右や左の国士様 victim 集②
『趣味としての超科学 #1』
「パパは外交官。ママはフランス人」
小生が小学校を卒業する頃まで使うことの出来た魔法の呪文である。
ちなみに『小生』という一人称は立場が上の者が下の者と接する時に使うものなので、小生が『小生』と称することを不快に感じる方もおられるやも知れぬが、この呼称は小生にとって譲れぬ一線であるので御寛恕いただきたい。
さて、魔法の呪文の話に戻るが、効果があったのは小学生までであった。
小生は惨めだった。
世間一般的には父と呼ぶべき存在はアルコール依存症で、働かず、借金ばかり作り、暴力を振るう生き物であった。
母と呼ぶべき存在は、苦しい生活の反動からカルト教団に洗脳され、私を見捨てて帰って来なくなった生き物であった。
小生は何時も薄汚れて穴だらけの服を着て、給食費を払っていないのにお代わりをする飢えた子どもだった。
だから空想の世界に縋った。
これは何かの手違いで、本当の父と母が取り違えに気が付いて迎えに来てくれるのだから、あともう少しの辛抱だと自分に言い聞かせていたのだ。
しかし、魔法の呪文の効果は次第に薄れていった。
いつまで待っても『本当のパパとママ』は迎えに来なかったし、成長と共に小生の容姿は父や母と呼ばれる生き物との遺伝的な繋がりを強く主張するようになって来たからである。
そして、拠り所を失いつつある小生は出遭った。
資源物回収の日にゴミ捨て場に一括りにして置かれていた「月刊 アトランティス」である。
「ピラミッドはUFOのガソリンスタンド!?」、「ナスカの地上絵はUFOの交通標識!?」
表紙を飾る惹句に可能性を感じた小生は悪い行いであるとは知りつつも、持ち帰り、読み込んだ結果、新しい魔法の呪文を編み出すことに成功した。
「小生は太古の昔に滅んだ超科学技術を操る古代人の末裔、若しくは母星が消滅したために地球に移住して人類と同化した異星人の末裔であり、祖先が残した遺跡を訪れたならば、その遺産の正当な承継者であると認められて、秘匿されていた星の海を渡る船に乗り、無限の宇宙へ冒険の旅に出るのだ」である。
長いし、人前では唱えることの出来ぬ呪文であるが、大人になった今でも小生の荒んだ心を癒す力を持っている。
ただ待つのではなく、行動した先に待つファンタジーであるから長持ちする。
休日には単車に乗って出かけ、遺跡や遺構、古墳などと呼ばれる場所を訪れて明日の英気を養うのである。
名前 井跡 亜瑠巳
年齢 38
特技
現実逃避
悔しいこと、悲しいこと、情けないことがあっても『魔法の呪文』を唱えることで精神の安定を取り戻すことが出来る。
境遇
彼が少年時代を過ごした地区は、似たり寄ったりの生活水準を過ごす人々が暮らす街で、でも進む道は様々でした。
ある幼馴染は石油化学製品を扱う商社の倉庫からトルエンを盗みだして、お巡りさんに保護された時には前歯が溶けて無くなっていました。何度も保護されて、顔を合わせる機会が減って、今は何処に居るのかも分かりません。
ある幼馴染は仕事を幾つも掛け持ちして弟妹達を進学させ、大人になった弟妹達の持ち込む恩返しや縁談の話を断って、今は気ままに独り暮らしをしています。
自分の欲望に正直に生きることも、世間から立派だと称賛される生き方も、どちらも自分には出来そうにないと思った彼には、やはり魔法の呪文が必要なのです。
特記 地球は既に宇宙人によって支配されています。世界を牛耳る秘密政府の発信する電磁波により私達の思考はコントロールされているのです。さあ、今すぐアルミホイルで作ったヘルメットを装着してください。電磁波が遮断され、あなたは『真実』に気づくでしょう。
