第九夜 憤怒の世界レイスフィア
スロースターターにもほどがある主人公ですがようやく怒り大爆発の八面六臂を書けて嬉しい作者でした。
「――ッ姫様」
しばらく自棄になっていたリーシャを看ながら護衛たちは周囲を警戒していた。
「警戒の網を破られたようです・・・ざっと三十騎はいます」
「・・・そう。どうやらそいつらがあの砲撃の犯人ね」
機械人形がリーシャの呟きを合図にしたかのように姿を現した。
機械人形――機械仕掛けの殺戮兵器で、魔術回路と自治領の誇る現代科学の融合で生まれた自律型のゴーレムともいわれる。稼働限界は命令術式の達成を基準とする画期的なシステム。時間拘束を取り払うことで大幅なコストダウンにつながったといえる。数で劣る自治領の武力の一つといえる。魔法を無力化する装甲を持ち、物理攻撃も中世レベルの兵器では通らない。
状況はリーシャ達にとって、絶望的と言えた。
打開策の見つからないまま、オート・マタ達の包囲が狭まっていく。
―ソグド皇国第三十八皇女リーシャ・ユル・ソグディア確認――
――命令履行開始――
――――ドンッ―――――――――――――――――――――――――
赤黒い光線はリーシャと護衛たちの間を抜けて森を破壊した。
「――はずした?」
『馬鹿を言わないで下さいよ・・・くくく・・・少し狩りのお楽しみを味あわせてもらうだけです』
「!?」
「・・・自治領ね、こいつらを操ってるのは―――さっきのもあなたたちでしょう?」
『―――御明察、御明察。まあそれくらい誰でもわかりますよねぇ・・・くくく』
「こんなことをしでかしてっ貴様らぁあああ!!均衡を崩す気か!!欲得に惚けた愚か者が――――――ッガァ」
啖呵にかぶせるように、肩を機械人形が撃ち抜く。
「アルフっ」
「っく」
『はははははははははぁ!!あなたがた野蛮人に負けるわけがないでしょう?この長きにわたる均衡は我々自治領が許してやった仮初の主権ですよ?思いあがるのもいい加減にしていただきたいですねえ!!下等動物どもがっ』
―――バスっ――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――ッドン―――――――――
かすめるように穿たれる光線をリーシャ達は避け続ける。風の精霊はいまだにリーシャに力を貸そうとはしない。
――――――――ドォオオオン――――――――――――――――――――――――――
ギャァウオオオォンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンン!!!
一頭の翼竜についに魔光が突き刺さる。
苦悶の叫びをあげてワイバーンは倒れ伏した。
『おやおや、もう終わりですか。もっと楽しめると思ったので』
――――――――黙れ、蛆虫が――――――――――――
思念の塊がその場でハウリングする。オート・マタもリーシャ達も全員が動きを止めた。
イシュトを駆るマドカの姿があった。
「随分好き勝手してくれたようだね――――これが僕の同胞の所業と思うと吐き気がするよ人形どもが」
マドカの周囲を黒い気体とも液体ともつかぬモノが満たしていく。その闇の広がりと共に異常なほどの圧力が周囲に叩きつけられる。
魔王の様な威圧。
覇王の様な気迫。
闇はオートマタを包み隠し、圧壊させる。
「―――――ッチッ!魔力回路<パス>が切れてる、逆探知できないようにしたな。さすがにそこまで馬鹿じゃないか・・・」
舌打ちすると、先ほどまでの威圧を嘘のようにかき消してリーシャ達に駆け寄る。
「リーシャ。怪我ない?大丈夫?平気?」
「え――ええ。それよりあなたたちは平気なの!?直撃だったじゃない」
「この通りだよ――でも、よかった・・・。リーシャが無事で・・・ほん・・・と・・・よかった、うぁああああ」
ぼろぼろと泣き出すマドカ。
リーシャに駆け寄りながら躓いて女の子座りになりながら。
泣き疲れてブレーカーが落ちるようにパタリと意識を失う。
「――本当にあなたって子は・・・どうしてこんな」
膝枕をしながらマドカの頬を伝う涙を拭う。
「でもさっきの力・・・この数時間でマドカに何があったというの―――」
名前が片方出てきた護衛さんアルフさんと翼竜の一頭は手当てを受けていません。放置プレイです。
あと、主人公がチートのように映るかもしれませんが能力についてはおいおい明らかになります。
主人公がようやくヒーローっぽくなりました。ここまで長かった(ふぅ