第二夜 疾走の世界レイスフィア
一話で言い忘れてましたが(書き忘れですね…すいません)、円が飛ばされた世界はレイスフィアって呼ばれております。言うこと言ったし
―――――――さて、第二夜の帳を開こうか?
リーシャside>
「追えっ!!逃がすな」
「森に入ったぞ」
ソグド皇国第38皇女リーシャ・ユル・ソグディアは必死に走っていた。なんとなれば隣国
カスティール帝国軍の襲撃を受け、乗っていた馬車は大破、従者は全員殺されたのだ。
帝都スイルベーンで開かれていた三国会議開催中の夜会の最終夜の最中に勃発したクーデターの混乱の中、リーシャは素早く自国の宿舎にたどりつき、馬車で皇国を目指した、ところが、だ。素早く帝都を制圧し、各国の重鎮を人質に取った反乱軍のリーダーはソグドからの賓客が脱出したのを察知し、軍を動かしたのである。
捕まったらどうなってしまうのか恐ろしくて気が遠くなりそうになる。風の加護を足に付加しているが、4時間も走り詰めなのだ。体が先に参ってしまいそうだが、ここで捕まるわけにはいかない。
父、ソグド皇ムジカ・エル・ソグディアには血族への情など一切ない。父ならば、むしろただの負債が外交カードの一枚に大化けしたと舌舐めずりをするかもしれない。心が挫けてしまいそうになりながらも、父親の権力欲の玩具になることへの反発がリーシャの足に鞭を打っていた。
「いや…もういやいやいやぁああ」
頭を振りながら叫びながらすその長いドレスに躓きかけてそれでも彼女はひた走る。この≪黒い森≫はカスティールとの国境だ。ここを抜けさえすれば希望がある。だんだん近くに聞こえる甲冑の触れ合う音と足音に怯えながら彼女は走っていた。
「止まれぇぇえええ」
甲冑を着た騎士の1人が叫びながらリーシャの肩へ手を伸ばした。
リーシャは必死で前に飛び出した。
マドカside>
「…うるさいな」
段々と夜が白んできたころ、円は眼を開けた。結局眠くなったり寒くなったら動いて、温まったら座って休憩を繰り返していた円だったが途中から立ったまま意識を失い、木にもたれかかって寝ていたのだった。どうやら凍死はしていないようだが、金属音や枝葉をかき分ける音が聞こえて目が覚めたのだろう。
「○▼□×*‘‘≪@!!!!!」
男の興奮して荒げた声が聞こえた。少し遅れて円の目の前の茂みから、女性が飛び出してきた。褐色の肌に、走っているときにつけたのであろう枝葉のまとわりつく銀髪をたなびかせた背の高い女性だ。
一瞬円と女性は見つめあう形になった。綺麗な人だなという感想を寝不足の脳みそにぼんやりと浮かばせたまま―――正面衝突した。
膝が顔面に入りまひた。いひゃい。鼻を押さえつつふらふら立ち上がると、そこには心配そうに顔を覗き込む美人な加害者さんと、不穏な空気で自分たちを取り囲む甲冑のおじさま方。
「――――――――――――――――」
血走った眼で剣を振り上げてなんかよくわかんない言葉でしゃべっている。金髪で青目な時点で日本人じゃないし、そもそもこのご時世に甲冑に剣とは随分とレトロ趣味ではある。
追われていた女性は僕をかばって甲冑野郎と僕の間に立ち、男たちを睨みつけた。無関係そうな僕なんか置いて逃げればいいものを。少しは自分を優先しようよ。呆れながら男たちを観察する。手ぶらの女性一人に六人とは卑怯が過ぎないかい。僕は手元の目覚まし時計を振りかざしてベルを鳴らし、枕とともに思いっきり先頭のコスプレさんに投げつけて女性の手を取って走り出した。
「おとといきやがれっ」
中指を立て舌を突き出して挑発のおまけつきだ。
…前書きでかっこつけて気付いたことがあります。
あのね、物語の中では一夜開けてないんだ(アハハハ
気にしないで行こう。