1D1~2 趣味としての超科学 #2 へ物語は続く
1D3~4 趣味としての超科学 #3 へ物語は続く
1D5~6 趣味としての超科学 #4 へ物語は続く
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『趣味としての超科学 #2』
小生は驚いた。
世界は広い。
小生は『かなりの使い手』であると自負していたが、上級者が居た。
今日、訪れた遺構は用途不明のトンネルだった。
もう住む人も居なくなった集落跡で、朽ちて倒れている説明書きが哀愁を誘う。
地元自治体の重要文化財に指定されてはいるものの、管理する人も予算も足りていないようだ。
自然に飲み込まれてしまった、元は段々畑であったと思われる石垣の中央に入り口のある隧道を20mばかり這って進むと突き当りに深さ2mほどの縦穴があって、よじ登れば脱け出すことができると書いてある。奈良時代に掘られたもので、宗教的な儀式に使われていたのではないかと推測しているらしい。
興味深い遺構ではあるが、驚いたのは、そこではない。
隧道の入り口横の岩に中学生ぐらいの女の子が腰掛けていた。
アルミホイルで作ったヘルメットのような物を被っている。
小生は趣味として『魔法の呪文』を唱えるが、この女の子の本気度は達人の域だ。
小生は、すぐに立ち去るべきだと考えた。
このような、ひと気の無い場所で小生が少女に声を掛ければ通報案件となる。
それでも足が動かなかった。
この境地に至るまで『魔法の呪文』を唱え続けなくてはならなかった彼女の『現実』を想像してしまったからである。
小生の魔法言語が、どこまで通用するかは分からぬが、この女の子と向き合いたいと思った。
「小生はアルミ28世である。貴公は、この遺構の守り人であるかな?」
「……うん」
「残念ながら、この遺構は小生の祖先が残したものではないようだ。しかし、案ずることはない。貴公の主筋の末裔殿も小生のように全国の遺構を探訪しているであろうから、そう遠くない内に此処に訪れ、貴公を連れて大宇宙へと飛び立つであろう」
「……うん」
「さて、小生は祖先の遺構を探す旅に戻らなくてはならぬのだが、ここで巡り合ったのも何かの縁。貴公は何か困りごとがあるのではないかね? 星の海を渡る船も、不老不死の秘薬も失くして久しいが、世知には長けておる。小生の力の及ぶ範囲で、現実的な相談とか支援とか社会保障の範疇で力になれると思うのだが?」
「……乗ってみたい」
「……済まぬが小生は、この遺構の正当な承継者ではないからにして、遺構の地下に眠る宙船を起動させることは出来ぬのだ。気が進まぬかも知れぬが、まずは担任の先生に相談するとか、その辺りから、どうであろうか?」
「……オジサンのバイク、乗ってみたい」
名前 井跡 亜瑠巳
年齢 39
特技
魔法言語
悔しいこと、悲しいこと、情けないことがあった時に唱えていた『魔法の呪文』は『魔法言語』に昇華した。ファンタジーを祖先とする種族と意思疎通が出来る。
境遇
彼は単車に乗る時、大抵はフルフェイスのヘルメットを被っていますが、たまに風を感じたくなる時があるのでパニアに予備のジェットヘルメットを積んでいます。
一度もそんなことは無かったのだけれど、いつか女の子を後ろに乗せて走ることがあるかもしれないと夢見て、タンデムシートにはグラブバーと一体型のバックレストを取り付けています。
彼のファンタジーが現実に?
