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追放令嬢、氷帝教育はじめたら何故か最強に?〜パンは剣よりも強しですわ!  作者: 蒼良美月
第二章 それぞれの想い

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15.思惑

 ──マーゴから聞いて、来てみたら鶏と戯れている女の姿があった。


「一体何やっているの? エミリアちゃん?」

「あ、コンラッドさん! こんにちは~~あ、待って~~クウさん!」

「クゥさ、さん?」


 コンラッドは、真剣な顔をして鶏を追いかける少女の姿に、堪らず涙を流しながら大笑いしてしまう。。


「ハハハッ。ハハハハハッ。駄目だ、お腹痛い。ハハハッ」

「ちょっとぉ、コンラッドさん笑ってないで、一緒に捕まえて下さいよ~~」


 コンラッドは呆気にとられ、珍しく口をぽかんと開けていた。


 妾の子とは言え、前皇帝の紛れもない息子である。帝位こそ嫡男のミハエルが継いだが、ルーベンス軍の将軍であることには今も変わりはない。


 そんな自分に、鶏を捕まえろと言う娘。


「え? あっ。う、うん。あ! エミリアちゃん、あっち行った早く!」


「まって~~クゥさん! あ、そぅっとですよ? コンラッドさん。私が後ろから行きますね?」

「よし任せろ! いいかい行くよ? さん、に、いち、それ!」


「やったぁ!」


 鶏の羽を髪に付けたまま嬉しそうに微笑む少女に、久しぶりに温かい気持ちと、もっと彼女を知りたい。いや近づきたい。欲しい。と、コンラッドは衝動に駆られていた。


「なんで鶏が?」


「あ、クゥさんに玉子を貰いに行って、陛下の夕食用にと思って。そしたら柵から出ちゃって……あ、コンラッドさんにまで手伝って貰ってすいませんでした。クゥさん。さぁ帰りましょうねぇ~~」


 クゥさんって……鶏に名前付けているのか。そして俺より鶏か……


 丁寧に深く頭を下げ、にっこり微笑んだかと思うと、自分のことより鶏を心配するかのように踵を返す女性の後ろ姿を見ながら、コンラッドは苦笑いをしていた。


 軍一、いや帝国一の色男と持て囃されたコンラッドだったが、女性に対し初めて敗北感を感じた瞬間だった。


 金髪碧眼、短髪巻き毛で優しそうで温和、尚且つ気品と大人の色気を兼ね揃えた王子様を絵に描いたような長身の男の背中が、小さく見えた。


 コンラッドは先程地面に置いた、気づかれもしなかった大きな紙袋に視線を移す。


「お前も置いてきぼりか……」


 (あるじ)が去ってしまい、地面に寂しそうに取り残された紙袋の底を手で綺麗に払い、再び抱えた。






 ◇




「今日の夕食は何にするの? エミリア?」


「今日はねぇ。オムレツにします。あ! また陛下にちゃんと好きなものを聞いてなかった!」


 陛下ったら、私を食べるなんて冗談言うから忘れてましたわ。


「エミリア……こっちに来なさい。その格好でアンタまた行く気だったのかい?」


 マーゴはもう驚くことはなかったが、相変わらずの様子に何となく温かな気持ちになっていた。あれからもう、三年か……


 玉子を楽しそうにかき混ぜている、エミリアの後ろ姿を見ながら懐かしい気持ちになっていた。



「本当に一人で大丈夫? 無理してないエミリア? 怖かったら直ぐ逃げたらいいんだからね?」


「マーゴさん大丈夫ですよ? 怖いだなんてお優しいですよ?」

「……う、うん。そうだね?」


 優しいねぇ……


 マーゴは敢えて何も言わなかった。








 ◇





「陛下~~いらっしゃいますか? 夕食をお持ちしましたよ? 入りますよ?」


 ──ガチャリ



「今回は完璧ですよ! ちゃんとカトラリーの予備も持ってきましたし。お任せ下さい! ちゃんと学習しました」


 成長した姿をおみせして差し上げましょう! 

 エミリアは小さな背を目一杯大きく見せるように、のけぞって見せた。


「さぁさ。どうぞどうぞ」


 ──ガシャンッ



「……」


 微妙な沈黙が続く。

 エミリアは床に落ちたナイフを拾う為にしゃがみ、男の顔を見る。


「………」


 男は無言で見つめていた。


「えへへ。落としちゃいました。直ぐに洗って来ます!」

「あほ」

「えへへ」


 悪魔と揶揄される男は呆れた表情を見せたが、そこには人々が言うような冷血さや、残忍さを微塵も感じさせない、優しい眼差しだった。



「お待たせしました!」


「……食い難い」

「あ? 切りますか?」

「また餌になるからいい。そうではない。じっと見るな」

「あ! ごめんなさい」


 そうですよねぇ。目の前でじっと食べるところを見られながらの食事って緊張しますよねえ。



 拷問かよ。じっと見つめるなよ……


「お前さぁ。自分のも次から持って来い」


 面倒くさいが、じっとこうして一口づつ見られるよりはまぁ。


「え? ご一緒しても宜しいのですか?」


 陛下と一緒にお食事を? それはとても嬉しいことです! 陛下の好みもこれで聞きやすくなりますし、もっと陛下のことを知ることが出来そうです!


「楽しみですね? 陛下?」

「は? 何が?」


「だって、誰かと一緒にお食事をするだなんて何年振りでしょう! とても嬉しいです私!」


 キラキラした瞳で真っ直ぐ自分を見つめてくる女に、どう返事をして良いのかが分からず、困惑する。


「陛下?」

「いや、何でもない」


「………」


 やっぱりあまり馴れ馴れしくしたら、お嫌なのかしら? 高貴な御方ですものね。

 反省します。動物以外と長くお話したことがないので分かりません。


 あ、マーゴさんとコンラッドさんは、仲間なので別です。でも陛下は仲間と言うのは失礼ですしねぇ?


「何だ? 珍しく考えごとか?」


「あ、いえ。実は私……恥ずかしい話なのですが。動物以外と長く話したことがなくてですねぇ」


「は?」


 いきなり何をこいつ言い出すんだ?


「あ! ごめんなさい。私ったら陛下にこんな話」

「構わない。話してみろ」


「え?」


「で、ですね。結局誰とも話すことが無くなってですね、コッコさんと朝はお話して、あ、コッコさんと言うのはですね、鶏でして~~~」


 この話まだ続くのか……いつになったら終わるのだ?

 失敗した……


「で、父様に言われて、此方に来たのです……」


 長いわ! 再婚した継母と娘らが、此奴が邪魔になって追い出したって話しだろ?

 ついでに婚約者だった男が他の女がよくなったって。

 まぁ想定通りだったな。


「で、お前は何でうちの国に来たのだ? 飯番に来たのか?」


 男はそう言って笑う。

 その笑みは、先程までの穏やかな表情とは打って変わり、妖艶さを感じさせる何かを孕んだ目だった。

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