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第六夜 別離の世界レイスフィア

今回は少し前五話と雰囲気を変えました。序章の終わりにふさわしい語りになっていると嬉しいですね。第5夜で言ってた試練はこれからになります。第7夜以降をお待ちください。

それでは第六夜の帳を開きましょう――――――

―――早朝、皇国の辺境イスファーンはリーシャ邸の一室。


「執事長!その話は本当なの?」リーシャが顔色を変えた。

「こんなことでぇえ嘘をぉ申し上げても私めぇに益などありえませぬぅ」

執事長の顔色もすぐれない。

 先日の帝都スイルベーンからの生還劇についての報告を皇都ザナルカンド側が要求してきたのだ。それだけならばマドカのことをぼかすこともできたのだが、協力者の素性までも要求に入っており、逃げ場はなかった。


「・・・そう・・・ですね」


父がここまで早く動いてくるとは予想できなかった。――――――いや予見できたはずなのに。マドカと過ごす時間が自分の危機意識を麻痺させていたのかもしれない。一週間に満たないとはいえ、初めての対等な友人だったのだ。憩いの時間が思いのほか自分の心を解きほぐしてくれたのかもしれない。

「姫様・・・」

ライカも不安げにリーシャを窺う。肩を震わせてうつむく長身の美姫の表情は見えない。きっと理不尽さに涙を浮かべているのだろう―――


「ひめさ・・・」


「くくく・・・あーっははははははははははははあぁあああああ」


幽鬼のような表情でクツクツと哂う皇女。


(い・・・いつものひめさまじゃないっ!?誰かどうにかしてー)


「絶対に手放さないわ。私の初めての友達なのよ?一つぐらい私の本当に望むものが手に入ってもいいでしょう?ねぇ?ライカ。そうは思わなくて?」


がっしりと両肩をつかまれ揺さぶられる赤毛メイド。


「ひゃいそうおもいみゃふえぇえええ」


(うそっ!?外れないっ!姫様こんなに力もちさんでしたっけぇええぇぇぇぇぇぇ)


「父上・・・いえ、皇王ムジカ・エル・ソグディア・・・覚悟しなさい。もともとあなた気に食わなかったのよ」


使用人たちは、皇女殿下の怒気に呼応するかのように騒ぐ風の精霊に慄いたという。








「いいよ~。証言すればいいんでしょう?都見物できるの~?」


「ええ。ですけど・・・お気を付けくださいね・・・ソグド皇は野心的なお方ですから」


こんなことが皇王陛下のお耳に入ったら私は打ち首ですけどねーと気弱に笑うライカさん。


「それに、姫様のご機嫌も芳しくないんです・・・」


「確かにねー。横暴な親御さんだよね・・・どうも話を聞く限りじゃ、帝都の祝賀パーティにリーシャを行かせた件だって、安否を気遣った節がないものね。そりゃ荒れるよ」


そう言ってうんうんと頷くマドカ様。あああああもうっ違いますよ~。姫様は御父上があなたを政治の道具にしようとしたことで逆鱗を・・・本当の逆鱗を逆立ててしまったのですから――――――


「大丈夫だよ―――ライカさん。リーシャのこと好きだからさ、守りきって見せる」


自分のこともね?と不敵に笑う少年。そう、悪戯っ子のようにあどけなく大胆に。だけれどそこには言い知れぬ威圧感があった。


リーシャってね、向こうに居る―――たった一人の家族に、叔母さんに似てるんだ。外見じゃなくて雰囲気がね・・・。初めて会った時、この世界に突然来て訳わかんなくて、頭からっぽでさぁ、でもリーシャがいたから間違えずに済んだんだ。

だから、どんなことがあっても離れないし守って見せるよ―――

そう言って拳を前に出す。


「ライカさんも拳をつくって前に出して―――そう」


そして、少年は突き出した右の拳を赤毛の小柄なメイドの右拳に軽くぶつける。


「仲間内での約束の印なんだ。こうして誓ったことは絶対守る決まりなんだ。」


だから嘘偽りなく守るよと少年は言う。


「・・・分かりました。お嬢様を、リーシャ様をマドカ様・・・いえマドカ殿にお任せします。それから・・・言うまでもありませんが、御一緒にお戻りになってくださいね」


凛々しいライカさんってきれいで格好いいよと円は微笑う。

いつもきれいで格好いいでしょう、と澄まして胸を張るライカは、やっぱりいつもの背が低い子犬のようなライカで。

二人はこらえきれずに噴き出す。



不安を蹴飛ばすように―――――――





「皇都にはこのコ達で行くのよー」


出立の日、厩かと思っていた場所にはつぶらなお目目のサラブレッドさん達は居らず、翼竜達ワイバーンが佇んでいた。見知らぬマドカに興味を惹かれたのか、どうやら繋がれていないワイバーン達はマドカを取り囲む。


るぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおぉおぉおおおおおおおおおンッッ!!

ぐるああぁあっ!

ぎゃるぅううっ!!!!!


 マドカを見定めるように視線を外さず6メートルほどの体躯で威圧するワイバーン達。

マドカは物おじせず見返す。もともと指輪物語やパーンの竜騎士シリーズにはまるなど、小学生にしてはディープにファンタジーの世界に漬かっていた。ファンタジーが目の前で息づいているのだ。目をそらす理由がない。熱のこもった眼でワイバーン達を見つめ返す。

自然と口が開いた。


「リーシャ様に拾われた異界の民草です。本来ならあなた方の背に乗る栄誉など持ち合わせぬ身ですが、奇縁も縁の内と申します。今日は皇都までの道中宜しくお願い致します」


≪いと小さき人の子よ!!その小気味よいあいさつ気にいったっ!≫

≪リーシャ様のことは宜しく頼むぞ!少年よ!≫

≪お主には不思議な品格を感ずる・・・道中のことは引き受けよう!皇都は魔窟。ゆめゆめ油断めさるなよッ≫

頭蓋に直接、言葉が響く。マドカは美しく力強い意思が自分に満ちるのを感じる。


「この子たちは話さないけれど、丁寧なあいさつだと思うわ。ありがとう、マドカ」


翼竜たちは茶目っ気たっぷりにウインクをした。

―――内緒ってことね、分かったよ


「いきなり意気投合したの?すごいわね。普通は私の言うことしかほとんど聞かないのよー?このコ達」ライカなんて蛇に睨まれた蛙のようになっちゃうんだから、というリーシャ。

「あんまりヒトには好かれないんだけどねー」


二人は談笑しながら、乗騎服を纏う。フライトジャケットに似た上着に耳垂れ付き帽子に風防ゴーグル、カーゴパンツ、革のブーツ。

屋敷の前の広い草原に屋敷中の使用人たちが並ぶ。ライカと、執事長の姿もある。


「「行ってきます」」

「姫様を宜しくお願いします」

「・・・御無事で」


翼竜の羽ばたきで気流が生まれ、緑のざわめく中、主従は一旦の別離の挨拶を交わす。




護衛二人を引き連れて四騎のワイバーンは飛び立った。

目指すは皇都ザナルカンド、権謀術数の魔都。






メイドさんはメインヒロインじゃありませんし、マドカとメイドさんのフラグではないんです、ええ。二人はリーシャ大好き同盟の同志といった仲になっていきます。ハーレムフラグを期待した方!残念ながらマドカを軸にする気はないです。ごめんね。

あと、遅ればせながら、お気に入り登録が二件ですと!!ありがとうございます。感想も励みになりました。これからもモリモリ書きます。宜しくお願いします(ぺこり

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