6.決戦の時
──さて、夕食が完成しましたわ。
コンラッド様の助言で「胃に優しいものから少しづつ、食材も最初は食べやい大きさや、柔らかな物から」を参考にしました。
私なりに考え、今日は挽肉をキャベツで包みスープで煮た物を中心に、あとは卵を出し汁で割り、少しとろみを付け蒸した、トロトロのプリンのような物にしてみました。
「エミリアって料理上手だねぇ?」
マーゴさんが褒めてくださいました。そうだと良いのですが……
一口だけでも、お召し上がりくだされば。
「さて、決戦だ!」
何故か? 勇ましくコンラッド様が剣を掲げました。
「ちょっと、押さないでよ。コンラッド」
「お前が歩くのが遅いんだろマーゴ」
「は? ならお前が先頭行けよ!」
「ふふふ。仲がよろしいのですねえ?」
「は? 何でこんな女タラシと。あ! エミリア気をつけるんだよ? こいつの顔にだまされたら駄目だからね?」
「お前、殴られたいのか?」
「ふふふ。ほらやっぱり仲良しじゃないですか」
私はお二人がとても羨ましく思いました。いつか私も、こんな風に笑いあえたら? と思います。
「コンラッド……」
「う、うん。大丈夫だろう。エミリア嬢なら」
「じゃあ行くよ! 覚悟はいいかい? 皆の衆!」
「おお!」
「はい。参りましょう」
──トントントン
「夕食をお持ちしました」
先ずは最初にマーゴさんが、その後に私が続く段取りだ。
あら? お話には聞いていたけれど随分物静かな感じの御方のようで?
一応何かあればコンラッド様が助けるとおっしゃっていましたが、そんなに気性が荒そうにはお見受けしないのですが?
私は先程の手はず通りにカトラリーを並べる用意をする。
でも折角お会いしたんですもの、ちゃんとご挨拶はやはりするべきよね?
高位の御方に此方からお声掛けするのは駄目なのかしらねぇ? とりあえず挨拶だけしてみましょう。
「はじめまして。此方でお世話になっておりますエミリアと申します」
「おい!」
「ちょ。エミリア!」
その時だった。
先程までの静かな部屋が一変した。
「あ? 誰だお前?」
──ガタン
扉が勝手に閉まり、食器が小刻みに揺れだす。
あら? 何でしょう? 少し寒くなりましたわ。
「エミリア後ろへ」
コンラッド様が私の前に立たれた。
「先日より、うちに遠い国よりお越しくださった男爵令嬢のエミリア嬢だ。お前の食事をマーゴと一緒に今、担当してくれている」
「聞いてない」
「ああ、今日だから報告に来た。何か問題でも?」
俺は、もう引かないと決めた。
こいつを元の世界に戻すのは今しかない。と思ったからだ。
もしもの時は、この命に代えてもこの娘は俺が守る。
いや、守らなければいけないのだ!
「ふん。御大層なことで、たかが男爵の娘如きに」
食器の揺れがおさまった。
私はコンラッド様の横に立ち、再び彼の顔を真っ直ぐ見て続けた。
「キャベツの挽肉包みと、玉子の蒸し物でございます。給仕を務めさせて頂いて宜しいでしょうか?」
「エミリア!」
「あんた! 何を!」
二人が私の肩を掴み制した。
「ふーん。よかろう。コンラッド、マーゴ下がれ」
彼は綺麗な銀髪を掻き上げながら楽しそうに? 笑った。
あら? 美少年!
二人に絶対目を合わすな。目を見るな食われるぞ! と、何度も言われましたが。
食われるだなんて。
吸い込まれそうなぐらい澄んだ綺麗な紫色の瞳。
「ミーシャ!」
「エミリアやめなさい! コンラッド! エミリアを早く連れ出して!」
「だそうだ。お前も出ていけ」
そう言って彼が立ち上ろうとする。
「お待ち下さい。折角陛下の為にお作りしたのですから、一口だけでも召し上がっては如何ですか? それとも陛下は、小さな子でも分かる礼儀すら分からない御方ですか?」
──空気が一瞬にして変わる。
先程より強く震撼し、呼吸するのも苦しくなるぐらい部屋の空気が薄くなり、温度が急激に冷え出した。
──その時だった。
紫色の瞳が光ると同時に、大粒の雨が降り出した。
「止めろ! ミーシャ! 悪かったミーシャ!」
コンラッド様が陛下に近づくが、陛下はコンラッド様を鋭く睨む。
「エミリア、行くわよ!」
私はマーゴさんに腕を引っ張られドアの方に連れて行かれた。
「ふん。逃げるのか」
笑いながら言うのが聞こえ、私はその声に立ち止まり振り向く。
「いえ? では給仕をさせて頂きますわ」
「ちょっとエミリア!」
マーゴさんが私の腕を強く引っ張るが私は、彼女の目を見て首を横に振る。
逃げては駄目。最初に逃げたら、これからずっと逃げることになる。
コンラッド様とマーゴさんは、私を守ると言ってくれた。
ならば私も彼女らとの約束を守らないと。私に出来ることを精一杯やる。
それでも駄目なら仕方ないわ。
やらずに逃げるよりはきっと後悔しないから。
「よかろう。コンラッド、マーゴ邪魔だ」
私は、コンラッドさんの心配そうに見る顔に「大丈夫」との意味で微笑む。
「何かあれば直ぐに、外で待っているから」
「エミリア本当に大丈夫? 無理してない?」
最後まで私を心配し続ける二人に「大丈夫」との意で頷いた。
「では、失礼しますね?」




