼女は手をひらひらと振ると、寮へと向かっていった。

 「……どは、……いる時に」

 ぼそりと呟く彼女の言葉はしっかりと聞き取れなかったが。俺は、もう一度、ありがとうと言うと、その場に残った。

 あたりはもう夕暮れ時で、グラウンドももう暗くなっている。

 明日から部活はどうしようか…。

 悩んでも始まらない。

 俺は、寮へ戻る事にした。

 

 

 寮に戻ると義斗が心配そうに近寄ってくる。

 「大丈夫か、厚志、片桐からいろいろ聞いたぜ」

 「あぁ、一応な…、斉藤は?」

 「…大丈夫だ…なんにも見てない」

 「そうか…よかった…」

 ほっとする。

 なんか、安心したら眠くなったな。

 「わるい…もう今日は寝るよ…」

 「あぁ…体気を付けろよ…頭は怖いからな」

 まったくだ…明日は病院へ一応行っておこうか…片桐にもそう言われたばっかりだしな。

 部屋へ戻ると、ベットに入る。

 今日は、酷く疲れた。

 すぐに睡魔が襲ってきて、気づくと夢を見ていた。

なんか…ゆっくりしすぎなきが…いやしかし、あまりにも展開を早めすぎると…難しい…、あぁ、むずかしい

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