いえ、ローティーンの女の子と二人乗りしている姿を誰かに咎められたら大変だと、ただひたすらに恐怖しています。
特記 アルミホイルのヘルメットを脱いで、JIS規格に適合するヘルメットを被れば、現実と向き合うことになるのです。
1D1~3 趣味としての超科学 #5 へ物語は続く
1D4~6 趣味としての超科学 #6 へ物語は続く
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『趣味としての超科学 #6』
単車に乗っていて、こんな気持ちになったのは初めてだった。
目的地が決まっていることもあるが、決まっていなくてもいい。
何処かに辿り着くのではなく、何処かに向かっているのが良いんだ。
今日の目的地はツマラナイ。
後ろに女の子を乗せて走ったことは、一生忘れない記憶になるだろうけれど、彼女を目的地に連れていって、それがハッピーなことかは分からない。
国や県の出先機関が雑居している合同庁舎という目的地に着いて、彼女の相談に乗ってくれる誰かを見つけるまで付き合って、それで、もう出来ることは無くなった。
「ヘルメット、交換してくれないかな」
別れ際、黙って彼女は俯いている。
「そのヘルメットは邪魔なら捨ててしまって構わない。このアルミのヘルメットと一緒に走りたいんだ」
サインペンを借りて、ジェットヘルメットに名前と住所を書いて渡した。
「何時まで、そこに居るかは分からないけど、何か伝えたい事が出来たら手紙で教えて欲しい。電話は苦手なんだ。上手く喋れないから」
きっと、手紙は来ない。
でも、手紙を書ける相手が一人でも居ることが、彼女に必要なことじゃないかと思った。
これが最初で最後の本気の魔法言語。
帰り道、荒れていた。
先の見えないブラインドコーナー。
ブリッピング。
危ないなと他人事みたいに思った。
いつもはしない乗り方をしている。
真っすぐな道を低速で、単気筒のトルクを感じながら走るのが好きなのに。
9000回転まで回して、やっと19馬力。
それでも性能を十分に引き出した走りなんてしたことがない。
怖いし、下手くそだから。
回転数と速度を合わせられなくて後輪の急制動が起きてコケてしまうから、やらないのに、またブリッピング。
コーナーでステップを擦るぐらい傾けたことなんてない。
立ち上がりでアクセルを開けたことなんてない。
そういうのは、サーキットで上手い人がやるものだと思ってる。
でも、今日は、やろうとしてる。
ラインどりなんて考えたこともないのに。
自分がしていい限界を超えそうになっている。
いつまで経っても減らないブレーキパッドを見て、バイク屋の親爺が、どんな乗り方してんの? って笑ってたのに。
精一杯の減速と急加速。
肩の力を抜けって、エンジンが唸ってる。
舵角は任せろって、ハンドルが振動してる。
何処にも行くな、何処かに行けってマフラーが泣いている。
名前 井跡 亜瑠巳
年齢 39
特技
独り言
悔しいこと、悲しいこと、情けないことがあった時に唱えていた『魔法言語』は『排気音』に変わりました。『エンジンの鼓動が俺を慰めてくれる』とか『エキゾーストノートが俺を呼んでいる』とか、周りに誰も居ないことを何度も確認した上で、小さく呟きます。
境遇
魔法言語は話せなくなったけれど、休日のパワースポット巡りは続けています。もしかしたら彼女の待ち人に出くわすかもしれないから。出会えたら、彼女は立派にお前のことを待っていたぞと伝えないといけないから。
特記 彼女が脱いだアルミホイルのヘルメットは彼の単車のパニアに収納されています。彼は交換したジェットヘルメットが彼女に風を感じさせてくれることを願っています。
趣味としての超科学 Fin
名作を生み出す人って人格破綻者が多いし、酒と薬が手放せなくなったゴミカスの自分なら、何か書けるかもと思って挑戦してみたのですけれど、書き終わってから時間を置いて読み返したら、糞ツマラナくて驚きました。
体調の良い時に少しずつ本編の2周目を書いていこうと思っていましたが、うっかりクリックしてしまった方の時間の無駄になるだけなので自重します。
やっぱり、書くよりも読む方がいいなあと思いました。
あと、アクセス解析を見てビビったのですけれど、深夜早朝に読んでくださる方が、とても多いのですね。
たまたま、そういう生活リズムっていうだけなら良いのですけど、そうでなくて、何か苦しんでいらっしゃるのだったら心配です。
皆さんが元気で笑顔になれるような、チートで最強でなーんにも考えずに気持ちよくなれる御話を書けたらいいのになと思いました。
御静聴、ありがとうございました。




