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追放令嬢、氷帝教育はじめたら何故か最強に?〜パンは剣よりも強しですわ!  作者: 蒼良美月
第二章 それぞれの想い

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16.秘密の約束

 ──あ、すっかり忘れてしまっていました。私って確か婚約者として来たような?

 どうしましょう。正直に言うほうが良いのでしょうか? それともこのまま言わないでいたほうが? 


 婚約者としてって言ってしまって陛下に「いらない」と言われてしまうと私はここを追い出されてしまうのかしら?


 料理番として就職したなら此処にいても良いってマーゴさんもコンラッドさんも言ってくださったし……


 でも、嘘をつくのはやはり駄目ですよねぇ。

 嘘をつかれて仲良くなっても嬉しくないですもの。ちゃんと正直に話して正式に働かせて貰うようにお願いするしかないですわね。



 ──なんだこいつ? 顔色がころころ先程から変わって。またどうせ変なことでも一人で考えているのだろうけれど変な奴。


 目の前で悩んでいる? かと思えば考えごとをしている? かと思えば何やら閃いたような顔をして、一人で納得? しているような女の姿を不思議そうに見ていたが、流石にあまりにも自分を放置している、この状態にしびれを切らす。


「お前いつまで、そうしているつもりだ?」


「あ、ごめんなさい。私ったらまた!」


「で? 何しに来た? 怪しい者であるなら生きてこの城から出れると思うなよ?」


 殺意を込めることをせず、揶揄うつもりでエミリアを見る。


 だが、ちょっとした悪戯のつもりで行ったこの行為は、男性を知らない、いや長年まともに人と話しすらしていなかったエミリアにとって、それが「自分への好意からきた行動」と認識するにはあまりにもハードルが高すぎたのだった。


「ご、ごめん、なさい……わ、わたし、そんなつもりっで、では。ヒックッ、た、ただ此方に置いていただけるだけで……だ、だから追い出さないで、お願いだから追い出さないでください……」



 目の前で泣き崩れる女に、泣く子も黙ると揶揄されるミハエルは驚愕した。


 ちょ、ちょっ待て。待て。誰も本当に殺すなんて言ってないだろ。

 あ、でもちょっと言ったか? ってあれを本気にするか? 


 このとき男もまた自分の容姿を理解出来ていなかった。

「魔王」や「氷帝」と言われるには、それ相応の理由が当然あるからだ。


「悪かったって、追い出したりしないから泣くな……」


 血の繋がらない者へ彼が謝った、人生初の貴重な瞬間だった。


「ほ、ほん、とおにれすかぁ? ぜったいですかぁ?」


 しまった! また約束をさされてしまった俺としたことが。

 最悪だ……そもそも泣き過ぎだろう。

 俺が悪いみたいじゃないか。


「わ、分かったって。約束するからもう泣くな」


 幼少期から奇異な目で周りから見られ、立場上周りは気遣うふりをしたが誰一人、正面から自分を見ようとする者はいなかった。父親ですら気味悪がって近づこうとしなかったぐらいだ。


 男は目の前の小さく(うずくま)った女の頭に手を伸ばそうとするが、躊躇(ためら)ってしまう。


 避けられるのではないだろうか?

 怖がられるのではないだろうか?

 自分を拒絶されるのではないだろうか?


 いつからだろうか。

 拒絶されることへの不安から、ソフィア以外と接することを恐れた。

 マーゴやコンラッドにでさえ、自分から近づくことを止めた。


 静まり返った部屋に二人だけ。

 耳を澄ませば、互いの鼓動が聞こえてくるのではないかと思える程の距離。


 長い綺麗な指が、小刻みに震えていた。


 触れてしまって、またあの目で見られたら。近づいてしまって、また拒絶されたら。


 床に伝う一粒の雫。


 もう私を無くさないで──

 独りにしないで下さい。


 ──私を見て。


 どちらからともなく指を絡めていた。


 指先から伝わる温もりが震える心を繋ぐ時、互いの存在を認め合うようにより強く絡まり合い焦がれる。


「なぁ。そろそろ学習しろよ」

「え?」

「嫌?」


 消え入りそうな声で聞いてきた彼の顔を見ると、小刻みに睫毛が震えていた。


「どうしたら?」


 額にそっと唇が触れた瞬間、優しく呟く。


「あほ」

「ひどいです」

「お前がな」



「なぁ、晩飯は?」

「は! 忘れてましたぁ!! どうしましょう。冷たくなっちゃいましたぁ」

「最悪」


「まぁ待つとするか」

「え? 夕食をですか? 温め直すほうが良いですよねえ?」


 そっちじゃねぇよ。

 呆れ顔で見つめていたその時だった。



 ──ガシャン


「最悪だろ、お前」

「きゃぁああ。どうしましょう! 本当にごめんなさい!」

「……ありえない」


 本当に私ったら、いつも肝心なところで駄目駄目です。




「グレイ」


 ──ギイィッ


「失礼します」



 え? あれ? この人何処かで? 

 陛下の一言で部屋に入って来た男性を私は、まじまじと見てしまう。


 誰かに似ているような?


「エミリア嬢初めまして」


 片目に黒い眼帯をした長身の男性が私に優雅に微笑みながら頭を下げた。


「あ、此方こそ初めまして。って、こんな所にもドア? があったのですね?」


 あ! この部屋に何度か来ましたが一度も陛下に途中の廊下でお会いしたことが無かったのはそういうことでしたのね?


「警備上の問題ですので、どうぞ御内密に願えますか? エミリア嬢?」


 私がその入口をずっと見ていたことに気付きグレイ? さんと言われた方が、人差し指を口の前にすっと立てて、軽く片目を瞑った。


「あ、勿論です。そうですよね。色々ありますものね」


 お国の一番偉い御方ですもの、秘密のことがあるのは当然ですわね。心得ましたわ私。




「直ぐに替りをご用意しますので、此方でお待ち下さいませ」


 そう言ってグレイさんは、華麗な手つきで、まるで踊っているように鮮やかに床に落ちてしまった「オムレツ」をあっと言う間に片付けたかと思うと、流れるように去って行った。


「すごーーい!! グレイさんって魔術師みたいな方ですねえ? 陛下?」

「魔術師……マーゴやコンラッドにも言うなよ。グレイは職務上極秘な人間だ」

「わかりました。お約束します」


 わかりました。絶対に誰にも言いませんわ。私、約束は守ります!


「えへへ」

「な、何だ。気持ち悪い……」


「あ、ごめんなさい。だって陛下と私の二人だけの秘密って。何かちょっと嬉しくて」

「……お前本当に大丈夫か? 守れるのか約束……」


 失敗したかも。こいつにグレイを会わせるべきではなかったかもなあ……

 目の前でニヤニヤしているエミリアを見ながら、ミハエルは後悔の念が拭えなかった。



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