第三夜 邂逅の世界レイスフィア
一話一話の分量バラバラですすいません。
リーシャside>
見知らぬ少女の足はすごく速かった。リーシャの二回りは小さいその少女は、彼女の顔面飛び膝蹴りをもろに受けながらもすぐに立ち上がって、枕と騒音をたてる見知らぬ器械を兵士に投げつけ、彼女の手を引いて走り出したのだ。少女がカスティール軍の兵士に向けてはなった言葉は彼女の知らない言葉だった。飛ぶような速度で森を抜けてしまった少女とリーシャはしばらく息を整えていたが、先に少女から話しかけてきた。
「――――――」
苦笑しながらリーシャは少女の耳に風の加護を掛けた。少女は精霊の加護を見て驚いたようにわたわたとしている。動きが山リスのようで愛らしい。
「私の言葉がわかる?」
またまた驚いたようで今度は自分の耳たぶを引っ張っている。あわてたように頷いている。勢いよく何度も首を振るものだから細い首がもげないか心配になってしまう。
「あなたの耳に風の加護を掛けたの。言葉の壁を取り払ってくれるけど、あなたの言葉は私にはわからないままなの。この指輪を填めて。そうすればあなたの言葉が私にわかりますし、私の言葉もあなたに通じますから」
そっと安心させるように微笑みながら少女の小さい掌を握って指輪を親指にはめてやる。リーシャ用の指輪は少女の指には大きかったようだ。不思議そうに指輪を見つめながら、
「えと、通じてますか」
鈴のような透明感のある声で問いかけてきた。上目遣いでおずおずと指輪に向かって話している。
可愛すぎるっ―――――おっといけない。
「ええ。別に指輪に向けて話さなくても大丈夫よ。っと、まずはお礼とお詫びを申し上げなくてはいけませんね。助けてくれてありがとうございました。それから、膝蹴りは他意はなかったんですよ?ほんとうにごめんなさい。あとで手当てしますね。私はリーシャ・ユル・ソグディアと申します」
「市川円…です。あの別に大したことじゃないから気にしないでください。怪我もないです」
一気に言って少女は俯いてしまう。つややかな黒髪は前と横は長く後ろをうなじ辺りまで刈ってあり、細い首が見える。伏し目がちな瞳は漆黒で睫毛は細く長い。薄く土埃のついた寝巻の様なものを纏って素足だ。ほんの八、九歳にみえる。
「イチカワマドカ?珍しい名前ね?」小首をかしげながら問うリーシャ。
「あ!えと姓がイチカワでマドカが名前なんだ・・・です」
両手を目の前でぶんぶんと振りながら目の前の少女―――マドカが答える。
「無理にかしこまらなくてもいいのよ、マドカ。私のこともリーシャって呼んで。あなたこの近くの子ではないでしょう?どこから来たの?」
口ごもって遠い眼をするマドカ。聞いてはいけないことを聞いてしまったのかしら……。
「信じられないかもしれないけど……自分の部屋で寝て目が覚めたら寝たときの恰好のままあそこにいたんだ」
「それで月が二つもあるのを見たから、ここは元のとこと違う世界なのかなって思うんだけど」
「こ・・・言葉も通じなかったでしょう?髪の毛の色とか眼の色とか肌の色全然違うし。」
お姉さんの耳僕と形違うし―――とマドカはおそるおそる付け加えた。
「落ち着いてマドカ。ここはレイスフィアと呼ばれている世界で、私たちは今ソグドという国にいるの」
少し額に眉を寄せて難しそうな顔になるマドカ。ほんっとうにコロコロと表情は変わるし、感情の読みやすい小動物のようだ。近くにこんなに可愛い生き物なんていなかったなあ。
「じゃあリーシャ…さんて」
「リーシャ」
「リーシャさ」
「リーシャ」
ちょっと照れているマドカが見たくてつい彼女の唇を人差し指でふさぐ。
「リーシャは偉い人なの?苗字にソグディアって入ってるし」
意外と観察力とか注意力は高いようだ。
「父親が田舎貴族ってだけよ。それよりあなた、客人≪まれびと≫なの?」
「まれびとってなあに?」
きょとんとした顔で問い返すマドカ。かわいい…かわいすぎる。
「異世界からこちらに来る人がたまにいるの。その人たちのことをめったに訪れない客人だからまれびとっていうのよ」
「僕以外にもあっちから来た人っているんだ?」
ええ、と相槌をうちながらあらためてリーシャはマドカを眺める。
(妹にしたいくらいかわいいな)
マドカside>
ひとまずは意志疎通できたことに安心する。コミュニケーションは円滑な人間関係に必須だよね!とかみしめる。少しぼんやりとこちらを見つめているリーシャを見ながら
(とりあえずここのことは教えてもらえそうだなー)と円は計算していた。
リーシャside>
――――――――くしゅんっ
「マドカ?顔色良くないけどあなた大丈夫なの?一晩中そんな恰好で外にいたんでしょう?ちょっと破けてるけど被っておきなさいな」
自分の羽織っていた外套を目の前の少女にかぶせる。短めの上着なのに背丈の差でほとんどワンピースになった。
「リーシャのにおいがするぅ」
襟元をつまんで首をすくめて外套に包まる仕草が愛らしい。
「と、とりあえず私のうちは近くだから、そこで今後のことを考えましょう。マドカも私も休まないといけないしね。」
リーシャの家は冗談のように広かった。
やっと家にヒロインが帰りました。
マドカが普段着着るまでどれくらいかかるだろう。
あ、リーシャはマドカを女の子と誤解してます。そういうの好きでして…すいませ(ry