第七夜 激動の世界レイスフィア
一章の始まりです。勢力はいっぱいいるとどうしても文章量が増えていくなあ。
「そうですか・・・それで、カードは今どこに?」
「いまは皇都へ高速移動中とのことです・・・おそらく熱源と速度からワイバーンかと思われます」
自治領の首脳陣は仄暗い室内で密談を交わす。
部屋の中には三人の男がいた。
眼鏡を掛けた白衣の長身痩躯の男。
小太りの三つ揃いのスーツの男。
中肉中背の灰色の背広の男。
この三人が自治領の最高権力者だった。
問いの答えを得て満足そうに頷いた中肉中背の男は朗々と語り始める。
「不可侵条約は我々の技術力があちら(皇国と帝国)の数の脅威を振り払えるからこそ、実効性があるのです。今、侵攻事由を渡したとてしかし、この自治領は揺るぎません。それよりも、この事態は我々に明らかに利するものですよ。永い間、三竦みだったこのレイスフィアの天秤が、ここにきてようやく軋みを見せ始めました。その鍵が≪客人≫、我々の懐かしき地球の人間だというのですから―――――これほど愉快なこともありますまい―――っふぅっくくくくはっ―――あはははははははぁ」
ひとしきり哂うと、歪んだ笑みを更に歪ませて、血走った眼で叫ぶ。
「愉しもうではありませんか・・・力を蓄え、雌伏を続けた日々に別れをっ、旧時代的な野蛮な異世界人どもにこのレイスフィアを牛耳らせる時代は、もう終わりです!!そう・・・まさに旧時代の終わりを、レイスフィアの幼年期を我々が終わらせるのですよっ!!科学の灯でっ」
残り二人の男達は追従するかのように愉快そうに、心底嬉しそうに嗤い始めた。
暗い会議室に三重の高笑いは不気味に響いた。
うっひょおおおぉ!きもっちぇええええええええええええええ!!
ワイバーンを駆るマドカ一行。
不思議なことに一行の中で一番翼竜を上手く扱えているのは、一番経験の浅いマドカだった。
≪マドカ殿には恐怖心の欠片もないな・・・≫
呆れたような思念波がマドカにのみ届く。
マドカの乗っている翼竜はイシュトヴァンという名前らしい。ここ数時間でイシュトと呼ぶほどに仲が良くなっていた。
しかしエルフって動物とか幻獣とか妖精とか精霊とかと意思疎通できるってイメージだけどな・・・。
リーシャはイシュトたちの<声>が聴こえない。
≪リーシャ殿は・・・今精霊たちの声もあまり聴こえなくなってきているのだよ・・・≫
ほかの三頭も首肯の思念をマドカに送る。
≪ココロの安寧がなければ我々の声は正しく届かないのだ≫
(やっぱ、ソグド皇・・・お父さんだろうね)
≪・・・それだけとは限らぬがな≫
「不思議な御子ですね。騎竜と長年通じ合っている歴戦の竜騎士のようだ」
「真に」
「そうね・・・時々ひどく頼りになる表情とか雰囲気を醸すのよ・・・ずるい子だわ」
後半は小声で護衛たちには聞き取れない。
皇都ザナルカンドへは騎竜を飛ばして丸三日といった距離だ。
そろそろ、日も陰る頃合いである。一行は高度と速度を落とした。真下に広がる森林地帯へと着陸する予定だった。
――――――――――ドンッ―――――――
つんざくような轟音とともに多少先行していたマドカとイシュトヴァンを砲撃が直撃した。
「マドカッ」
「なっ――」
「いったい何処からっ」
四方に砲手の影も姿も見えない。
それ以前に、リーシャは弾丸ではなく赤黒い光線なぞを発する兵器はレイスフィアに存在すると聞いたこともなかった。精霊王と契約していた古のエルフならいざ知らず、ワイバーン種を一撃で墜とすなど現代の魔法遣いには不可能だ。少なくともリーシャにその術はない。
(どうなってるのっどうしてマドカがっどうすればいいの――精霊さん達、マドカを助けてっ)
いつもは見える精霊達が見えない。いつも聞こえる鈴の音の様な声も聞こえない。
―――奇跡が起きない。
みるみる白煙と赤い血しぶきを噴きながら翼竜は地面へと堕ちていく。
ここでなんとかしないと、二人が死ぬっ―――
出てよっ―――
ここで使えなきゃ何のための魔法なの―――
ハーフエルフである意味がないじゃない―――
焦るほどに精霊の気配を見失う。護衛達は我を失った主人を諌めるのを諦め、ワイバーンを駆って三頭の高度を下げさせた。
「姫殿下!!御気を確かに」
「落ち着かれなければ、マドカ様を御救いすることすらかないませぬぞ!!!」
「分かってるっ!!だけど、だけどマドカがっ――死んじゃうっ」
護衛の1人はリーシャの背後に飛び移ると、手刀でリーシャの意識を刈り取った。
「――無礼を承知でっ!今は非常事態故、御容赦を」
そのままリーシャの騎竜を駆って森の中に着陸する。もう一人の護衛は残りの翼竜とともに続いた。
≪グアァァアァァァアアアア≫
「おいっ!!イシュトッ!!大丈夫か!!気をしっかり持てっ」
≪――マドカ!!ッグッ・・・主も味わってみてから言うのだな!この砲撃格別な痛みだぞ≫
「ひ・・・人が心配してやってるのになんちゅー憎まれ口をッ」
いずれにしろ森の中に着陸しても・・・この状況だと墜落か・・・。
しかし一介の小学生で、なんの特殊な技能を持ち合わせたわけでもなく、この状況で何かできることって―――――――ん?特殊技能?
今、この瞬間、僕は動物と軽快なコミュニケーションを交わしてないか?それにリーシャにもらった指輪―――。
「―――――っ、一か八かだ、風の精霊!!今この場にいるなら僕に応えろ!!!奇跡を起こして見せろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
しーんっ。
(デスヨネー)
「やっぱりダメかあああああああぁぁっぁぁぁああああああ!!!!!」
≪叫ぶな!!傷に触るううううううううううう≫
緑の森へと一人と一頭は吸い込まれていった。
主人公は今のところワイバーンと会話できる以外に能力は持ち合わせておりません。タイトルの意味が通じるまであともう少しなので、カッコイイ主人公のターンを乞うご期待!!
そうそう!お気に入り登録が三件に増えました―!!
まだ少ない話数でこんなに気に入っていただけて感謝しております。
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これからも宜しくお願いします。