17.歓喜の時
──柔らかな優しい陽射しが窓から入り込み、心地良い風が吹く爽やかな朝だった。
だがそこは今、一触即発とも言える張り詰めた空気が漂っていた。
「だからアンタが口出すことじゃないでしょう! 決めるのはエミリアでしょう!」
「そんなことは俺だって分かっているさ! それを言っているんじゃないだろ! お前は仲間であるエミリアちゃんを見捨てるのか?」
「は? 見捨てるって? 何言ってるの? エミリアだってもう子供じゃないんだ。エミリア自身の意思で決めるなら、私達がとやかく言うのはおかしいって言ってるの!」
どうしましょう……
朝からマーゴさんとコンラッドさんが……
原因は、また私なのです。
陛下に昨日言われた、食事の際にご一緒することになったことをマーゴさんに話していたら、ちょうど珍しく朝からコンラッドさんが来られ、その事について怒り出したのです。
「お二人とも、もうお止め下さい……陛下だってお一人でお食事をされるのは、お淋しいと思いませんか? 二人とも私のことをこんなに心配して下さって。毎回粗相をして陛下にはご迷惑を掛けていますが、私頑張りますので。だからもうお止め下さい……お願いです」
「……」
「ほら見ろ。コンラッドの馬鹿」
コンラッドが心配しているのはそっちじゃないけどね。
いくらミーシャでも、嫌がるエミリアに無理強いはしないだろう。
う、うん。きっと大丈夫。た、多分?
まぁ、こう見えてエミリアって結構度胸ある? 強い子だと最近少し分かってきたし身の危険を感じたらちゃんと逃げるはず? うん。大丈夫……きっと?
「分かったよエミリアちゃん。今回は君の意見を尊重しよう。でも危険を感じたら直ぐに逃げること! いいね?」
アンタよく弟のことそこまで言えるなぁ。って私も大概ではあるが。
一番危険なのはミーシャじゃないよ。アンタだよ。
その仮面の下にある……帝位を継ぐつもりがない?
マーゴは、別の心配を一人していた……
──同じ過ちは二度と起こしてはいけないと。
「エミリアちゃんこれを。先日約束していた記念のプレゼントだ」
コンラッドさんが私に優しく微笑みながら大きな紙袋を目の前に差し出す。
良いのでしょうか? 仲間に入れて頂けただけでも嬉しいのに、こんなプレゼントまで。
どうしましょう……思わずマーゴさんを見る。
「さぁ遠慮しないで? 本当は君と一緒に街に買いに行きたかったんだけどね? でも中々時間が合わなくて。とりあえず勝手に選ばせて貰ったよ。ごめんね? 次は必ず一緒に行こう!」
「え? 次って。仲間に入れて頂いただけでも本当に嬉しいのに。こんなプレゼントまで。どうしましょう……」
どうして良いのか本当に分からず、再びマーゴさんに視線を移してしまう。
「良んじゃない? 貰っておけば。金は腐るほどあるだろうしな。あ、コンラッド私のも買ってくれて良いんだよ? エミリアの保護者役の報酬としてな?」
「新手の集りかよ……」
コンラッドは苦笑いする。
「あ! では今度みんなで一緒に街に行きませんか? 陛下にも声をお掛けしてみます!」
「え?」
「はぁ?」
いやいやいや。絶対無理。ないないない。
マーゴとコンラッドは同時に互いの顔を見るが、自分と同じ反応であったことに何故か二人は安心した。
今日一番、二人の意見が見事に一致した瞬間だった。
「えっと……エミリア。陛下にいきなりはね? 流石にね? うん。ちょっとね? うん……」
何言ってんだろ私。コンラッドに助けを求める。
は? 俺かよ? 何とかしろよ。保護者だろ!!
再び微妙な空気が部屋に漂う。
だが先程のように一触即発の張り詰めた空気とは違い、今回はどんよりした違う意味の重い空気であった。
「また、私が皆さんを困らせるようなことを?」
エミリアが心配そうな顔で私達の顔をじっと見る。
「コンラッド!」
「は? 何で俺だよ!」
「アンタのせいだろ!」
「何でだよ!」
「アンタが悪い!」
「ふふふ。やっぱり仲良しさんですね?」
「え?」
「何でこんな奴と!」
エミリアは二人がいつもの調子に戻ったことが嬉しくて、二人の戯れあいを楽しそうに眺めていた。
「ってアンタ時間! サラダは出来ているけれど、どうすんだよ! もう仕方ない手伝うよ!」
「ああ! 忘れてました!! マーゴさん有難う御座います」
「この子ったら、コンラッド邪魔! デカイんだから!」
「邪魔って……」
◇
マーゴさんのお陰で何とか間に合いました。良かったです。
二人分の朝食を並べたワゴンを見ながらエミリアは安堵した。
そして新しい服! コンラッドさんから頂いた服を着てみました。
陛下がどんなお顔をされるのかちょっと楽しみです。
──トントントン
「おはようございます。朝食をお持ちしました。失礼しますよぉ~~」
何だかワクワクしますね? 誰かと一緒に食事を食べるだなんて何年振りでしょう!
エミリアは、コンラッドにプレゼントされた真新しい服に身を包み、マーゴにも手伝って貰った食事を見ながら、心躍る気持ちで舞い上がっていた。
生まれて初めて出来た「仲間」によってこの機会が与えられ、そして「人間」と一緒に食事が出来ることへの期待と喜びに、高まる鼓動が今、最頂点に達していた。
だが、その気持ちは一瞬にして掻き消されることになるとは、この時のエミリアには到底想像すら出来ていなかった──




